異常なほどの愛情を持った少女を描いた作品。その行動は真の愛情と呼べるのでしょうか。恐ろしすぎる物語を最終回までご紹介していきます。
ひとりの少女から強すぎる愛情を向けられた少年にまつわる物語。ジャンルとしては、サイコホラーと恋愛を掛け合わせたものでしょうか。血が飛び、人が死に、恐怖に泣き叫ぶ顔を見て少女は笑うのです。
作者は、『さよならトリガー』で有名な千田大輔。人間の持っている負の感情を緻密に描きます。
本作の魅力は、とにかく振り切った感情が描かれていること。極限の愛情、極限の嫉妬、極限の恐怖……人がその感情を抱いた時、どのような行動をとるのでしょうか。
この記事では、最終6巻までの魅力と見どころをご紹介していきます。ネタバレを含むのでご注意ください。
- 著者
- 千田 大輔
- 出版日
- 2017-07-07
「フミカちゃんがいなかったら、好きになってくれてたかな…?」
「いや仮に…いなかったり先に会ってたらそうなってたかもだけど…」(『異常者の愛』1巻より引用)
すべてのはじまりは、この会話から。主人公の一之瀬一弥(いちのせかずみ)は、小学5年生の時に、同級生の三堂三姫(みどうさき)から告白されます。
しかし幼馴染の二海二美香(にいみふみか)に想いを寄せていた彼は、曖昧ながらも断りました。
一弥の言葉を言葉をそのまま受け取った三姫は、二美香がいなくなれば自分と付きあってもらえると考え、狂気に染まった行動をとるのです……。
「これで私と 付き合ってくれる?」(『異常者の愛』1巻より引用)
小学5年生の一之瀬一弥は幼馴染の二海二美香に想いを寄せていました。一緒に帰る約束をしただけで鼻歌を歌ってしまうほどです。
同級生の三堂三姫から告白をされたものの、「二美香が好きだから」という理由で断ります。
しかし、三姫が一弥を想う気持ちは、想像を絶するものでした。もしも二美香がいなかったら付き合ってたかも、という返答を受けて、それを現実にしようと行動するのです。
一弥が一緒に帰るために待ち合わせをしていた教室のドアを開けると、そこにはカッターを持った三姫と、血だらけで倒れている二美香がいました……。
- 著者
- 千田 大輔
- 出版日
- 2017-07-07
悲劇から6年。一弥は高校生になっています。いまだに事件のことを引きずっていて、できるだけ周りの人とは距離をとる生活をしていました。
唯一親しくしているのは、何かと彼を気遣ってくれる五条五樹(ごじょういつき)と、なぜか一弥に好意を寄せている四谷四乃(よつやしの)の2人です。四乃は可愛らしく、一見おとなしそうですが、一弥への気持ちを積極的にアピール。ついにデートの約束を取り付けました。
しかし再びあの女が登場。6年の時を経て、一弥の人生はまたもや狂わされていきます……。
冒頭からぶっとんだ展開。三姫が最初の事件を起こしたのが小学5年生だということに驚愕するでしょう。まだ愛だの恋だのわからないように思いますが、とんでもない行動を起こすほどに強い想いを抱いていたのか、それとも根っから人としての何かが欠けていたのか……。あまりにも躊躇のない行動に、読者は戦慄することとなります。
そして三姫の矛先は、一弥に近づくすべての女に向けられます。6年が経過し、自立支援施設から出てきた彼女の次なる標的は、四谷四乃です。
肉体的にも精神的にも追い詰めるそのやり方は、口にするのも憚られるもの。どうか覚悟を持って読んでください。
三姫に囚われた四乃の状態は、あまりにも酷いものでした。精神を追い詰められ、体に傷を負わされ……完全に屈服しています。
拘束した一弥の前に、そんな彼女を突き付け、三姫はこう言うのです。
「私と……しよ?」(『異常者の愛』2巻より引用)
言葉を失う一弥ですが、さらに四乃が傷つけられるのを見て、受け入れるしかありませんでした。こうして三姫は、一弥と四乃の身も心も蹂躙し、再び姿を消します。
5年後……一弥は22歳になっていました。彼の心は、ある思いに埋め尽くされています。
「悪魔」と呼ぶべきあの女を自らの手で消すこと……そしてついにその足掛かりを手にし、三姫のいる地へと向かうのです。
- 著者
- 千田 大輔
- 出版日
- 2017-10-06
22歳になった一弥はずいぶんと大人びていて、人当たりもよくなっているよう。大勢の「女友達」がいます。
しかし、誰にも本当の心を開くことはありませんでした。あれから5年間、三姫を殺すことが自分の義務だという思いを強くしながら生きていました。
そんな彼の前に、四谷四穂(よつやしほ)という少女が現れます。四乃の妹で、姉を壊した人物に会うために一弥のことを調べていたそう。協力者が現れたかと思いましたが、彼女の恨みは一弥にも向いていて……。さまざまな恨みや怒りが交わりあうのも、本作の面白いところでしょう。
また、5年間音沙汰のないように思えた三姫が、実は狂気的な愛を持ち続けていたことがわかります。一時も心穏やかになる展開は訪れません。
一弥と一緒に暮らそうと、三姫が東京へやってきます。5年前と同様に四穂を人質に捕られた状況では成す術がなく、一弥は同棲を受け入れました。
自分が余計な行動をとらなければ、周りの人に危害を加えられることはないと考え、一切の感情を殺して生活します。三姫の信用を得て、かつて四谷姉妹を辱めた映像などが残っているデータを消去し、彼女を殺す機会をうかがいます。
- 著者
- 千田 大輔
- 出版日
- 2018-01-09
