福本伸行の『賭博黙示録カイジ』に登場する利根川幸雄を主人公にしたスピンオフ作品。緊迫したギャンブルが描かれる本家とは裏腹に、ギャグを交えて中間管理職の苦しみを描きます。 そんな本作の魅力と見どころをご紹介しましょう。
福本伸行の『賭博黙示録カイジ』に登場する、帝愛グループの最高幹部・利根川幸雄を主人公にしたスピンオフ作品。わがままで気まぐれすぎる会長の兵藤と、部下の黒服たちとの間で動く彼の苦悩をコミカルに描いています。
本家の福本は協力という形で携わり、萩原天晴が原案を、 橋本智広と三好智樹が作画を務めています。
本作の舞台は「カイジ」の世界がもとになっているものの、本編を知らなくても楽しむことができるでしょう。中間管理職という立場の悲哀をコミカルに描いているのです。
今回は、そんな本作の魅力を、各巻のエピソードを交えながらお伝えしていきます。ネタバレを含むのでご注意ください。
- 著者
- ["福本 伸行", "橋本 智広", "三好 智樹"]
- 出版日
- 2015-12-04
帝愛グループの会長の兵藤は、超がつくほどのわがままな男。そんな彼の退屈を紛らわせるために、最高幹部のひとりである利根川は、11人の部下を集めて「チーム利根川」を結成しました。
しかし兵藤の無茶ぶりや、問題点が多すぎる部下への指導、そして積み上げてきた信頼の失墜などさまざまな出来事が彼を苦しめます。
上司と部下に挟まれて、右往左往する中間管理職の苦悩と葛藤の物語です……。
「つまらん……!うんざり……!!」
(『中間管理録トネガワ』1巻より引用)
帝愛グループ会長の兵藤は自身の退屈を紛らわせるため、幹部の利根川に、血沸き肉躍る「死のゲーム」の企画を命じます。
さっそく黒服を招集して会議を開こうとする利根川ですが、会議室にはなにやら暗雲が立ち込めていて……。
- 著者
- ["福本 伸行", "橋本 智広", "三好 智樹"]
- 出版日
- 2015-12-04
誰も思いつかないような「死のゲーム」を企画するため、ひたすら部下から意見を募る利根川。その際に心がけたのは、「とにかく褒めること」です。どんな平凡なアイディアでも「秀逸!」「奇抜!」と褒めちぎります。
すると何が起こるのか。もっと上司に褒められようと、部下たちは多くの案を出し、会議が円滑に進むようになるのです。人心掌握に長けている利根川は、順調に会議を進めていきました。
しかしある日突然兵藤が乱入!これまでの空気は一変し、緊迫感が漂います。そして、兵藤の前で迂闊なことを言えない利根川は、急に態度を豹変させてあらゆる案を却下するようになりました……。
途中までは部下の心理をうまく操った「カイジ」を彷彿とさせる手腕を見せていましたが、理不尽な態度で部下からの信頼を失ってしまいます。
まさに中間管理職、といえる姿が実に巧妙に描かれていて、1巻から本作の世界観に惹き込まれてしまうでしょう。
何とか兵藤が求める死のゲーム「限定ジャンケン」の企画をまとめた利根川。さっそく企画書を提出しに行くと、会長の口から出たのは「映画が観たい……!」のひと言でした。
会長の意見は絶対である帝愛グループ。どんな要求にも応えなければなりません。企画書はいったん脇へ置いておき、兵頭を満足させられる映画を探しに行くのでした……。
- 著者
- ["福本 伸行", "橋本 智広", "三好 智樹"]
- 出版日
- 2016-04-06
会長の傍若無人っぷりに悩まされる兵頭ですが、部下とともに必死に作成した企画書はどうしても提出したいところ。意外と部下思いな面があるのです。
しかし、企画を通すためには、兵頭の機嫌がいい時を狙わなければなりません。それは、風呂をあがってから自室に辿りつくまでのわずか20秒……!しかも機嫌がいいか悪いかは五分五分という賭けです。判断材料は、眉毛の角度のみ。
利根川は機を見計らって風呂あがりの会長のもとへ赴きますが……なんとその顔にはパックが……!
