ヤクザと透明人間がバトル!?斬新な設定と強烈なインパクトを持つ作品『アダムとイブ』。今回はそんな本作について最終回までネタバレ考察していきます。
- 著者
- 山本 英夫
- 出版日
- 2016-02-29
『殺し屋1』『ホムンクルス』などの強烈なインパクトを放つ名作を描く漫画家、山本英夫。そして劇画漫画の第一線で活躍し「劇画家」の異名を持つ池上遼一の2名がタッグを組みました。『アダムとイブ』は、独自の路線で活躍している両名が持ち味をふんだんに活かして描く異色作となっています。
極めて高い五感を持つヤクザ達と、人智を超えた能力を持つ透明人間の闘いは、圧巻です。今回は迫力満点な本作の魅力を最終回までネタバレをまじえてご紹介します。
ヤクザ社会を立て直すために、五感に優れたヤクザ達を集め秘密結社を立ち上げた男「スメル」。
Club姫というクラブにて、秘密結社の極秘会合が行われる最中、スメルは秘密結社の情報を外部に漏らした者がいると告げるのでした。
嗅覚に優れたスメルは匂いでホステスのうちの1人が出来心で漏らしてしまった事を看破します。そして別のヤクザがホステスを痛めつけようとした時、突如ヤクザが後ろに吹き飛びました。
目に見えない存在「透明人間」と、ヤクザ達の闘いが始まったのでした。
透明人間と闘うこととなるヤクザ達は、いずれも五感のスペシャリストです。そして、彼らはいずれも非常に個性が強く、その能力だけではなくキャラクターも実に魅力的です。彼らの特徴についてご紹介していきましょう。
嗅覚の男「スメル」:その名の通り、嗅覚に優れたヤクザです。彼は秘密結社を立ち上げた若いヤクザですが、歴戦のヤクザ達を統括するカリスマ性を有しています。
彼は蒸留酒を鼻から飲むという強烈なインパクトを放つ登場をします。幼少期のトラウマから女性の髪を燃やした匂いで強烈に興奮するという屈折した性癖を持っているのです。スメルはヤクザ達のリーダーだけあって物語の後半まで生き残り、また重要な役割を担っています。
本作における主人公といっていい人物だといえるでしょう。
- 著者
- 山本 英夫
- 出版日
- 2016-02-29
味覚の男:味覚に優れたヤクザです。透明人間の強襲に怯える隣のホステスの頬をナイフで刺し、その血をパンに挟んで食べるという強烈なシーンから登場します。血の味で人間性までを看破できる超人でしたが、透明人間によってあっけなく殺害されてしまいます。
ヤクザ達と透明人間の闘いによる最初の犠牲者でした。
視覚の男:彼は色覚異常により、温度を目で感知することの出来るヤクザです。透明人間の足跡を追い、銃で応戦しようとします。足跡に残る温度から、透明人間は2人組であることを看破した人物です。
聴覚の男:聴覚が極めて優れたヤクザです。銃を乱射してガラス瓶を割り、ホステスの叫び声の反射から透明人間達の位置を特定しようと試みました。屈強な体を持ちますが、精神的なトラウマをもっており、闘いの最中でもトラウマが発露してしまいます。
強力な能力ですが、感情が高ぶると自分の心音すら煩わしくなり、正気を保てないというデメリットがあります。
触覚の男:彼は相手の体に触れる事で中身まで理解し、相手を支配できるという異常触覚を持つ男です。特に女性に対する効力は極めて高く、恐怖に怯えるホステスを絶頂まで導く程の技を有しています。
透明人間のうち女性との闘いでもその技を遺憾なく発揮し、透明人間の女性を人質に取ろうとしました。女性を愛でる事がとにかく好きで、透明人間との闘いでも恐怖や闘争心より、性欲が勝っていたようです。
第六感の男:彼は他のヤクザ達とは異なり、五感に特化した能力者ではありません。ですが、第六感、つまり霊的な存在を感知する能力に長けています。
視覚を失っており、老齢で杖をついて歩いている状態なので、透明人間との闘いには参加出来ません。しかし、そのせいか闘いの最後まで生き残り、その結末を見届ける事の出来た人物でもあります。
いずれも強烈な個性を持った面々が透明人間達とどのように対峙するのか、というところが、本作の見所といえるでしょう。
なんといっても、透明人間という超常存在とのバトルは見所といえるでしょう。そして面白いのは、透明人間という見えない存在なのに、彼らがまるでそこにいるかのように見せる描写の数々です。
代表的なのは彼らの履いている靴に関する描写でしょう。全身見えない彼らが靴だけは通常の人間にも認識できる状態であるため、確かにそこにいる事がわかるのです。目に見えているのは靴だけなのに、その先に足があり、人間がいるという事がわかります。
また、人間離れした身体能力で壁走りを行うシーンなども、躍動感溢れる人の影がまるで見えるようです。動いているのは靴だけなのに、人間が確かにいるように見せる演出は素晴らしいの一言でしょう。
そして、靴以外の戦闘についても描写が秀逸といえます。透明人間による攻撃は靴以外であれば透明であるため、体は全て見えません。しかし、殴られた人間には拳の痕は残りますし、間接技で体の骨をへし折ることも可能です。
代表的なものとして、触覚の男との闘いでは、女性の透明人間が愛撫を受け続ける様子が描かれています。まったく視認出来ないのですが、触覚の男の動きが本当の人間を相手どっているように描かれているのです。
実に秀逸なバトル描写の数々は、他の作品ではなかなかお目にかかれないため、必見といえるでしょう。
- 著者
- 山本 英夫
- 出版日
- 2016-08-30
全2巻というコンパクトなボリュームで最終回となる本作ですが、その結末は実に鮮烈な印象を与えます。透明人間達との闘いの後、スメルの体は忽然と消えてしまい、事件の真相は闇に消えてしまいました。
しかし、その後の警察の調査で透明人間達の目的は五感に鋭いヤクザ達そのものにあったのでは、ということがわかります。スメルとの闘いの中で、透明人間達はスメルに対し、「五感を超えろ」というメッセージを送っていました。
その事からも、彼らは自分たちを感知できる存在を欲し、さらに対話出来る存在を探していたのではないでしょうか。
そして、最終話である「存在の証明、再び」では、スメルが新たな透明人間として生まれ変わっています。タイトルも含めて、透明人間達は自分たちの存在を証明できる出来る人間を探し、仲間としたかったのではないでしょうか。
ストーリー中でも彼らの目的については考察されていますが、読者にも想像の余地があるように作られています。実に多様な見方で楽しめる作品といえるのではないでしょうか。