表面上は恋人同士になった2人。三姫の厳しすぎる束縛にも、一弥はじっと耐えていました。そして機をうかがいます。
しかし、三姫の方が上手。すべて見透かされているのでは……?と不安を駆り立てられ、ハラハラする展開が続くのです。
そして最後には、彼女がやはり「悪魔」だということを身に染みて感じるでしょう。残虐という言葉では足りない行動をとり、もはや人としてのストッパーが外れています。
彼女は、なぜこれほどまでに一弥を自分だけのものにしたいのでしょうか。そこにあるのは愛と呼べるものなのか、それともただの独占欲なのか……。
当の一弥が、これから三姫の言動をどう受け止め、どう清算していくのかに注目です。
ストッパーが外れ、三姫を殺そうと包丁を手に取る一弥。しかし、殺害は失敗。彼は三姫が隠し持っていたスタンガンで反撃され、意識を失ってしまいます。
それから、彼はお仕置きとして自宅で監禁状態に。時が経つに連れて、どんどんボロボロになっていく一弥の姿は、目も当てられないほど悲惨なものです。流血、脱水症状といつ倒れてもおかしくない状況のまま、数日が過ぎていきます。
- 著者
- 千田 大輔
- 出版日
- 2018-04-09
目を覚ますと、一弥は五樹の部屋にいました。実は2人は秘密の合図を作っていて、五樹はそれで一弥の危機を察知、彼の救出に駆けつけたのでした。
そして、そこにはもう1人、四穂の姿が。彼女は四乃の妹であり、また姉同様に三姫による被害者でもあります。四穂は、三姫への恐怖心を引きずりながらも、姉のために戦う一弥を思い、助けに来てくれたのでした。
一弥と四穂は、五樹にこれまでの経緯を説明し、3人でともに戦うことを決意します。これまで孤独であった一弥にとって、初めての仲間です。状況は変わらず厳しいですが、それでも安堵の瞬間です。
さらに、四穂を介して、四乃から一弥に会いたいという連絡が来ます。事件の時から一度も会っていない2人は、実に5年ぶりの再会を果たします。再会までの5年間、三姫から受けた傷が原因で家に引きこもっていた四乃は、一弥に対して一体何を思うのでしょう……。
なかなか状況は良くなりませんが、それでも好転の兆しが見えた、希望のある巻です。しかし、それ故に、今後どんな試練が主人公たちに降りかかるのかと思うと、怖くもあります。しかし、怖いと思いながらもやはり続きが気になります。
4巻で四乃に再会し、決意を新たにした一弥。5巻では、三堂の協力者である高校時代の保健の先生と接触するのですが……。
- 著者
- 千田 大輔
- 出版日
- 2018-07-09
5巻では実際に大きな動きはないものの、過去に先生に何が起こったのかが、彼女の口から明かされます。なぜ、彼女が三堂の協力者になったのか……。
彼女が協力者だと判明したのは、一弥が「お仕置き」の動画が入ったSDカードを被害者たちに返していた時でした。その中に先生の動画もあったのですが、その一瞬の動画以外に、実は彼女には長い、長い罰が下されていたのでした。
その真相を聞き、自分の姉を壊した三堂の「犬」になっていた先生に怒りを隠せない四穂。しかしすんでのところで怒りを抑え、諸悪の根源である三堂を倒すことだけに専念します。
そして、一弥、四穂、五樹、先生で協力関係として動くことになるのですが……。
またしてもここから三堂のカンの良さから、計画が狂っていきます。
一弥にプロポーズまでした三堂が、彼に裏切られたと知れば、さらにお仕置は酷なものになるでしょう。しかも彼女はそんな彼を閉じ込めるための部屋までつくっているのです……。終わりの見えない地獄の日々は、いつまで続くのでしょうか?
先生の裏切りがついに三堂に知られてしまった5巻。6巻では彼女の「お仕置き」のシーンから始まります。
いつものようにサクサクとカッターで体を切られている先生。さらに自分の存在価値まで陵辱され、ついに表情も理性もなくなった状態にまでなってしまいます。
しかし、三堂はさらにそこを追い詰めます。ある程度の理性がないとコントロールが利かないと、自分の身を守るために自我をなくした彼女をさらに追い詰めるのです。
そして一弥の家で彼にお仕置きをするために待ち伏せするのですが……。
- 著者
- 千田 大輔
- 出版日
- 2018-10-09
ついに『異常者の愛』も6巻で最終回を迎えます。何重にも張り巡らされた三堂の罠を、一弥はある方法で見破っていました。
しかし、何度も逃げようと機をうかがう三堂はやはり気を抜けない存在で、また危ういかと思わせられる展開も多々あります。ただ、その度にそれすらも読んでいたかのように一弥の仕掛けがあり、立場が逆転するのです。
そして三堂が捕まったにもかかわらず読むほどに辛くなるのは、一弥が今までの辛かった気持ちをすべて三堂への暴力によって吐き出すから。油断ならない彼女にはそれしか方法はないかとも思えますが、一般人が常軌を逸していく様子に何とも言えない気持ちになります。
しかし、実はそれすらも三堂のある目的を果たすための布石になっていくのでした。
やはり彼女には敵わないのかとなった時、ある人物がその目的を見破ります。
そしてその結末は「異常者の愛」と呼ぶにふさわしい、後味の悪いもの。ただ、これまでの傷が癒えないという事実を抱えながらも、未来に歩んでいく登場人物たちには少しだけ希望を感じられます。最終回は、ぜひ作品で!
狂気だらけの本作。グロ描写に抵抗が無い方は、ぜひ読んでみてください。