吉田戦車のおすすめ漫画5選!シュールな絵と不条理ギャグが魅力

更新:2021.11.12

吉田戦車と言えば、奇妙に愛嬌のあるかわうそキャラの生みの親にして、不条理ギャグ漫画の草分け的存在です。そのシュールな世界観は他の追随を許しません。今回は吉田戦車の不条理ワールドを周知すべく、おすすめ漫画を5作品ご紹介したいと思います。

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不条理ギャグのパイオニア、シュールな世界観の吉田戦車

吉田戦車(よしだせんしゃ)は1963年8月11日生まれ、岩手県出身の男性漫画家です。1985年に雑誌「ポップアップ」からデビューしました。配偶者は同じく漫画家の伊藤理佐(いとうりさ)。

高校卒業後に上京して和光大学へと入学しますが、中退。その後、1985年にアダルト系の雑誌「ポップアップ」からショート4コマを発表するようになって商業デビューを果たしました。ペンネームは当時の担当編集にして、高校の同級生でもあった友人に付けられたそうです。

1988年の『戦え!軍人くん』で注目を集め、翌1989年に「ビッグコミックスピリッツ」誌上で連載開始した『伝染るんです。』が大ヒットし、一躍有名作家となりました。

当初は4コマ漫画を主な活動場所にしていましたが、ストーリー仕立ての作品も得意としています。その作風は独特で、どこかシニカルでシュールな笑いを生み出しました。後にその作風が「不条理ギャグ」という潮流を生み出すことにもなったのです。人語を話す動物が多数登場するのも特徴。

代表作は『伝染るんです。』、『ぷりぷり県』など。

わけのわからなさが病み付き!不条理ギャグの元祖『伝染るんです。』

「かわうそ」や「かっぱ」、「ヤクザ」に「こけし」……。なんの脈絡もない登場人物が、前後の関係、あるいは常識を無視して好き勝手なやりとりを繰り返していきます。

常識では計れない不条理な4コマ世界。

著者
吉田 戦車
出版日
1998-11-01

本作は1989年から「ビッグコミックスピリッツ」で連載されていた作品です。

4コマに限らず、基本的に創作物の大原則として起承転結という約束事があります。ギャグに限って平たく言えば「フリがあって、ボケがあって、ツッコミが入って、オチる」という一連の流れです。どの作家のいかなる作品であれ、このプロセスは厳守されてきました。

ところは本作では、この起承転結を意図的に無視したところに最大の特徴があります。いきなりわけがわからないことが始まって、フォローもなく投げっぱなし。あるあるネタのようで微妙にあるあるではない、不思議なネタが連続します。

そしてもう1つ。擬人化されたかわうそやかっぱ、かえるといった非常にアクの強いキャラが登場したことで、本作の不条理な世界観を決定付けました。特にかわうそは吉田戦車の代名詞のようになっており、後の作品にも受け継がれていきます。

深く考えれば考えるほど、2重の意味でドツボにはまる、不条理4コマの決定版です。

架空の地方を巡る笑いと混沌の郷土愛ギャグ漫画!『ぷりぷり県』

五郎商事に就職した主人公つとむは、田舎から上京してきます。彼は常に奇妙なずきんを被っている、東京に異常な敵愾心を持つ青年でした。彼の故郷は「ぷりぷり県」と言って、歪んだ地方出身コンプレックスがそうさせるのでした。

やがて会社に馴染んでいくにつれ、つとむは他県出身の同僚と競うように郷土愛を見せていくことになります。

著者
吉田 戦車
出版日
2012-03-15

本作は1995年から「ビッグコミックスピリッツ」で連載されていた作品です。

この作品を語る上でもっとも外せないのは、架空の県であるぷりぷり県でしょう。本作の不条理要素のほとんど全てが、このぷりぷり県に集約されていると言っても過言ではありません。

関東近郊では、よく群馬県や埼玉県が自虐ネタとして語られることが多いですが、つとむのコンプレックスもそれと同じです。当初は照れたり恥ずかしがって表に出しませんでしたが、後には開き直って奇妙な慣習を開陳するようになって笑いを誘います。

ぷりぷり県については具体的な言及こそされませんが、その風土文化、風習がつとむや他の出身者の行動から垣間見ることが出来ます。断片から想像される捉えどころのない輪郭が、読者の脳裏で奇妙奇天烈に構築されていくところはさすがの不条理ギャグ。

ぷりぷり県に違和感を感じなくなったら、あなたも立派なぷりぷり県人です。

前代未聞の「おかゆ」漫画!猫と過ごす健康生活『おかゆネコ』

菊川八郎は小さなビール会社「コトリビール」のしがない営業マンです。両親が長期旅行で長く家を空けることになったため、彼が実家の猫「ツブ」を預かることになりました。

ツブは人間の言葉を喋る猫で、不健康極まりなかった八郎の食生活に口出しし、体のためと言っておかゆを中心としたメニューを毎日作りだすのでした。

著者
吉田 戦車
出版日
2013-02-28

本作は2013年から「ビッグコミックスピリッツ」で連載されていた作品です。

もはや吉田戦車の作品で、唐突に喋る動物が出てきても驚くことはありませんが、一応ツブには人語を話すちゃんとした設定がされています。それは動物が突然喋り出す「しゃべり病」にかかったためです。吉田戦車ワールドでは比較的ちゃんとした設定ですね。

