701年に制定された大宝律令によって、646年の大化の改新から目指された律令制が確立し、天皇中心の政治が本格的に始まった奈良時代。いわゆる奈良の大仏が象徴するように、仏教色が強く、貴族を中心とした華やかで国際色豊かな時代でもありました。今回は、主な出来事を年表でご紹介したうえで、政治や文化、生活の特徴をわかりやすく解説していきます。またあわせておすすめの関連本もご紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
一般的に、710年から794年までの84年間を奈良時代といいます。ただこの時代を理解するには、701年に「大宝律令」が制定されたことも欠かせないので、このページではそこから取り扱っていきましょう。
奈良時代の特徴を簡単に述べるのであれば、「天皇中心の明確な秩序を築いた時代」だといえます。そのために制定されたのが、唐の制度を見習った「大宝律令」でした。「律」では刑罰に関する決まりが、「令」では政治に関する決まりが定められており、これを全国に適用します。
このような制度を「律令制度」と呼び、これほど大規模でしっかりした制度が確立したのは日本史上初めてのことでした。
律令制度によって、天皇が政治の中心となり、地方の有力な豪族であっても定められた大宝律令を守らなければいけなくなります。奈良時代から、天皇中心の政治が本格的に始まったのです。
また文化としては、「東大寺盧舎那仏像(とうだいじるしゃなぶつぞう)」など唐から伝わった仏教が朝廷に保護されながら発展しました。
実は貴族の権力争いごとや、庶民の間に飢饉が起こるなど、国内が荒れていた時代でもあったので、天皇が仏教の力で国を治めようと考えたのです。
大宝律令のもとで天皇中心の政治をおこなうために、都に「二官八省」という組織が作られます。
二官とは、祭祀を司る神祇官と、政治を司る太政官のことで、特に太政官は実際に政治をおこなうための機関だったため非常に強い権力を持っていました。
八省は太政官の下にある組織で、「宮内省、大蔵省、刑部省、兵部省、民部省、治部省、式部省、中務省」の8つです。現代における文部科学省や経済産業省のようなものだとイメージしてかまいません。この二官八省の頂点に天皇が君臨し、政治の中心を担いました。
また徴税の仕組みが整理されたのも奈良時代の大きな特徴です。天皇は農民に口分田を与えて農作業に従事させ、口分田から収穫された稲を税として納めさせました。このような仕組みを「班田収授法」といいます。
ちなみに税には、稲で納める「祖」のほかに、特産品を納める「調」や、労役の代わりに布を納めさ「庸」といったものがありました。
天平文化とは、遣唐使から伝えられた唐の文化の影響を色濃く受けたもので、貴族を中心とした華やかな文化でした。唐のほかにも西アジアや南アジアの影響も受けているとされており、国際色豊かだといえるでしょう。
朝廷が仏教を信仰し保護したことで、仏教は日本で発展していきました。とくに724年から始まった聖武天皇の時代には、国分寺や奈良の大仏建立の詔が出されるなど、天平文化の最盛期を迎えます。
また、日本の歴史が書物としてまとめられたのも見逃せません。日本最古の歴史書である『古事記』や『日本書紀』が書かれました。
『古事記』には、日本列島誕生など神話が中心に記されています。これは、天皇を神の子孫とすることで支配をより正当化する目的がありました。一方で『日本書紀』は、歴史を記録する目的で書かれています。
各地方が、それぞれの文化や産物、伝承を記したものをまとめた『風土記』もあります。こちらは天皇が全国を支配するにあたって、情報を収集する目的がありました。常陸(茨城県)、播磨(兵庫県)、出雲(島根県)、豊後(大分県)、肥前(佐賀県)の5ヶ所のものが現存しています。
建築では、唐招提寺金堂や東大寺法華堂、法隆寺伝法堂など仏教に関するものが多く建立されたほか、正倉院も校倉造(あぜくらづくり)の代表作として有名です。正倉院には聖武天皇の遺品や宝物が収められましたが、そのなかには中国やペルシャからの輸入品も多く含まれていたことから、シルクロードの終着点とも呼ばれています。
芸能の分野では、『万葉集』が現代にも通じる和歌の集大成として名高いです。飛鳥時代から約130年間もかけて編集された、4500首以上からなる大作で、天皇や貴族の和歌だけでなく、農民など貧しい人々の作品まで収録されています。
朝廷での服装は、衣服令によって礼服・朝服・制服の3種類に分けられ、服の色や形で着ている人の地位が判別できるようになっていました。唐の制度を見習ったものです。
女性の髪形にも唐の影響があらわれており、長い髪を真ん中で分けたり、頭頂部で結っておでこを出したりするスタイルが流行します。
食事は、強飯(こわいい)というもち米を蒸したものや、魚の塩焼き、里芋、わかめ汁などに加えて、蘇という乳製品も食べるなど現代に近い形です。
しかしこれらはすべて皇族や貴族の話であり、庶民は貧困にあえぎながら前時代的でみすぼらしい服装や食事をしていました。彼らは「租・庸・調」の納税だけでなく、「雑徭(ぞうよう)」という労役や兵役の義務まで負わされ、苦しい生活を送ります。与えられた口分田から逃げ出して、浮浪となる者も多かったそうです。
- 著者
- 岩井 渓
- 出版日
- 2007-07-01
全10巻からなるシリーズで、2冊目の本書は古墳時代の後半から奈良時代までが描かれています。大学受験など特定の試験対策を目的としていない分、細かすぎたり偏っていたりせず、歴史の大枠を漫画でしっかり理解できるでしょう。
絵が綺麗でストーリーも丁寧に描かれているため、勉強として読むのはもちろん、単純に娯楽として楽しむこともできます。まだ歴史に興味を持っていないお子さんなどにプレゼントしても喜ばれそうですね。
- 著者
- 文化財研究所奈良文化財研究所=
- 出版日
- 2016-11-29
いい意味でマニアックな一冊。奈良時代の庶民の生活についてここまで掘り下げている作品は珍しいです。
残っている資料が少ないため当時の様子がどうしてもわかりづらいなか、本書は平城京から見つかった「ごみ」から人々の生活を掘り下げています。
ただ教科書を見ているだけではわからないことばかり、また全ページカラーで写真も見やすく、文章も易しいため大人も子供も楽しむことができるでしょう。
戦国時代や明治維新のような派手さこそないものの、日本という国の制度を固めていった重要な時代。堅苦しいイメージもあるかもしれませんが、紹介した本はどちらも楽しく学べる奥深いものなのでぜひ読んでみてください。