無邪気で可愛い少女と、彼女に甘くとても優しい「おにいちゃん」。唯一の家族である「お兄ちゃん」の優しさと愛情を求めて、「おにいちゃん」をレンタルする姿が切ないです。 この記事では2巻までの見所をご紹介!スマホの漫画アプリで無料で読むことができるので、そちらもぜひチェックしてみてください。
はたから見れば、お互いを慕い気遣いながらも、仲のよい兄妹に見える「叶実」と「おにいちゃん」。
しかしひと度タイマーが鳴ると、2人はこれまでの無邪気な様子とは打って変わります。叶実は「おにいちゃん」に対して敬語で話し、お金を差し出すのです。この「おにいちゃん」は彼女がレンタルした偽物の兄でした……。
Twitterで連載をはじめはたころから話題となった本作は、叶実のまっすぐさと「おにいちゃん」の不器用な優しさが魅力になっています。そんな本作の見どころをご紹介していきましょう。ネタバレを含むのでご注意ください。
- 著者
- 一色箱
- 出版日
- 2018-03-22
小学生の叶実がレンタルしたのは、かつての「お兄ちゃん」に似ている、血の繋がらない「おにいちゃん」……。
両親の死をきっかけに、実の兄は豹変。自室にこもってゲームをし、家の中はぐちゃぐちゃです。時には叶実に手をあげることもあります。
彼女がそんな兄の姿にひとりで耐えていた時、ひょんなことから出会ったのが「おにいちゃん」でした。優しく寄り添ってくれる彼を見て、無条件ですがりつきたくなりますが、自身のけじめとしてお金を支払うことを申し出ました。
実の兄の愛を取り戻すために偽物の「おにいちゃん」に頼る少女と、そんな彼女に過去の自分を重ねている青年の、不器用で優しい物語です。
本作を読むうえでポイントとなってくるのが、叶実と「おにいちゃん」の関係が「レンタル」によって成り立っているということ。
ビデオやDVDでもそうですが、「おにいちゃん」は「レンタル」なので、借りた「時間」に対して「お金」がかかります。いくら楽しく過ごしていても、タイマーが鳴れば2人はお金を払う側と、受け取る側に立場が分かれてしまうのです。
ひとり公園で泣いている叶実を見かけた時、「おにいちゃん」はお金をとる気などありませんでした。しかし彼女は、実の兄と「おにいちゃん」を混同しないよう、自分自身へのけじめとしてお金を支払いたいと申し出たのです。
かつて辛い過去を経験した「おにいちゃん」は、彼女が自分と同じような苦しみをこれ以上味わうことのないよう、ただ側にいて支えてあげたかったのですが、幼い叶実にその気持ちはわかりません。しかも不幸中の幸いで、両親の遺産があるためお金は十分にありました。
また、叶実にとってはどんなに冷たくされても、どんなに傷つけられても、「実の兄」が大切。「おにいちゃん」も彼女のその気持ちは理解していて、だからこそ無理強いはしません。叶実の望むように時間を決めて、叶実の望むようにお金を受け取るのです。
レンタルをしている間の2人がとても楽しそうだからこそ、タイマーが鳴った時の彼らの表情や、お金のやり取りをしている姿が切なく映ります。遠慮がちに微笑む叶実と、平静を装ってお金を受け取る「おにいちゃん」を見ると、いつか2人の想いがそれぞれ届くことを願うしかありません。
叶実と「おにいちゃん」が出会ったのは偶然でした。「おにいちゃん」が帰宅途中、公園で幼い叶実がひとり泣いているのを見つけ、声をかけて身の上話を聞いたのがきっかけです。まだ小学生の彼女が抱える苦悩を少しでも減らせたらと、レンタルされることを申し出ました。
「おにいちゃん」は、両親を亡くし、兄と会話することもままならないという彼女に、過去の自分を重ねています。彼も小学生の時に両親が離婚。大好きだった母親は息子である彼を置いて家を出ていき、父親はまったく会話をしなくなったそうです。
また彼は、今でこそ普通に笑って生活していますが、当時は話しかけてくれる同級生を無視して、さらに冷たい言葉をあびせることもありました。
