日本は漫画先進国と言われ、日々様々な作品が生まれています。漫画好きになったきっかけ、という作家が幾人かいると思いますが、岡崎武士もその1人でしょう。長いキャリアを持ち、美麗イラストでも人気の岡崎武士作品をご紹介いたします。
岡崎武士(おかざきたけし)は、1967年8月29日生まれ。千葉県の出身です。高校に入学した頃から漫画家を目指していたようで、同人誌活動を行い、新人漫画化妖精システムなどを利用し、腕を磨きました。大学には入学したものの、すぐに自主退学して上京します。
上京後は『きまぐれオレンジ☆ロード』などのヒット作を持つ漫画家、まつもと泉のアシスタントを務め、同時期にアシスタントをしていた漫画家、『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』の荻原一至らとともに、切磋琢磨したようです。1986年読み切り『5分マーメイド』でデビュー。アシスタントを続けながら、読み切り作品を発表します。
1988年にアニメ原作漫画として、『EXPLORER WOMAN RAY』の連載を開始。本格的に漫画家として活動をはじめ、多くの読者を獲得しました。現在は漫画家として活動しているほか、ゲームのキャラクターデザインや、イラストを手掛けるなど、幅広く活動。SNSや動画配信サイトを利用した活動も積極的に行っています。
1980年後半から1990年代は、現代ファンタジーが爆発的な人気を得ました。自分たちが知っている景色の中に、不可思議な現象が紛れ込み、やがて世界の危機に発展するという物語は、現在でも広く好まれていますが、現代ファンタジーの基礎を形作ったのは、この頃の作品であると言っても過言ではありません。
『精霊使い エレメンタラー』も現代を舞台としたファンタジー作品です。ある日能力を覚醒させた少年が、片想いの少女を取り戻すため、戦いの渦中に飛び込んでいくという筋書きですが、古臭さは一切ありません。絵柄や物語の設定など、20年以上も前に刊行されていた作品とは思えぬほど、作品世界にのめり込んでいきます。
- 著者
- 岡崎 武士
- 出版日
- 2007-10-23
物質は心を持っていると考えられており、心を宿した物質を「精霊」と呼んでいました。精霊を支配し、操る者は「精霊使い」と呼ばれ、万物の覇権を争い、激しい戦いを繰り広げていましたが、そんな戦いは遠い昔の話。平和な生活を送っていた人々でしたが、やがて目覚めた精霊使い達は、再び争いをはじめます。
少し甘えん坊な普通の男子高校生、覚羅(かぐら)は、幼馴染の麻美が何者かに誘拐される場面に遭遇したことで、精霊使いとしての能力を覚醒させました。覚羅は、万物の構成元素であるエーテルを支配する、エーテルの精霊使い。さらわれた麻美を救うため、覚羅は戦いへと身を投じていきます。
本作は全4巻で完結となっていますが、連載途中に作者が病気で入院するなどのアクシデントが続き、長らく未完の大作と言われていました。2007年に出版された復刻版に、作者の書き下ろしエピソードが掲載され、完結となっています。短いと感じるかもしれませんが、密度は相当なもの。精霊使い達の織りなす、壮大な物語を堪能してください。
自分の年齢を基準に、年上が好きか、年下が好きか、男女問わず恋の話をしている時には、必ず話題に上ることでしょう。実際はその人自身に惹かれるものですが、好みというのはあるもの。
『カウンタック』は、名古屋を舞台にしたオムニバス作品集です。地方を舞台にすると気になるのが言葉。地方には方言という独特な言葉の訛りがあり、名古屋もそのひとつ。本作は全編名古屋弁で描かれており、言葉からも地方色を感じることができます。
- 著者
- 岡崎 武士
- 出版日
年代はカーペンターズが流行していた頃。1970年代~1980年頃の名古屋が舞台です。登場するのは、年上の女性に憧れる少年と、年上の女性。おかれている環境も立場も違う男女の、ちょっとほろ苦く切ない恋愛模様が描かれていきます。
現代を舞台とした作品は、舞台とした時代の世相が反映されるため、今の考え方とはあまり合わないところがあるかもしれません。しかし、恋模様や、年上女子たちの言動はカッコよく、どこかオシャレ。こういう大人の女性に憧れるという少年たちの気持ちに、共感できる部分も多いのではないでしょうか。
タイトルのカウンタックは、イタリアのランボルギーニ社が製造した自動車です。作中でも車の話が登場。大人の持ち物である車という存在が、2人の間に横たわる、年齢以上のものを表しているように思えてなりません。若いからこそ味わう、挫折のほろ苦さもエッセンスとなった、恋物語です。
書店などで漫画を選ぶ時の基準は、どんなものですか。絵柄、物語のあらすじ、表紙の雰囲気や、レーベルから選ぶ方もいるでしょう。特に表紙は、購入を検討する際に、重要な判断材料となってくるもの。女の子が好みか否か、露出の有無まで吟味して、購入に踏み切るという場合も少なくありません。
