動物たちが暮らす弱肉強食の世界に迷い込んだ、人間の主人公。大自然のなかで生き、すべての動物が仲良く暮らせる方法は無いか模索します。生命をテーマにした壮大な物語が楽しめる『どうぶつの国』の魅力を考察していきましょう。
熱く感動的なストーリーによって数多くのファンを獲得した少年漫画『金色のガッシュ‼』。本作はその作者・雷句誠が描いた、動物たちっを主役にした物語です。「ガッシュ」の連載が終わった翌年の2009年から2013年まで、「別冊少年マガジン」にて連載をしていました。
母親に捨てられ、どうぶつの国に流れ着いた主人公が、自分を拾ってくれた動物たちと関わるなかで命の大切さを学び、やがて生態系が抱えている大きな問題を解決するために奮闘していきます。
今回は壮大なテーマが隠された本作の魅力をご紹介していきます。ネタバレを含むのでご注意ください。
- 著者
- 雷句 誠
- 出版日
- 2010-03-17
舞台となっているのは、多くの動物たちが暮らす大自然「どうぶつの国」。タヌキの少女モノコは、川で人間の赤ん坊を拾います。どうやらその子は親に捨てられて、流されてきたようでした。
徐々に衰弱していく赤ん坊を見て、タヌキたちは困惑しながらも力を合わせ、なんとか助けようと奮闘しました。やがて生きる意志を取り戻した赤ん坊を見て、モノコはこの子を母親として育てていく決意をするのです。
その赤ん坊はタロウザという名で、当初は泣くことしかできませんでしたが、なんとさまざまな動物の鳴き声を理解することができるようになるのです。いつしか種の違う彼らの架け橋となり、自然のなかで多くの生死にかかわるうちに、肉食動物も草食動物も仲良く暮らすことのできる方法を模索していきます。
本作は、主人公のタロウザが動物たちと関わるなかで生命そのものについて考え、進んでいく物語だといえます。彼が目標としているのは、弱肉強食のない、すべての動物が仲良く生きていける世界をつくること。
序盤はタロウザがタヌキをはじめ動物たちと一緒に暮らすなかで、強い肉食動物が弱い草食動物を捕食するという構図を目の当たりにし、悲観します。自然界においては当たり前のことで、動物たちはそれについて特に疑問を抱いていません。
しかしすべての動物の言葉を理解できるタロウザにとっては、命が命を奪うということ自体が心を苦しめるものでした。
動物たちの間でも、種族が違えば言葉は通じません。そのためさまざまな誤解が生じています。たとえばタヌキたちは、自分たちの縄張りにたびたび現れる巨大な黒山猫を見て、襲われると思っていましたが、実は黒山猫はほかの山猫からタヌキが襲われるのを守っていただけ。
双方の言葉を理解できるタロウザによってその事実が明らかになり、その後は黒山猫が死にそうなった際タヌキが力を合わせて彼を助けてあげる場面もありました。
タロウザが少年から青年に成長する間、ある衝撃的な出来事が起こります。これを境に彼は、すべての動物たちが命を奪い合うことのない世界を目指し、そのために自分の人生を捧げる決意をするのです。
多くの命が奪い、奪われる弱肉強食の世界。生態系のピラミッドの構図を当然のこととして受け入れていた読者も、あらためて命の在り方を考えるきっかけになる物語です。すべての動物が幸せに生きられる世界など、つくることができるのでしょうか。
- 著者
- 雷句 誠
- 出版日
- 2010-04-16
序盤から中盤にかけては、大自然を舞台に動物たちが生きていく物語。しかしストーリーが進んでいくと、単に弱肉強食をテーマにしたものではなく、SF的な要素を秘めた壮大な物語へと変化していくのです。
これまでは実在する動物たちの食物連鎖を描いてきましたが、後半からはなんとタロウザ以外の人間が登場。そして彼らが使役する人造生物「キメラ」によって、食物連鎖の枠の外から動物たちの蹂躙が始まるのです。
「キメラ」が登場したことをきっかけに、タロウザはこの星に存在するすべての生命を守るための戦いに身を投じていきます。
またこの世界では、タロウザと数名の人間を除いてすでに人類が滅亡していることも判明。そしてタロウザを含む生き残った人間たちは、全員が動物の言葉を理解できる能力を持っているのです。
一体なぜそのよな人間だけが生き残っているのでしょうか。そして彼ら人間は、「キメラ」を使って何を成し遂げようとしているのでしょうか……。物語が進むごとに謎が増え、読者はタロウザとともに頭を悩ませながら読んでいくことになります。
- 著者
- 雷句 誠
- 出版日
- 2010-08-17
本作の魅力は物語だけに留まりません。丁寧なストーリーを表現するひとつひとつの描写も魅力的なんです。
作中ではたびたび、タロウザの仲間となった動物たちが勢ぞろいするシーンがあります。見開きのページいっぱいに、所狭しと動物たちが描かれているのです。しかも当然物語が進めば進むほど、登場する動物たちは増えていきます。終盤近くになると、まさにそろい踏み。圧巻のひと言です。
迫力のある戦いのシーンでも、その魅力は存分に発揮されています。手に汗握るストーリー展開をさらに盛り上げているといえるでしょう。
また動物だけでなく、その背景にも注目。大自然の様子がありありと伝わってきて、細かく見れば見るほど作者の熱が伝わってきます。ぜひじっくりとご覧ください。
ここまで『どうぶつの国』そのものの魅力についてご紹介してきました。そんな本作には、雷句誠の代表作である『金色のガッシュ‼』からゲスト出演しているキャラクターや、ファンサービスともとれる要素が盛り込まれています。
たとえば本作に「クオウ・タカミネ」というキャラクターが登場するのですが、『金色のガッシュ‼』の主人公は「高嶺清麿(たかみねきよまろ)」という名前。さらに『金色のガッシュ‼』に出ていたウマゴンは、本作にもそのまま登場します。
これらの共通要素について、作者は目立ったコメントをしていません。両方の作品を読んだ読者が自由に世界観の繋がりを想像できるものになっています。
- 著者
- 雷句 誠
- 出版日
- 2014-03-07