幼い子どもにとって、親や家族は絶対的な存在。そんな親に置いていかれ、言葉も交わさない生活というのは、経験していない人が想像する以上にきっと辛いものでしょう。「おにいちゃん」は自身も味わったことのある寂しさだからこそ、叶実を救いたいと強く思ったのです。
しかし実は、彼自身もいまだその過去と向き合いきれていません。「おにいちゃん」が今明るく笑えるようになったのには、別の要因がありました。それはぜひ実際に読んでたしかめてみてくださいね。
叶実は、家で実の兄から疎ましく扱われ、時には暴力を振るわれるだけでなく、小学校でもいじめられていました。「おにいちゃん」以外に拠り所がなく、彼もそんな叶実の様子を知ってか知らずか、彼女が全力で自分を頼れるよう心がけます。
- 著者
- 一色箱
- 出版日
- 2018-03-22
一方の叶実は、自分のなかで「おにいちゃん」の存在が大きくなるたびに、「レンタル」「支払い」と反芻し、ストッパーをかけているようでした。
「おにいちゃん」と一緒にいることが、彼女にとっては救いでもあり、ある意味自分の首を絞める行為にもなっているのです。
ただそれでも、「おにいちゃん」がいるからこそ、叶実は実の兄を追い求めることができます。彼女の最終的な目標は、実の兄が昔のように笑って話してくれるようになることなのです。そのためは今、精神的な支えとして「おにいちゃん」が必要でした。
物語の途中で叶実は、「おにいちゃん」の過去を知り、彼がお金のためではなく本当に自分を支えようとしていることを知ります。そして、実の兄からどんな暴言を吐かれても、何度も立ち向かっていくことができるようになるのです。
傷ついても何度でも前を向く彼女の姿は健気で、とても小学生とは思えないほど強いです。現状を考えると、小さな女の子がとても耐えられるようなものではありません。そんななかで「おにいちゃん」の力を借りつつしっかりと意思をもって行動する姿に胸打たれるでしょう。
彼女の気持ちがいつか兄に届くことを願うばかりです。
「おにいちゃん」の存在を実の兄に知られ、「じゃあ 俺のことはどうでもいいの?」と笑顔で追い詰められた叶実。それをきっかけにして彼と一緒に最後にご飯を食べたのはいつだったろうかと思い至ります。
そして2人の大好物だったハンバーグをつくってあげることを思いつくのです。
最初はひとりでやろうとしますがやはりうまくいかず、「おにいちゃん」をレンタルをすることに。しかしその途中で皿を割ってしまい、過去に実の兄に怒鳴られた辛い記憶がフラッシュバックします。
そしてとっさにこの状況をどうにかしなければ、と「ごめんなさい」と繰り返しながら破片に手を伸ばすのですが……。
- 著者
- 一色 箱
- 出版日
- 2018-09-21
もちろん、それを「おにいちゃん」が止めます。そして優しく彼女にこう言うのです。
「今のは手を滑らせた俺も悪いんだよ
もし叶実がケガしたら悲しいから おにいちゃんに任せて
おにいちゃんは叶実から ごめんなさいじゃなくて
ありがとうが聞けるとうれしいな」
(『レンタルおにいちゃん』2巻より引用)
そしてこのことをきっかけに、叶実はまた成長します。クラスのいじめっ子や、お兄ちゃんへの関わり方に優しい変化が起こっていくのです。
しかし、やはり実の兄の心の傷はそれくらいでは癒えないよう。そしてそれをきっかけに「おにいちゃん」があることを提案してきて……。
素直に「おにいちゃん」が教えてくれる良いことを吸収して育っていく叶実。ただ、2巻で2人の関係性にまた変化が訪れます。果たしてこのことが今後どう作用していくのでしょうか?
レンタルを通してしか支えることも支えられることもできない2人の不器用さが、健気で優しい本作。「叶実」「おにいちゃん」「お兄ちゃん」の関係が今後どう変化していくのか、目が離せません。