卒業にまつわる本【ハナエ】
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卒業にまつわる本【ハナエ】

更新:2020.11.30 作成:2018.3.9

春ですね。今年も花粉症ではないと言い張りながら過ごしています。瞼が少し痒いです。

ハナエプロフィール画像
シンガー
ハナエ
1994年2月27日生まれ、福岡県出身。可愛さと中毒性をあわせ持つ歌声が魅力のガールポップシンガー。13歳の時にGreat Hunting(現ユニバーサルミュージック新人発掘育成セクション)担当者の目に留まり、2011年6月「羽根」でメジャーデビュー。TVアニメ『神様はじめました』第1期・第2期のテーマソングとなった3rdシングル「神様はじめました / 神様お願い」、7thシングル「神様の神様 / おとといおいで」が国内外で話題となる。2015年3月には2ndアルバム『上京証拠』をリリース。この作品は全世界251カ国でも配信された。2016年3月には作詞をすべて手がけた3rdアルバム『SHOW GIRL』をリリースした。2017年、クラウドファンディング限定で1stミニアルバム『Red Lips, Red Kiss』、初となる詩集『路上のロリータ』を発表した。 http://ameblo.jp/hanae-officialblog/
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春。卒業シーズン。今年も、卒業します、という報告がSNSや手紙を通じて届く。おめでとう。卒業式の日が、あなたの好きな天気だと良い。

小学校の卒業式のことはあまり鮮明には覚えていない。父がその場にいる誰よりも激しく泣いていて可愛かった。中学校の卒業式は終わってすぐ家路につき、家のドアの前で苗字が記された名札を投げ捨てた。ああこれでやっと一人になれたと思った。高校の卒業式には出席していない。式が終わって数日後、荷物を取りに学校へ向かった。メイクをすることを許されていた学校だったが、学校に可愛くして行く必要など無いと思ったわたしは素顔のまま登校していた。しかしその日はメイクをして行ったからだろう、教師に可愛いと言われてうるせえと思った。以来学校と呼ばれるものには通っていないので、卒業にまつわる記憶はこれだけだ。

卒業、という言葉は時にとても親切だなと思うことがある。何かにきちんと区切りをつけて終わりを迎えられることなんて、そう無い。春は別れと出会いの季節。終わりとはじまりの季節。そんな言葉で語らなくても人生はさよならすら言えない別れと空気の読まない出会い、終われないものやはじめることすらできないもので満ちている。もう何かから卒業することはアイドルグループにでも入らない限り一生できないかもしれないような気がしている。そう思うと、少し哀しいものですね。花粉症は大丈夫ですか。

今回は、卒業にまつわる本をご紹介する。

砂漠

著者
伊坂 幸太郎
出版日
2010-06-29
「その気になれば、砂漠に雨だって降らせることだって、余裕でできるんですよ」

そう言い切ることは難しいかもしれないが、

「俺を動かしてるのは、俺の主観ですよ」

それくらいの主体性を持って生きていたいものである。

この本の主要な登場人物たちは大学で出会った5人の男女だ。それぞれにどこか未熟で、どこか過剰で、それに悩んだり悩んでなかったり悩まないふりをしていたりする。彼らはボウリングをする。麻雀をする。合コンをする。それは正しく美しい大学生の生活だ。そして通り魔犯と遭遇する。超能力対決をする。それは果たして正しく美しい大学生の生活なのだろうか。軽快なミステリを得意とする伊坂幸太郎氏が描いたこの作品は、ちょっと奇妙で爽快感に溢れた青春群像劇だ。

引用した台詞は西嶋という男の言葉だ。5人の大学生の中でも一風変わった青年。サンボマスターのボーカルである山口隆氏がモデルとなっているようだが、まさに彼の口調や体躯そのもので描かれている。熱くて、そのせいでイタいとされてきて、それを自覚しながらも自分の思った正義のために行動する格好良い青年だ。

大学の卒業式で、学長は彼らに言う。

「学生時代を思い出して、懐かしがるのはかまわないが、あの時は良かったな、オアシスだったな、と逃げるようなことは絶対考えるな。そういう人生を送るなよ」

この言葉に襟を正されるようだった。彼らを取り巻く大学生活、そしてやがて踏み出すことになる社会という砂漠。卒業すると言うことは、砂漠に足を踏み出し自ら歩いて行くということなのだろうか。学生時代は縛られていた。単純に、校則や単位に。そして縛られていたと同時に、許されていた。受動的であることを。それに気付いたのは、卒業して何年も経ってからのことだった。

同級生/卒業生 冬/卒業生 春

著者
中村 明日美子
出版日
2008-02-15
著者
中村 明日美子
出版日
2010-01-28
著者
中村 明日美子
出版日
2010-01-28

高校2年生。眼鏡で優等生の佐条利人と、バンドでギターを弾いている金髪の草壁光。同級生として出会ったまったくタイプの違う少年は次第に惹かれ合い、同じ青春の日々を駆け抜ける。

ほとんど事故のようなキス、炭酸が弾ける音、素肌が透けそうな制服の白いシャツ、音楽室から聴こえるピアノ、屋上と煙草、海に向かう電車、暇と劣等感とバイク、受験期間の苛立ち、何をやってもはじめてのような季節。

描かれている全ての瞬間が透明で、その尊さに泣きたくなる。胸キュンどころか心不全になりそうだ。ときめきすぎて咄嗟に壁を殴りたくなる。どうか二人が未来永劫幸せであるようにと願わずにいられない。有難いことに、なんと作者は彼らの幸せなその後を描いてくれている。本作は人気を博し、続編・番外編として「O.B.」「卒業アルバム」と続く。

二人が思い出を語らいながら高校の校舎を歩く卒業式のシーンでは涙が止まらなかった。幾度となく読み返したこの作品をまた泣きながら読み返し、ふと思う。青春を描いた作品は、満ち足りた青春を過ごせなかった人のために描かれるのかもしれない。そしてそれは、満ち足りないことこそが青春だったと気付かせてくれるためなのかもしれない。そしてそれは、 ただの願望かもしれない。

養護教諭になりたいと思っていた時期があった。学校嫌いのわたしは教室で過ごすことに限界が来た時に保健室に行った。わたしが来たら何も言わずにベッドを仕切っているカーテンを開けてくれた保健室の先生が好きだった。保健室の硬いシーツと布団に挟まれて、制服は物理的にも精神的にも窮屈だなと思いながら窓から見る空は、晴天であれ雨天であれ曇天であれ美しかった。学校から卒業した今、もうあの空を見ることはできない。学校をサボって美術館や映画館に行くことができない。赤いペディキュアを塗った爪を指定の白いソックスで隠すことができない。卒業して出来なくなったことなんて、それくらいだ。たったそれくらいのことなのだ。たったそれくらいのことに救われた日々が確かにあった。