年齢を重ねるごとに厳しくなってくるのが、「結婚しないの?」コールです。身に覚えはありますでしょうか。わたしはあります。しかし、婚活は未知の領域、正直踏み出すのに勇気がいる、という方にもおすすめの、婚活漫画を集めてみました。
立木早子『早子先生、結婚するって本当ですか?』は、田舎で小学校教師をしている36歳の早子先生の、ゆるっとした婚活を描いたコミックエッセイです。基本は4コマで進んでいるので読みやすく、まるっとした絵柄のキャラクターの素朴な可愛らしさが魅力的。元々は立木早子のブログに掲載されていたもので、『早子先生、婚活の時間です』、『早子先生、結婚はまだですか?』、『早子先生、結婚するって本当ですか?』と続き、不定期ながらブログで新作がアップされています。
36歳の早子先生は好きな人と結婚をしたいという思いもあり、焦ることなく日々仕事に励んでいます。同僚のミカ先生は28歳。20代で結婚したいと合コンを開催するなど奮闘していますが、なかなかチャンスに恵まれません。出会いが無いなら出会える場所に行けばいいとばかりに、ミカ先生は早子先生に結婚相談所の入会を持ち掛けます。成り行きで入会した早子先生でしたが、こぎつけたお見合い相手とは会話が弾まず、前途多難。代わりに参加した合コンで結婚への誓いを新たにした早子先生、ミカ先生、梅子先生、どんぐりちゃんの女性陣4人は、「婚活同盟」を結びます。
- 著者
- 立木早子
- 出版日
- 2014-10-17
早子先生は家族との生活に不満を感じていませんが、漠然とした寂しさや不安を抱えています。仕事は嫌いじゃないのに、仕事に行くまでが嫌だという感覚は、多くの人が共感できるのではないでしょうか。他者との円満な関係を築くために多くの言葉を飲み込み、心の中で複雑な感情が渦巻いているのです。婚活をする中で出会った人、物事に対する冷静な見方や自分がどう生きるのかといった考え方には、頷ける部分がたくさんあるのではないでしょうか。
作中には、父親が倒れたことにより、結婚か実家に残るかの選択を迫られる場面が登場します。
「何かを捨てないと手に入らない幸せだったらいらない」(『早子先生、結婚するって本当ですか?』より引用)
早子先生の言葉は、結婚が何かと等価交換して得なければならない幸せではない、と気づかせてくれます。アドバイスというほど押しつけがましくなく、さりげなく違う道を提示してくれる本作は、婚活の教科書でもあるのです。
36歳からスタートした早子先生の婚活は38歳まで続きます。ミカ先生は焦っていますが、早子先生は婚活に対して鷹揚に構えているため、漠然とした「結婚しなくちゃ!」という不安に襲われないところも魅力のひとつ。早子先生のゆるゆる婚活、心の安定剤として傍に置いておきたくなる作品です。
羽根井とうこ『結婚できないヤツラの自虐的戦記』は、原案を伊藤フミ、イラストを羽根井とうこが担当、panko名義のブログで掲載されていた4コマ漫画です。結婚や恋愛に関する男女の本音が、擬人化されたキャラクターたちの口から語られますが、遠回しではなくズバリ直球。嫌味や誰かを否定する言葉はなく、一般的意見と考察がセットになっているので、納得しながら読み進めていくことができます。
本作は実践的な話ではなく、それ以前の男と女の違いを知るための作品です。同じ人間ではありますが、男性と女性では考え方や価値観に大きな隔たりがあります。
例えば、結婚するために、エステやエクササイズで身体を維持し、英会話や音楽、映画など、様々な知識を得て自分を磨き続ける女性たちの頑張りは、称賛されるべきものではありますが、結婚に有利かと言えば、そうと言えない部分もあります。
大多数の男子は、華やかさは無くても話を聞いて、自分を立ててくれる女性を結婚相手として選びます。男性の理想像と、女性の好む理想像とは大きくズレているのです。