猫とおかゆとはまた珍妙な組み合わせに思えるでしょう。ツブはやたらとおかゆにこだわりを持っていますが、元の飼い主であった八郎の亡き祖母がおかゆ好きだったためだとか。吉田戦車に理屈を求めてはいけません。上司の猫好きな多田課長や同僚の俵さん、ツブのライバル「おかずイヌ」のガツなどやっぱりアクの強い脇役も健在。

基本的にはいつもの(いつもよりは若干不条理抑え気味)ノリで話が進み、おかゆで話が締められる形となっています。シメのおかゆだけに。

ツブは猫だけに猫舌で味見が出来ないので、結構適当な味付けかつ薄味ばかりですが、読んでいる結構美味しそうに見えてくるから不思議です。材料や手順が描かれているので、簡単に再現出来そうです。ナンセンスギャグと思わせて、意外と実用的なレシピ。

現代人は何かと心や栄養バランスを崩しがちですが、そう言った自覚症状のある方にうってつけでしょう。本作は胃にも人にも優しい、世にも珍しいおかゆ専門漫画となっています。

親をするのも大変だけど、やっぱり子育てって、いいな『まんが親』

アラフィフ漫画家の吉田戦車と、アラフォー漫画家の吉田理佐。結婚2年目にして、2人は待望の赤ちゃんを授かりました。

出産前の覚悟、出産の苦労、そして産後のあれやこれやのドタバタ。漫画家の夫がイクメンになって、積極的に育児に挑戦する子育て奮闘漫画です。

著者
吉田 戦車
出版日
2011-11-30

本作は2011年から「ビッグコミックオリジナル」で連載されていた作品です。

不条理ギャグ漫画家の吉田戦車としてはらしくありませんが、本作は育児現場の実録ショートエッセイ漫画となっています。ただ、完全に不条理がないかと言えばそうでもありません。なんとなれば、生まれたばかりの乳児の例を挙げるまでもなく、子供自身が幼児ぐらいまでは不条理の塊だからです。

育児未体験の方にはその実情が新鮮に映るでしょうし、子育て中、もしくは子育てを終えた方には共感出来るあるあるネタが多数出てきます。

苦労の多い子育ての全てが楽しいものとは言えませんが、子供が少しずつ成長していく様子を見守るのは、他には代えがたい感慨があります。父親目線で綴られるエピソードの数々は、そうした感動を追体験させてくれるでしょう。子供のやりとりだけではなく、夫婦間の会話もまたちょっと奇抜で、ギャグ漫画家夫婦ならで(?)はの発想が面白いのです。

吉田家の子育てについては、母親の伊藤理佐視点から描かれる『おかあさんの扉』もあるので、興味の湧いた方はぜひこちらもどうぞ。

これこそ吉田戦車!原点回帰した不条理4コマ漫画『殴るぞ!』

本作には人間、犬、かわうそ、はたまた吉田戦車が登場します。彼らが代わる代わる4コマに登壇し、非常識で荒唐無稽な言動を繰り返しては、不条理な日常を淡々と過ごしていきます。

著者
吉田 戦車
出版日
2002-09-01

本作は2001年から「ビッグコミックスピリッツ」で連載されていた作品です。足かけ5年にわたって連載された4コマ漫画で、吉田戦車作品としては2018年現在で最長のものとなっています。

4コマ作品でありながら、それぞれの話で微妙に繋がりのある連作にもなっているのが特徴です。さしずめ不条理の揺り戻しか、不条理の連鎖と言ったところでしょうか。表現を『伝染るんです。』に先祖返りさせつつ、パワーアップを果たしています。エッセイでもないのに、吉田戦車本人が出てきているところがもう滅茶苦茶です。

飼い主の先の先を読む名もなき犬や、常に主人の斜め上を行くかわうその和歌子など、強烈な個性を発揮するキャラも多数。ちなみに和歌子は『伝染るんです。』のかわうそ君とはそっくりですが、性別の異なる別人(別かわうそ?)です。

前述の『伝染るんです。』や『ぷりぷり県』のキャラもしばしば顔を見せて、さながら吉田戦車作品の総決算とも言える作品となっています。

いかがでしたか? 今回ご紹介した内容で吉田戦車の魅力が伝わったでしょうか。わけがわからない、という印象になったのであれば、正確に伝わった証拠です。わけがわからないものをわからないまま楽しむのが吉田戦車を読む作法なのだと思います。

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