世界三大宗教のひとつであるイスラム教。日本ではまだ馴染みの薄い宗教でもあります。この記事では、概要や歴史、食事、キリスト教との違いなどをわかりやすく解説し、さらにおすすめの関連本をあわせてご紹介します。ぜひチェックしてみてください。
創始者である預言者ムハンマドが、西暦610年に啓示を受け、その後布教をしていったイスラム教。イスラムとはアラビア語で「神に帰依すること」を意味し、信徒は「ムスリム」と呼ばれます。
後述するようにキリスト教と共通点が多いのですが、キリスト教が創始者であるイエスを「神の子」と見なしているのに対し、ムハンマドはただの人間。これはイスラム教が神(アッラー)への信仰を絶対視していることが関係しています。
聖典は、ムハンマドへのアッラーの啓示をまとめた「コーラン」です。「アッラーのほかに神はなし」と示されている一神教。そのため偶像崇拝が禁止されています。
また「コーラン」には、ムスリムはアッラーの前にみな平等であると記されています。このような平等主義的な側面もあり中東や東南アジアなど世界各地に広まっていきました。
2018年現在、信徒数は全世界に16億人以上いるといわれています。イスラム教の内部にはさまざまな宗派がありますが、もっとも代表的なのがスンニ派とシーア派です。
ムスリムは豚肉を食べません。「コーラン」の第5章「食卓」に、「死獣の肉」や「血」などとともに「豚肉」が食べてはならないものとして記されているためです。
この決まりはもともと、宗教的な理由だけでなく、生活上の理由で定められたといわれています。「コーラン」は聖典であるだけでなく、中東で生きていくための生活の知恵をまとめた書物でもありました。
豚肉を食べてはいけないという決まりも、中東の気候では痛みやすいため、食べるのを避けた方が良かったという事情を反映していると考えられています。
ちなみに豚肉そのものだけでなく、豚と少しでも関わりのある食品はすべて食べることを禁じられています。たとえば豚肉を調理した道具を使って料理された別の食材も、食べてはいけないことになっているのです。
牛肉や鶏肉は食べることができますが、その場合もイスラム教の教えに則った方法で加工しなければなりません。また宗派や国によって細かい違いはありますが、基本的にはアルコールが入っているものも禁止されています。
このような教えを守り、ムスリムの方が食べることができるものを、「ハラールフード」と呼びます。日本でもムスリムの観光客が増加しつつあるため、「ハラールフード」に対応したレストランが増えてきているそうです。
メッカ、メディナ、エルサレムの3都市が聖地として重視されているイスラム教。その理由について、歴史とともに見ていきます。
預言者ムハンマドの誕生
ムハンマドは、570年頃アラビア半島のメッカに生まれました。幼くして両親を亡くし、祖父や叔父に育てられます。25歳の頃、15歳年上のハディージャの婿となり商人として成功を収めました。
やがて悩みを抱いた彼はメッカ近郊の洞窟で瞑想にふけるようになります。そこで610年、40歳頃のある日、天使ジブリールより啓示を授かり、ムハンマドは預言者としての使命を果たすために宣教を開始するのです。
このようにメッカはムハンマドの生誕地であり、彼が啓示を授かった場所。そのためイスラム教では、礼拝といって1日に5回(シーア派は3回)、メッカの方角を向いて祈りをささげることが義務付けられています。
またムスリムが守るべき5つの義務のうちのひとつに、メッカへの巡礼があります。巡礼をおこなったムスリムは「ハッジ」と呼ばれ、ほかの信者から敬われるそうです。
ヒジュラ(聖遷)とウンマの誕生
メッカで布教を開始したムハンマド。最初の信者は妻でした。その後親戚や友人など親しい人に教えを説いていきますが、メッカの人々は彼の言葉に耳を貸さず、反対に迫害されるようになってしまいます。622年、ムハンマドとわずかな信者たちは、メッカを脱出してメディナに移りました。
これは「ヒジュラ(聖遷)」と呼ばれるもので、622年がイスラム暦の元年になります。
メディナの住民たちに受け入れられたムハンマド。この地でイスラム教の教えを基軸とする共同体(ウンマ)を築きました。徐々に勢力を拡大し、630年にメッカを征服することとなります。ムハンマドは632年に亡くなりますが、その頃の勢力はアラビア半島のほぼ全域に広まっていました。
このようにメディナは、ムハンマドが基盤を築いた重要な都市です。現在街の中心地にはムハンマドの墓がある「預言者のモスク」が建てられています。
メディナはイスラム教の第2の聖地であり、メッカとあわせて「二聖都(アル・ハラマイン)」と呼ばれています。
