よしもとばななさんのこの小説に出会ったのは、もう5年くらい前です。初めて読んだときから何かに惹きつけられたけれど、最近までその正体に気づきませんでした。今、いろんなことを少しずつ知ってきたからこそ、なんとなくこの小説の正体が見えてきた気がして、今回のコラム書かせていただきました。人生の重さや軽さ、明るさや暗さ。ちょっとまだ完全には正体が分かってないので伝わりにくいかもしれませんが……。これからもどんどん好きになりそうな一冊です。
- 著者
- よしもと ばなな
- 出版日
- 2012-08-02
主人公のみちよが下北沢に住み始めたのは、みちよのお父さんが、みちよやみちよのお母さんのまったく知らない女の人の無理心中に巻き込まれてしまって一年後くらいだった。
お父さんを失って、しばらく何も食べることができなかったみちよと、みちよのお母さんに生きる力を貸してくれた場所。冷たくて美味しいかき氷とみずみずしくて栄養たっぷりのサラダ。そこで毎日丁寧に仕事をしていたシェフに、なんでもない日々を紡いで生きているこの町の人たちに励まされて乗り越えた夏を経験し、みちよは父との思い出が詰まりすぎている実家を離れて、下北沢で新しい人生を始めることを決意します。ひとりで実家にいたくないと家出してきたお母さんもここで暮らし始め、ふたりは少しずつ少しずつ日常に戻っていきます。前向きすぎず、後ろ向きすぎないこの親子が下北沢という町で一緒に生まれ変わっていくのが心地よくて、何度も読み返してしまうお気に入りの本です。
思いつくままにできたようなお店や建物でいっぱいの雑然としている町の風景に、いろんな人々がやってきてはとどまって、そしていつか去っていく様子、川の流れみたいに最初は汚くても、いつからか自然にあるべきように整っていく感じ。人と人とが関わって、人と人との温度でつくられているというこの町はなかなかに独特だなと思います。
お話は暗いようで明るいし、明るいようで暗い。一言では魅力を伝えられない本ですが、心地よい絶対的な救いのお話です。お父さんを失った娘と母がふたりで生きていくという、暗いように思えるストーリーですが、主人公のみちよが下北沢の素敵なビストロで毎日きびきびと働いていたり、みちよのお母さんが若者の町に馴染もうと古着のTシャツを着て近所を散策したり、悲しいことがあっても暗いばかりではない日常の風景がなんだかリアルで、下北沢に引っ越してきたばかりのお母さんがだいたいの一日の流れを説明するシーンでは、楽しそうだなって思ってしまうくらい。ゆっくりゆっくり歩いて、適当な場所でお昼ご飯を食べて、夕方になったら家に帰って。そんな単純な毎日を紡いで日常をとり戻していく様子に、シンプルで大切な時間を見つけられます。
一日の時間の流れって、夕方になる前にぐうっと長くなって、日が沈むと急に早くなるじゃない?(略)あの、ずるずるって時間が伸びて、お餅みたいに伸びて、そしてそれからきゅううって早くなるところの境目がわかるの。
すごく悲しいことがあったとき、じわじわと悲しくなって、たまに苦しくて死にそうになって、もう一生このままで生きていくんだと思ったり、逆に、あ、今日は平気だ、って思えるときがあったりの繰り返しだなあって思うんですが、小説でこの感じを描いてある本に出会えたのは初めてで、そのとき、もしいつか何かすごく悲しいことがあったときはこの本を読もうって決めました。そして絶対いつか下北沢に住もうって決めました(笑)。
あとがきでよしもとばななさんが「自分と似たタイプの人なら、きっちりと癒せる」とおっしゃられているんですが、私は完全によしもとばななさんに似たタイプだったみたいです(笑)。この主人公ほど悲しいことはなくても、ちょっとした違和感だったり、不都合だったりをこの本はきっちり癒してくれて、希望さえ与えてくれます。悲しみの種類は違っても、立ち直るために必要なものってどの場合も案外一緒で、立ち直るための時間や、手助けをしてくれる人の強さは違っても、根っこの感情の部分は一緒なのかなって。
愛されている自分に誇り高くあれと彼らが行動で教えてくれていた気がなぜかするのだ。うっかり死んじゃっても、家があるのに家出して娘のところに転がり込んでも、何があっても彼らは彼ららしく生きていた。そのことも私をだめにさせなかった。
というフレーズがあるんですが、とってもグッときました。
何かから立ち直ろうとするときは、悲しさやトラウマに引きずられてしまうのは別に、つらかったことを忘れて失っていくことへの罪悪感みたいなものもあるんじゃないかって思います。そういうときってたいていどこか引っかかるような気持ちがあって。見ないフリをしたらいつか大変なことになりそうな気持ち。でも私たちは生きていかなきゃだからどんどん忘れていく。そういうのを理屈で解決するのはきっとできないことなので、主人公たちはここで時間をかけて、自分は許されているんだってことを受け止める必要があったのかな、なんて思います。
話はそれるんですが、私は下北沢が大好きです! 好きなバンドの方がよくライブをされるライブハウスが下北にあるし、好きなカレー屋さんもあるし、好きなハンバーガーのお店もあるし、お店か家かよく分かんないような感じの建物の近くをただ歩いているだけでなんとなくワクワクして楽しいし。いつかここに住んで、終電ない時間にだらだら歩いてみたい。そんなに豪華な家じゃなくて、ちょっとせまいかな?くらいのシンプルな家に、ひとりか、あんまり仲良くない友達とかと住みたいな(笑)
読んだら確実に下北沢のファンになるこの本。ぜひ一度読んでみてください!
- 著者
- 山崎 ナオコーラ
- 出版日
- 2013-08-01
関連性はあまりないんですが(笑)。下北沢の古本屋さんでみつけて好きだった本です。ビー玉の女の子(!?)が持ち主の男の子に恋をする。ビー玉の「あたし」は、持ち主の高校生の男の子「清順」が大好きなんだけど、ビー玉の好き好きアピールに清順はそっけない。設定が不思議な話だけれど、すっと入ってくる世界観の青春恋愛小説。ファンタジーならではの儚さやきれいさがとても素敵な本です。
- 著者
- ["唯川 恵", "桜沢 エリカ"]
- 出版日
『あたしはビー玉』は表紙のイラストがすごく可愛いのですが、表紙イラストの可愛いつながりでもう一つ。28歳、彼氏なし。女性向けファッション誌の編集をやっている「桃子」の日常を追った日記風の小説です。日記には毎日食べたもの、なんだかさえない日も、最高だった日も。いろんなことが赤裸々に書かれています。日記風なので読みやすいし、この年頃の女の人だったら、グッとくるものがあるかも。タイトルに共感した人はぜひ読んでみてください!
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