部下のためを思って必死に動く利根川の姿は新鮮ですが、やはり兵頭の理不尽っぷりはカイジの雰囲気そのもの。振り回される日々は続きます。
就活生が訪れる春、幹部たちが出世レースをくり広げる夏、大食いにチャレンジする秋、限定ジャンケンの予行演習をする冬……と3巻では激動の1年が描かれます。
なかでも気になるのは、帝愛グループを訪れる就活生たち。どんな人が試験を受け、どんな基準で合否を決めるのでしょうか。
- 著者
- ["福本 伸行", "橋本 智広", "三好 智樹"]
- 出版日
- 2016-08-05
帝愛グループに入社するには、まずESの提出が必要です。期日までに郵送したら、あとはひたすら合否が届くのを待ち、無事に通過した人は筆記試験、その後面接へと続いていきます。
ここまでは一般的な企業となんら変わりませんが、面接通知をよく見ると、そこには「自由な服装」と書いてありました。しかしこれはひっかけ。帝愛グループの面接は上下黒のスーツが暗黙の掟で、それ以外の人はTPOをわきまえられないクズとしてその時点で切り捨てられるのです。
ふるいをくぐり抜けて面接に臨むことができると、いくつかの質疑応答が。最後に「気を付けてお帰りください」と言われると、不合格です。
採用する場合は、「あちらの扉にお進みください」と別室へ誘導され、合格が確定します。
しかしここからがブラックなところ。帝愛グループは、優秀な人材を帰さずに、そのまま入社を確定させてしまうのです。利根川もブラック企業だとしっかり理解しているようで、就活生には同情するしかありません。
一方、採用には企業側の苦労もあり、奮闘する利根川の姿を刮目してください。
部下の黒服たちによるファッション戦争や、唐突に試される兵藤への忠義心、会長の影武者を探す旅などが描かれる4巻。
ここでは数少ないおめでたいイベントである、帝愛流結婚式をご紹介しましょう。利根川はいったいどのように部下を祝うのでしょうか。
- 著者
- ["福本 伸行", "三好 智樹", "橋本 智広"]
- 出版日
- 2016-12-06
チーム利根川の結婚式。人生の門出を祝うこの場では、黒服たちもいつものサングラスを外し、明るいネクタイで出席します。
身だしなみを整えたらご祝儀を受付に提出。相場は同僚であれば3万円。上司は5万円。手続きを済ませたら入場し、式が始まるのを待ちます。いわゆる普通の結婚式と同じですね。
新郎は、おそらく一生に1度しか着ないであろう白服で入場し、祝辞のあいさつが送られます。
滞りなく式は進んでいきますが、利根川にはひとつ懸念事項がありました。それは、余興がおこなわれるかどうか、というもの。彼にとって、高い祝儀を払ってまでつまらないモノを見せられるのは我慢ならないのです。
今回はなさそうだと安心していると、式の最後の最後、黒服たちが唐突に「フラッシュモブ」を披露……!利根川はため息をつきかけますが、意外とほかの出席者から好評な様子を見て、いつの間にか混ざりはじめて……⁉
空気を敏感に感じ取る姿は、さすが中間管理職。部下を思いやる、ある意味理想の上司なのかもしれません。笑えつつも、あたたかいものを感じるエピソードです。
結果を出せずに島流しにあう部下、珍しい女社員、驚愕の健康診断などが描かれる5巻。
注目は、現代のトレンドを取り入れたSNSについてのエピソードです。有能な利根川は、ツイッターでもその能力を発揮できるのでしょうか。
- 著者
- ["福本 伸行", "三好 智樹", "橋本 智広"]
- 出版日
- 2017-06-06
帝愛グループはツイッターの公式アカウントを持っており、利根川の部下が中の人を担当しています。しかしほとんどつぶやかず、フォロワーも100人ほどと役に立っていません。
しかも「知り合いかも」の一覧には「帝愛アンチ」が存在しており、本家よりも多くのフォロワーを獲得していました。
このことが利根川に火をつけたのか、彼自身が中の人を務めることになります。
SNSの影響力を理解している利根川は、ひたすらツイート。帝愛グッズが当たるキャンペーンなども実施しますが、いまいち成果が出ません。その間にもアンチは着実にフォロワー数を伸ばし、しだいに焦りが生まれてきました。
そんなある日、アンチのツイートを見ると、内部の人間しか知らない情報が載っていて……。
ここから、SNSを戦場として、利根川とアンチのバトルがくり広げられます。「カイジ」さながらの心理戦に、心躍ること間違いなし!
