ファンタジーやSF、青春モノの世界観をミステリにうまく組み込むことで定評のある初野晴。トリックの面白さや社会問題をテーマにした犯罪など、読書初心者でも往年のミステリファンでも楽しめる作品ばかりです。今回は、とくにおすすめの厳選した5冊をご紹介していきます。
2002年に「横溝正史ミステリ」の大賞を受賞し『水の時計』でデビューした初野晴(はつのせい)。常に薄い霧が漂っているなかにいるような、独特の世界観をもったいわゆる「不思議系」の作風が特徴です。
デビュー作の『水の時計』は、まさにミステリとファンタジーを融合したといっても過言ではないもの。また代表作となった「ハルチカ」シリーズも、日常系ミステリでありながら登場人物たちの会話や行動が非日常的で、やみつきになってしまいます。
では上記も含め、初野のおすすめ作品をご紹介していきましょう。
医学的には脳死と判定されたものの、月夜の晩にだけ言葉を話すことのできる奇跡を賜った少女、葉月。 彼女の願いは、まるで童話のような「臓器移植」でした。
石造りの王子が自らに施された宝石を、ツバメを介して貧しい人々に分け与えていく童話『幸福の王子』が背景にある本作。ロマンチックさと社会派のテーマが交錯しています。
幻想的なのにどこか現実味のある、相反するストーリーに魅了されるでしょう。
- 著者
- 初野 晴
- 出版日
- 2005-08-25
生きることとは何か、本当の死とは何か。自らの臓器を提供したいと願う少女、それを運ぶ少年、そして臓器を提供される人……さまざまな想いがあふれ、読者の胸を締め付けます。
まるで恐ろしいほど透き通った月夜の晩のような、美しい物語。初野晴のデビュー作を堪能してみてください。
重度の喘息を抱えながらもアーチェリー部の主将を務めるマドカ。彼女にしか見えない幽霊のサファイアは、この世でもっとも無力な騎士でした。
一方街には、狂気的な犯罪者の影が忍び寄ってきています。中学生が姿を消し、盲導犬が無残にも殺され……2人は事件に挑んでいきます。
- 著者
- 初野 晴
- 出版日
- 2010-01-15
本書に隠されたテーマは「マイノリティ」。普段はあまり気にしていない人々にスポットライトを当て、見えづらいけどいないわけではないと、存在感を露にします。
事件によって浮き彫りになる社会的な闇は、けっして他人事ではないのかもしれません。
もちろん、ミステリ小説として楽しめるのも本書のポイント。おなじみの「ハウダニット」と「ホワイダニット」、つまりどうやったのか、どうしてやったのかが緻密に描かれており、ミステリ初心者から上級者まで楽しめること間違いなしです。
マドカとサファイヤが事件の解決をとおして成長していく姿にも注目ですね。
天涯孤独な少年に残されたのは、博物館と、そこで秘密裏におこなわれているとあるプロジェクト。過去へ飛ばされてしまった脳死状態の患者を救うことでした。
しかしどうやら、救える人と救えない人がいるようで……その違いは一体何なのでしょうか。
物語は、勇介という少年と、学芸員の枇杷がメインとなって進んでいきます。彼らが出した「救い」の答えとは?
- 著者
- 初野 晴
- 出版日
- 2009-05-08
とある脳死状態の少女の意識が彷徨っているという、中世の時代へタイムトラベルする勇介と枇杷。多くの人の協力を得ながら、ある行動を起こします。知恵を出し合って何かに取り組むさまは、大人も子どもも読んでいてワクワクするものですね。
ミステリでタイムトラベル?と思うかもしれませんが、ストーリーが進むごとに隠された闇が明らかになり、ファンタジー要素と融合して不思議な面白さを醸し出していきます。初野らしい鋭い視点が生かされた、まさに不思議な感覚に陥るミステリです。
廃墟となったとある遊園地には、秘密の動物霊園がありました。しかしここで動物を弔うためには、自分の1番大切な物を差し出さなければなりません……。
本書は、心が痛いほど切なくなる4つの物語が収められた、連作短編集。タイトルにもなっているカマラとアマラは、狼に育てられたという逸話を持つ少女たちの名前です。
- 著者
- 初野 晴
- 出版日
- 2012-09-27
動物は、いまや人間の家族にもなりうる存在。そんな「家族」を失った時、何をすればよいのでしょうか。動物霊園でひとり墓守をする青年が、大切なものたちを弔うために優しく導いていきます。
「失うこと」を考えさせられる一冊です。
「わたしはこんな三角関係をぜったいに認めない」(『退出ゲーム』から引用)
印象的な語り口ではじまる本作。初野晴の代表作である「ハルチカ」シリーズの1作目です。
弱小吹奏楽部で、吹奏楽の甲子園といわれている「普門館」を目指す、高校生のチカとハルタ。しかし出場までの道のりにはさまざまな謎が邪魔をしてきます。
探偵役は、女子が羨むほどの美少年でありながら変人のハルタ。チカとともに謎を紐解いていく青春ミステリです。
- 著者
- 初野 晴
- 出版日
- 2010-07-24
ポップな雰囲気を纏いながらも、骨組みはしっかりしており、出てくる謎も本格的。また雑学に富んでいるハルタの語りにも興味をそそられます。
ミステリとしても十分楽しめますが、「普門館」を目指す吹奏楽部メンバーの努力や成長も見逃せません。またハルタとチカと、顧問の草壁が織りなすちょっと不思議な三角関係も見どころのひとつ。
高校生ながら彼らが発する言葉には重みがあり、さらりと読めるのに読者の心に重圧をかけてくるでしょう。読めば人気の秘密も納得できる一冊です。
初野晴の魅力は、なんといっても独特の雰囲気を持った世界観でしょう。キャッチ―でありながも、しっかりと読者の心に何かを残していきます。とくに「ハルチカ」シリーズはアニメ化や映画化もされているので、これまで小説に馴染みのなかった方も読みやすいのではないでしょうか。ぜひ実際にお手にとってみてください。