- 著者
- 羽根井 とうこ
- 出版日
- 2010-12-10
作中で最も恐ろしい話は、馬の姿をした会社の先輩、馬馬子さんが語る「不倫の代償」でしょう。
会社の上司と浮気をしていた馬馬子さんは、上司の奥さんに浮気がバレてしまいます。しかし、部署移動をして別れてスッキリ解決、馬馬子さんは新しい恋人との結婚が決まり、幸せの絶頂でした。そんな時、馬馬子さんの元に内容証明が届きます。上司の奥さんが慰謝料を請求したことで過去に不倫をしていたことがバレた馬馬子さんは、結婚が破断になり、慰謝料請求されたという裁判記録が残ったうえに大出費という、手痛いしっぺ返しをくらいます。
全ては奥さんが仕掛けた、周到な復讐劇だったわけですが、その執念が恐ろしい。「既婚男の誘惑に女の得ナシ」という言葉に集約される、教訓的なエピソードです。
あるある、と頷けるネタから、馬馬子さんのように実録ならではの教訓エピソードが満載されている本作は、婚活のお供というよりは、息抜き的に楽しめる作品です。普段は隠されている男女の本音を覗いてみませんか?
結婚相手に臨むことのひとつに、趣味に理解がある、という項目をあげる人もいるでしょう。遠方に出かけたり、収集したりと、何かに情熱を傾ける「オタク」は、どんなジャンルであっても理解を得ることが難しいと感じます。中でも男性同士の恋愛を描く「BL」を愛する腐女子たちの多くは、己の趣味をひた隠しにして生きています。
実録漫画『31歳BLマンガ家が婚活するとこうなる』の作者、御手洗直子はBL漫画家です。仕事として割り切っているのではなく、常にBLを摂取していないと生きていけないくらいの、生粋の腐女子という人物。
とある日に結婚を考えていた恋人から別れを告げられ、31歳結婚予定なし彼氏なしという、理想からほど遠い位置に立たされてしまったという事実に愕然とし、婚活して1年以内に結婚すると決意します。引きこもりかつ面倒くさがりの直子は、活動開始前から挫折気味。諦めかけたその時、家から出ないで婚活できるという便利さに惹かれ、ネット婚活サイトに入会を決意します。
- 著者
- 御手洗 直子
- 出版日
- 2012-10-25
婚活サイトはプロフィールを登録し、気になった人からメールが届くというシステムですが、このプロフィール作りから鬼門の気配。趣味や仕事の話をオブラートに包むと書くことがなく、他人のプロフィールを参考にしようとすると、自称キングやマハラジャ級の生活を送る人がいるという、ツッコミどころ満載の人ばかりを検索してしまい、作業が進みません。無難にプロフィールを作成し、公開すれば1日300通を超えるメールの嵐に投げ出してしまいそうになります。
ツッコミどころ満載の婚活サイトでの婚活ですが、最終的に直子は2人の人物で迷います。趣味趣向を許容してくれる人か、趣味を隠さなければいけないけれど安定した生活が送れる人か。同じ趣味を持っている人は、悩む直子の心理に共感できるのではないでしょうか。自分を偽って生きていくことはできません。婚活サイトには最良の選択を得るために奮闘する人々の、情熱と笑いが詰まっています。
結婚相談所とは、その名の通り結婚、または交際相手を希望する方への異性の紹介を主な業務としています。相手との連絡やセッティング、時には悩みの相談にも乗ってくれる、いわば結婚支援サポーター的存在。街コンや婚活パーティーなど、簡略化された形式の会も人気ですが、相談する相手がいる、身元がしっかりした人が登録しているという結婚相談所は需要の高い職業なのです。
『婚活マーチ』は、結婚相談所でカウンセラーをしていたChisatoの実体験を元に、ふじいまさこが漫画化した作品。結婚相談所「ハートマリッジ」店長の愛本結子の視点で実際に結婚相談所を利用する会員とのやりとりや、売り上げノルマに悩まされる経営の裏側までもが包み隠さず語られます。