6巻では、かつての利根川の姿が描かれる同窓会のエピソードがあります。
青春の1ページだったあの娘はいま、どうなっているのでしょうか。
- 著者
- 福本 伸行
- 出版日
- 2017-11-06
「確認するためだ……!
若い頃……自堕落で非生産的なくせに……
大口ばかり叩いとった奴らが……
どんな大人になっとるかを……な!」
(『中間管理録トネガワ』6巻より引用)
同窓会は過去にとらわれた者たちの現実逃避に過ぎない、という考えを持ちながらもしっかりと参加する利根川。
現地につくとさっそくウザ絡みをされ、辟易とした態度をとります。心の中で、現実がうまくいっていない奴ほどこういう場ではしゃぐと見下していました。さらに、かつての人気者がはげ散らかした姿を見て、一種の満足感を得ています。
そんな彼の前に現れたのが、思い出のあの娘。チラリと手元を見ると、左手の薬指にはリングがありましたが……。
意外にも恋愛要素が含まれ、「カイジ」にはない甘い雰囲気になるかと思いきや、利根川は嫌味なひと言を放ち雰囲気をぶち壊してしまいました。
しかし最終的にはエンジョイ!?多芸すぎる彼には驚かされるばかりです。
まさに、悪魔的面白さ……!!!!!!!!!
表紙からも分かるとおり、7巻になってもさらに不憫に、さらに面白くなっています。利根川の辛さが身にしみます……。
- 著者
- ["福本 伸行", "三好 智樹", "橋本 智広"]
- 出版日
- 2018-07-11
特に会長の理不尽さの真骨頂が描かれたのが、TVCM企画のエピソード。「レオタードを着た女性たちが情熱的なダンスを曲に合わせて」踊るなどというどこかで聞いたことのあるような、コンプラ的にアウトな案を出してくる部下に困らせられながらも、利根川は圧倒的クリーンさを全面に押し出したCMを企画。
しかし会長はそんな彼の企画を聞いて「制裁…!」と言って手に持つ杖で彼をぶちます。帝愛のターゲットである消費者層がいかに考えが浅い人々なのかを語り、もっと、ただただ軽いCMをつくれとダメ出しをするのでした。
それを受け、利根川は何度もリテイク。そしてついに会長にお墨付きをもらい、制作過程にも立会い、力を入れて作品をブラッシュアップ。「帝愛ファイナンス渾身の悪魔的CM……………!」を作るのですが……。
もちろんオチはみなさんお分かりかと。
この他にも「一時的に台風の目」に入っているだけと評される会長の上機嫌に振り回されたり、せっかくの7連休が「悪魔的ナッツリターン」によってめちゃくちゃになったりと、彼の苦労は絶えません。7巻になっても面白さの勢いが衰えないのが、本当にすごいですね……。
「カイジ」の雰囲気を保ちつつ、独自の世界観を作り上げている本作。ぜひ読んでみてくださいね。
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「ざわ…ざわ…」でお馴染み『賭博黙示録カイジ』、ドラマ化もした『銀と金』……これら手に汗握るギャンブル漫画の作者が、福本伸行なのです。 福本といえば特徴的な画風と、人間の暗部を描いたギャンブル作品で有名な漫画家。一見「金がすべて」という世界観に満ちているような作品が多く感じます。しかし、その根底には、持たざる者が富める者を討つという反骨精神が見えるのです。 そんな福本作品で注目のギャンブル漫画を、この記事ではご紹介しましょう。