『レッツ☆ラグーン』は海に腰までつかり、こちらに笑いかける、ショートカットの美少女の姿が眩しい表紙が目を引きます。濡れた制服から察するに、ラブコメものだと判断した読者も多いかと思いますが、それだけではありません。本作はただのラブコメではなく、無人島サバイバル下での恋愛が展開されていきます。
- 著者
- 岡崎 武士
- 出版日
- 2010-09-06
目を覚ました先が不思議な世界という事はありますが、主人公の山田壮太が目覚めるとそこは、無人島でした。修学旅行中だったはずですが、どうやら海難事故に巻き込まれた様子。壮太と一緒に、救命ボートの残骸や、7日間分の食料、サバイバルキットと壮太自身の荷物が漂着していました。
修学旅行中での事故のため、すぐに救助が来るだろうと考えていましたが、救助は一向に現れず、3日が過ぎました。残りの食料は4日分。不安を感じながら、無人島から脱出する手段を講じていた壮太の前に、同級生の少女衣舞瀬チカが現れました。チカと2人の、無人島生活がはじまります。
作中では女の子とのドキドキサバイバルライフが展開されますが、物語が進むにつれて、サバイバルライフが本題ではないと気が付くでしょう。壮太が漂着している島は何なのか、なぜ漂流することになってしまったのか、恋のドキドキと謎解きの両方を楽しむことができます。
SF作品の中には、未来が見えていたのではないか、と疑いたくなるほど、現代の技術に近い物が登場する作品があります。
『プラトニックチェーン』は2003年に発表された作品ですが、現代に通じる部分が数多くある作品です。小説家、ゲームクリエイターとして活動している、渡辺浩弐のショートショートで、岡崎武士は2015年に発売された、復刻版のカバーイラストを手掛けています。
- 著者
- 渡辺 浩弐
- 出版日
- 2015-05-08
「インスタ映え」という流行語が生まれたように、現代女性は写真に夢中になっています。見栄えの良い写真をSNSにアップし、誰かと共有することに生きがいを見出している彼女たちですが、本作の女子高生たちの中でも、写真は流行を見せていました。女子高生たちがレンズを向ける先以外にも、街のいたるところに設置された防犯カメラ、待ちゆく人たちが持つ携帯カメラなど、小さなレンズは様々なものを映し出します。
写真やカメラから集められる、膨大な情報にアクセスできるスーパーコンピューターが存在するという噂が実しやかに囁かれ、そのコンピューターに唯一ハッキングに成功した女性が存在しました。彼女は女子高生たちから「ネットの女神さま」と崇められ、女子高生たちは女神サマ、プラトニックチェーンに様々な願いをかけます。
女子高生たちとネットの女神さまが織りなす物語ですが、彩を加えているのが、岡崎武士のイラスト。オリジナル版やコミカライズ版とも違う、より現代の女子高生に近い少女たちのイラストに、親近感がわきます。現代女子高生も共感できる物語、もしかしたら作者渡辺浩弐には、未来が見えていたのかもしれません。
長編作品は、世界の広がりや、キャラクターの掘り下げが深くなるなど、物語全体が奥深く感じられるようになります。長くなればなるほど、作品世界に長く浸っていられるため、幸せも倍増しますが、ある時から読者はとある不安に悩まされることになるでしょう。 この作品、本当に完結するのだろうか。世の中には未完の大作が、残念ながら数多くあります。
未完結に至った理由は様々で、作者が病気などを理由に執筆活動を中止していたり、他の作品を集中的に書いていたりする場合もあります。少女小説家若木未生の『イズミ幻戦記』も未完の大作と呼ばれるうちのひとつ。岡崎武士は、1991年に出版された集英社スーパーファンタジー文庫版から、完全版、続編の『真・イズミ幻戦記』のイラストも手掛けています。
- 著者
- 若木 未生
- 出版日
本作は近未来を舞台としたSF作品。マザーコンピューターの暴走に加え、未曽有の大地震に襲われたことにより、高度な機械文明が崩壊してしまいます。マザーコンピューター「ジュリア」は、人間の支配から解き放たれ、人間狩りを開始、つぎつぎと人間に襲い掛かっていきます。 武器を手に取った人間たちは、武装ゲリラ部隊を組織し、生き延びていました。
大地震から7年後、渡辺拓己と叶省吾は響子という少女を探し、旅をしていました。2人は「有機融合」という、合体をすることで、イズミという力を持った存在に変化することができます。ジュリアの追手が放たれ、戦いが激化していく中、2人はイズミとして戦いながら旅を続けていきます。
ライトノベルの良いところは、作中に挿絵があるところ。読者が想像する手助けをし、より鮮明に作品世界を浮かび上がらせます。岡崎武士のイラストは、特に作品世界を想像する手助けとなっており、とり鮮明に拓己と省吾の生きる世界を浮かび上がらせることができます。完全版には作中の挿絵は無いのでご注意を。崩壊した世界で繰り広げられる戦いの行方を、見守りましょう。
病気などで執筆活動を中断していた時期があるせいか、作品数はあまり多くありません。しかし、独特な世界観や美麗なイラストは、年代を問わず幅広いファンを獲得しています。昔の作品も古すぎることはありません、ぜひ岡崎武士の世界に触れてみてください。