ハートマリッジの入会金は30万円、23歳以下でも15万円と安くはありません。「結婚は一生に関わる大切なことです。そのくらいの自己投資は決して高いとは思いません」とは結子の言ですが、本気でなければためらってしまう金額です。登録した会員の好みに合うタイプの異性を探し、お見合いをセッティングし、交際への働きかけを行う。結婚相談所のカウンセラーが、かなりハードな仕事であることに驚く人も多いのではないでしょうか。
- 著者
- ["ふじいまさこ", "Chisato"]
- 出版日
- 2014-12-13
作中では36歳のプログラマー、年下男性希望の洋子と、22歳で経済力のある男性を希望しているアヤ、相手に特別な希望はないもののイケメンであるがゆえに、様々なセッティングに活用されてしまう智樹が登場し、三角関係状態に。年齢ゆえに結婚を焦る洋子の必死さも、美人で若いと自覚しているアヤの無邪気さも、過去の恋愛を忘れることができない智樹の迷いも理解できるからこそ、結婚をまとめるまでに尽力し続ける結婚カウンセラーの心労を慮り、思わずため息。
結婚すれば嬉しいけれど会員が減って売り上げが落ちる、しかし結婚する人がいなければ逆に会員が減るという、ループを繰り返し、日々結婚相談所は動いているのです。
結婚相談所の苦労話だけではなく、インパクトのある会員が登場したり、原作の小説よりもコミカルな雰囲気で手に取りやすい本作は、結婚相談所って、「おばちゃん相談員が手ぐすね引いて待っている」的なイメージを覆す作品となるでしょう。利用を考えている方以外にも、職業ものコミックエッセイとしても楽しめる作品です。
2次元は3次元に住む男女をたやすく魅了してしまうため、2次元沼から脱出することはなかなかできません。
カザマアヤミは、『せなかぐらし』や『はつきあい』など、男女の初々しい恋愛漫画を得意としている漫画家です。多彩な恋愛エピソードを描き続けてきましたが、実は漫画という2次元世界に没頭しすぎたため、現実世界での恋愛には詳しくありませんでした。
漫画家としての仕事が軌道に乗り始めた20代の半ば、突然「漫画書いて、2次元に萌えて、生涯誰とも付き合うこともなく過ごしていいのだろうか」と、危機感を抱きます。小学生で少女漫画にハマり、中高と女子校に進学したため、生の男性との関わりがなかったという青春時代を過ごしてきたカザマアヤミ。恋愛は妄想で済ませていたこの状況から脱却するため、3次元恋愛に本気を出します。
- 著者
- カザマ アヤミ
- 出版日
- 2014-05-21
勉強しても失敗し続けるという現実に、カザマアヤミは「コミケのコの字も知らない人とはできる話なんてない!」という天啓を得ます。納得できる言葉ではありますが、逆に自分の世界を狭くしているとも言えるでしょう。しかし、そもそものハードルを高く設定しては、人は飛ぶことはできません。同じ趣味の人に会うことによって徐々に距離感を掴み、挙動不審にならないような接し方を身に着けていくカザマアヤミの姿に、頑張れば自分も出来るのではないか、と気持を動かされます。
やがて夫となる漫画家、紺野あずれとの出会いや、赤裸々な初体験も綴られている本作は、包み隠さず語っているからこそのリアリティがあります。カザマアヤミの恋愛的成長が詰まった本作は、恋に自信が持てないすべての人に実例を示してくれる作品です。
恋は誰しもするものですが、恋も、その先にある結婚も、誰かが教えてくれるものではありません。婚活というのは、一緒に生きる人を探す活動です。けれど、重く考えすぎて道を見失うのでは本末転倒、肩の力を抜いて読める婚活漫画を、息抜きに手に取ってみてください。