卓越したストーリー構成と画風、そして豊富な知識をバックグラウンドに作品を描く星野之宣。ハードSFに古代史など、壮大かつ緻密に描かれた作品のなかでも特におすすめの5つをご紹介します。
1975年にデビューした漫画家、星野之宣(ほしのゆきのぶ)。卓越した科学の知識をもとに描かれるハードSFや、古代史などを扱った伝奇作品などを手掛け、アニメ化やテレビドラマ化されている作品もあります。
宇宙など壮大な舞台を用いながらもリアリティを感じさせるストーリーと、その雰囲気にあった画風から高い評価と人気を得ていて、いつしか巨匠として知られるようになりました。
SF文学で高い人気を誇るジェイムズ・P・ホーガンの小説を原作にした作品も有名です。
東亜文化大学で民俗学を教える宗像(むなかた)は、ある日、教え子の女子学生・伊香真奈から古い鉄剣を見せられました。
彼女の実家にある祠の中から見つかったというのですが、宗像はすぐにその鉄剣が古来に使われていた「七星剣」と呼ばれるものだと気が付き……!?
- 著者
- 星野 之宣
- 出版日
- 2005-08-01
民俗学者の宗像が、日本各地の伝承の謎を解き明かしていく伝奇ミステリー作品です。
彼の地味な講義は大半の学生にとってつまらないものらしく、授業はいつもだらけた雰囲気でした。そんななか、唯一熱心に聞いてくれているのが、伊香真奈です。彼女が持ちこんできた鉄剣を宗像が調べるところから物語は始まります。
描かれるのは、誰もが知っているような昔ばなしやおとぎ話。これらの伝承に対し、宗像がさまざまな仮説を立てながら謎を解き明かしていく様子は、ミステリーとしてはもちろん民俗学としても興味を掻き立てるでしょう。
作中の仮設はどれも論理的で筋が通っていて、納得のできるものばかり。細部にまでこだわりのある物語で、重厚な本格ミステリ小説を読む感覚と似ているかもしれません。
20世紀後半、世界では有人の宇宙飛行をはじめ宇宙ステーションの開発、地球外生命体の探索、異星への移住計画を着々と進めていました。
そんななか、有人飛行のテストとして、猿が宇宙へと打ち上げられます……。
- 著者
- 星野 之宣
- 出版日
- 1985-08-18
タイトルを見て察するかもしれませんが、本作はSFの名作映画「2001年宇宙の旅」のオマージュ。特に冒頭のシーンは、映画を観たことのある方ならばすぐに繋がりを理解できるはずです。
物語は、人類の宇宙進出が本格的になってから衰退していくまでをオムニバス形式で描いています。まるで開拓史を読んでいるような壮大さで、未来というよりはむしろ実際に起こった話のよう。
作中での人類は地球を飛び出して太陽系を席巻していくことになるのですが、そのなかで描かれる異星の美しさは圧倒的。作画レベルの高さを実感できます。
宇宙が舞台ですが、物語が小難しくなっているわけではなく、異星を巡る冒険譚のようにも楽しめます。SFにあまり馴染みが無い方も、もちろん映画「2001年宇宙の旅」が好きな方も、ぜひチェックしてみてください。
西暦205X年、月に降り立った人類は、そこで恐るべき発見をしました。なんと、深紅の宇宙服をまとった死体があったのです。
しかし調査をしてみると、過去に深紅の宇宙服を着て月で亡くなった人物は存在しません。
不可思議な事実に首をひねりつつ、死体をさらに詳しく調べてみると……。
- 著者
- 星野 之宣
- 出版日
- 2011-06-30
原作はSF文学界の巨匠、ジェームズ・P・ホーガンの小説です。日本でのファンも多く、優秀なSF作品に与えられる文学賞「星雲賞」も受賞しています。
ちなみに星野は、本作以外にもホーガンの作品を漫画化していて、本人からも絶賛されたとのこと。いわばお墨付きです。
物語は、月で謎の死体が発見されたところから始まります。調査の結果たどり着いたのは、なんとその死体は5万年も前の人間だったということ。ネアンデルタール人やクロマニョン人の時代の人間が、どうして月にいるのか?さまざまな仮説をたてて推理し、解き明かしていくのです。
仮説といえど、その背景にあるのは深い見識のもとに描かれる論理的な道筋で、まるで現実のようなリアリティを感じることができます。このあたりは星野作品の醍醐味だといえるでしょう。
時は2020年、物理学者のチャールズ・ロスは、過去にメッセージを送る実験に成功します。
ただ現段階では、最大でも60秒前まで。何とかその時間を延ばそうと研究を続けるチャールズでしたが、その過程で、過去・現在・未来に関わるある事実を突き止め……。
- 著者
- 星野 之宣
- 出版日
- 2013-05-30
本作も、ホーガンの小説を原作として、星野の解釈に基づいた新たな視点が加えられた作品。チャールズ・ロスによって発見された過去にメッセージを送る方法と、それによって発見された去と現在、そして未来の関係性は、科学的な知識をもとに描かれています。
「時間」というSF作品としてはオーソドックスなテーマが用いられているため、王道モノとしても楽しめるでしょう。
一方で登場人物たちの切ないラブストーリーも描かれているので、SF作品をあまり読んだことが無い人も十分に親しめる内容になっています。
東京の大学に通う男子大学生の雨宮瀑(あまみやたき)は、ある日、故郷の母が危篤になったという知らせを受けて、慌てて帰省しました。
なんとか看取ることはできましたが、死の淵で母は、「人の考えを簡単に信じちゃいけない」という奇妙な言葉を伝えてきたのです。
その後瀑の前に現れたのは、穿地(うがち)と名乗る弁護士。瀑の後見人だと言い、母の遺産を受け取るためにはある条件があると伝えてきました……。
- 著者
- 星野 之宣
- 出版日
- 2015-10-30
宇宙や古代史を巡る壮大なストーリーを多く手掛ける星野ですが、本作はそれらとは一線を画し、人間の「意識」に目が向けられています。
主人公の瀑は、母の遺産を受け取るための条件として、賽木超心理学研究所というところで働くことになりました。そこは、さまざまな心霊現象を最新の科学で解き明かす研究をしているようです。
そしてそんな彼の前に自分と瓜二つの男が現れ、なんと目の前で投身自殺をしてしまいます。どうやらその男は瀑の生き別れた双子の兄弟で、さらに彼の体には脳がないことがわかりました。
そして瀑も、実は脳がなかったのです……。
普通に考えれば生きているわけがないのですが、そんな主人公にまつわる謎と心霊現象を絡めながら、物語は進んでいきます。
単純なホラーやオカルト話ではなく、人間の「意識」という難しいテーマにを追求したれっきとしたSF作品です。
いかがでしたか?SFや歴史ものなどのジャンルにあまり触れない方にとっては、馴染みのない作品ばかりかもしれませんが、どれも読みごたえは抜群。ぜひ手に取ってみてください。