1800年代なかば、金採掘を目的とした移民の大量流入がアメリカ・カリフォルニアで起こりました。国内だけでなく世界各地から夢と野望を抱いて人々が移動してきたこの現象は、アメリカが新たな国際社会を打ち立てて、世界市場を築く第一歩となったのです。この記事では、ゴールドラッシュの概要や影響、ジーンズなどにまつわるエピソードをわかりやすく解説し、さらにおすすめの関連本もご紹介していきます。
金が発見されたことをきっかけに移民が集まり、大規模な金採掘がおこなわれた現象のこと。このような事例は世界各地で見られましたが、1848年にアメリカ・カリフォルニアで起きたものがもっとも有名なため、今回はそちらを解説していきます。
1848年1月、カリフォルニアの農場で使用人をしていたジェームズ・マーシャルという男性が、アメリカン川で偶然砂金の粒を発見します。当初は秘密にされていましたが、新聞記者で商人もしていたサミュエル・ブラナンに知られると、瞬く間にアメリカ全土に知れわたることとなり、同年末には大統領のジェームズ・ポークが演説で発表をおこないました。
するとアメリカ国内だけでなく、世界中から金採掘をしようとカリフォルニアに人が向かいます。この「フォーティーエイティーズ」と呼ばれる移民たちは、航路や山路を利用して現場を目指しましたが、その旅は非常に困難だったそう。船の難破やコレラなどの伝染病で、到着前に亡くなる人が多数いました。
しかし移民の流入は後を絶たず、1849年だけでも8万人に達したそうです。
しばらくは年間数万トンという莫大な採掘量を誇ったカリフォルニアですが、数年経つとほとんど掘り尽くされ、富が一部の層に集中してしまうようになります。こうして移民たちは故郷に帰るか新たな採掘地を求めてカリフォルニアを去って行きましたが、カリフォルニアは現在でもアメリカ国内でもっとも人口の多い州です。
金採掘はこの後も コロラド州やオーストラリア、ニュージーランドと各地で続き、世界市場が開拓されていきました。
カリフォルニアへやってきた移民たちは、全員が金採掘を目的としていたわけではありません。鉱夫を対象としたサービス市場の開拓、鉱山の利権トラブルを調停する弁護士、採掘した金を購入して代金を支払う銀行マン、住居を提供する人などさまざまな職業の人が移住してきます。
商品販売の代価としての金を得た商人や金融業者は、本国に金を持ち帰り、さらに利益を得ることでマネーサプライが爆発的に増量し、好景気を生みました。
またインフラ面にも大きな影響を与えます。西海岸は早くから移民船でごったがえし、上陸が不可能な状態となっていました。1869年に大陸横断鉄道が開通。何ヶ月もかかっていた移動が数日で安全にできるようになったのです。
また蒸気船なども運行されるようになり、カリフォルニアを中心とした大きな経済圏が形成されていきました。
ただその一方で、昔から現地に住んでいたネイティブアメリカンの土地が奪われていきます。武器を持って戦った者もいたそうですが、圧倒的な性能の差で倒され、滅んでしまった部族もいたそう。
そして金資源の減少が目に見えてくると、カリフォルニア州議会はアメリカ人で利益を独占するために、ラテンアメリカ人と中国人に対する迫害を開始。彼らは高い税金を課せられたほか、厳しい条件下で労働をさせられるか、強制的に帰国させられるか選択を迫られました。
金の採掘は、常に土と水にさらされる過酷なもの。作業員の服はあっという間にボロボロになってしまいます。
そこに目をつけたのが、ドイツからの移民、リーヴァイ・ストラウスです。彼はちょうどゴールドラッシュの時期にアメリカへ渡航し、家族で織物類の販売をおこなっていました。
帆掛け舟や荷馬車に使う幌の厚手の生地に目を付け、まずはこれを直接鉱山業者に販売します。やがて知人からキャンバス布を使って履物を作ったという報告を受けると、資金を提供して友人が編み出した金属鋲の特許を取得。キャンバス布のズボンの作成に成功したのです。
こうして出回ったのが、作業用のブルージンズ。水に強くて痛みにくく、またインディゴで染められていたため汚れが目立たないと好評でした。
彼の会社は、やがて「リーバイス」と呼ばれる世界的アパレルメーカーとして成長していきます。
また、土佐藩出身のジョン万次郎がアメリカにいたのもこの頃。留学生活を終え捕鯨船の乗組員になっていましたが、帰国資金を稼ぐためにゴールドラッシュに沸くカリフォルニアに向かい、金採掘作業に従事しました。
この時稼いだ資金をもとに、万次郎はハワイ経由で日本に帰国。その後の活躍はご存知のとおりですね。
さらに、オーストラリア人エドワード・ハーグレイブスという人物は、まだゴールドラッシュが盛り上がっている1851年にアメリカでの採掘をあっさりと見限ります。オーストラリアにあるシドニーの地形がカリフォルニアに似通っていることに気付き、自国で採掘をはじめました。
するとこちらでも大量の金が発掘。流刑地とされていたオーストラリアは一転して優れた国家として認定され、1901年にはイギリスからの独立を果たします。
ただアメリカ同様、先住民であるアボリジニの迫害が起こり、発展の裏には大きな犠牲をともないました。
世界経済のトップをはしるアメリカですが、そのきっかけとなったのがゴールドラッシュと、シリコンバレーのIT開発でしょう。ここで大きな成功を収めた企業は、巨万の富を築き、アメリカ産業界を支える企業となっています。
この2つの現象は、産業構造の違いからまったく違うもののように見えますが、そこにはある共通点がありました。
スタンフォード大学で教鞭をとった経験のある野口悠紀雄が、地理的条件の共通性と、現代にも繋がるアメリカ企業の経営精神の根源について迫っていきます。
- 著者
- 野口 悠紀雄
- 出版日
- 2009-04-25
当時もはや無政府状態だったカリフォルニアでは、やった者勝ち、失敗は当たり前、という寛容な心が生まれていったそう。そして、相手の求めていることにことを分析して応えた者が金持ちになる、という構造ができあがっていきました。
今日の日本が、アメリカのチャレンジ精神から学ぶことは多いのではないでしょうか。
親のいない自分と妹たちの面倒を見てくれたアラベアおばさまの経済危機を救うため、ジャック少年は金鉱を求めて執事のプレイズワージィとともに、ゴールドラッシュに沸くアメリカ西部の街を目指します。
数々の困難にあいながらも乗り越え解決していくジャックと、彼を支えるプレイスワージィ。2人が苦労のすえに手に入れたものとは何なのでしょうか。
- 著者
- シド フライシュマン
- 出版日
著者のシド・フライシュマンは、マジシャン、そして海軍兵士として世界を回った経験を持ち、終戦後は文学を専攻して小説家になりました。当初は経歴を活かしてトリックに満ちた推理小説を書いていましたが、やがて児童文学の道に進みます。
彼の作品の特徴は、抜けるような爽快感と人の成長を描くオーソドックスさ。本書はゴールドラッシュという一発逆転を夢見た少年の野望と執事の思いやりが非常に色濃く描かれています。
児童文学ながら、当時の移民がおかれていた状況もわかる、優れた一冊です。
金は太古からそれ自体が価値のあるものとして扱われてきましたが、一攫千金という夢は昔から変わりませんね。ただご紹介した著書を読んでみると、金採掘からIT革命にまで産業構造を広げてきたアメリカの力強さを感じます。固定概念にとらわれず常に新たな発想を取り入れ、この厳しい社会を生き抜くために、我々がゴールドラッシュから学べることは実は大きいのではないでしょうか。