イスラム教にとってのエルサレム
ムハンマドがメディナに居住していたころ、天使ジブリールに連れられて、一夜のうちにメッカからエルサレムまで旅をした出来事がありました。「コーラン」には、エルサレムに着いたムハンマドが天馬に乗って昇天し、アッラーや歴代の預言者たちと出会ったことが記されています。
こうした伝承から、イスラム教にとってエルサレムは第3の聖地となっており、ムハンマドが昇天したと伝わる岩のある場所には、「岩のドーム」で有名なアル・アクサ・モスクが建てられています。
しかしこのエルサレムは、キリスト教やユダヤ教にとっても聖地。この地をめぐって歴史的にもさまざまな対立がくり広げられてきました。
近年では、2017年12月にアメリカのトランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都として認定し、イスラム諸国の反発を招いています。
同じ一神教なだけでなく、教義にも似通った部分があります。
実はイスラム教におけるアッラーと、キリスト教のゴッドは同じ神のことを指していて、またムハンマドに啓示を授けた天使ジブリールは、キリスト教の大天使ガブリエルと同一人物です。
なぜこのような共通点があるのでしょうか。キーワードとなるのが「預言者」という言葉です。
もともと「預言者」とは、神の言葉を授かり人々に伝える役目をもった人のこと。ムハンマドが預言者となる以前にも、多くの人が預言者として現れていたと考えられており、とくにノア、アブラハム、ユダヤ教の中心人物モーセ、そしてイエスとムハンマドは「五大預言者」として重視されています。イスラム教においてイエスは「イーサー」と呼ばれ、偉大な預言者として敬意を払われているのです。
また「コーラン」の内容も、ユダヤ教の「旧約聖書」やキリスト教の「新約聖書」と共通する部分があります。
ただイスラム教では、ムハンマド以前の預言者たちはさまざまな要因から、神の考えを正しく広めることができなかったとされています。そこで神が最後の預言者として遣わしたのがムハンマドであり、正しい聖典として授けられたのが「コーラン」であるという立場をとっているのです。
そのため、キリスト教がイエスを「神の子」と崇めていることに対し、批判的。イスラム教にとってイエスはあくまで預言者であり、信仰の対象ではありません。イスラム教にとって信仰すべきはアッラー以外ありえないのです。偶像崇拝の禁止も、アッラー以外の信仰対象を作りたくないという考えを反映したものだといえるでしょう。
- 著者
- 内藤正典
- 出版日
- 2016-07-17
著者の内藤正典は、本書を通じてイスラム教に対する偏見の多くが西欧の近代的な価値観に影響されたものであると主張。近年の日本でも「イスラムは怖い」というイメージが先行しており、多くの人が実態を知らないでいると指摘しています。
イスラム教の価値観は、西欧のそれとは根本から異なるという指摘は傾聴に値するでしょう。
サブタイトルにもあるとおり、いまや世界の3人に1人がムスリムの時代。本書を読んでまずは少しでも身近に感じてみてはいかがでしょうか。
- 著者
- ユペチカ
- 出版日
- 2017-07-08
アメリカに留学した日本出身のサトコと、サウジアラビア出身のナダのルームシェア生活を描いた4コマ漫画。2018年には「このマンガがすごい!」オンナ編3位とwebマンガ部門で4位を受賞しています。
2人の交流は決して特別なものではなく、仲のよい女子大生同士のよくある光景。だからこそ、自分と異なる文化を持つ人と交流する際に大切なことが伝わってきます。
作中ではイスラム圏の文化も紹介されており、楽しく知識を増やすことができるでしょう。
- 著者
- カレン・アームストロング
- 出版日
- 2017-09-20
宗教学者である著者が、ムハンマドの誕生から現代に至る1400年あまりのイスラム史をまとめた一冊。
前半はムハンマド誕生から19世紀前後まで、後半は近代に入ってからイスラム教がどのように近代化や世俗化に対応したか、また今日の原理主義の発生についても思想的背景も踏まえつつ紹介しています。
幅広い年代を扱っているうえに、馴染みのない用語も多いため、初心者の方にはやや難しく感じるかもしれませんが、内容そのものは物語風に記されていおり、巻末には索引や用語集が付いているので安心。
思想的背景を重視してまとめられているため、事実関係だけでなくイスラム教そのものについても理解を深めることができますよ。
イスラム教の価値観は日本人が抱いている価値観と異なる部分が多々あるため、知れば知るほど新鮮な驚きに満ちています。上記の3冊を手掛かりに、自分の視野を広げてみませんか?