江戸時代の日本は、鎖国政策によって外国との交流を絶ち、引きこもっていたイメージが強いです。しかし実際の江戸幕府は、積極的に海外の情報を手に入れ、戦略的に外国との交易をコントロールしていました。日本がこの政策をおこなうに至った背景や理由、開国への動き、オランダをはじめとする諸国との貿易の実態に迫っていきます。
江戸時代におこなわれていた印象の強い鎖国。しかし実際は、豊臣秀吉が支配力を持っていた頃から、外国との交易を禁止したり、キリスト教徒を迫害したりする政策は存在していたのです。
安土桃山時代、秀吉は織田信長の「キリスト教保護令」を引き継ぎ、布教も容認していました。しかし1596年に起きた「サン・フェリペ号事件」などをきっかけに禁教令を出し、キリスト教への警戒を強めるようになります。
この方針は江戸幕府成立以降も継続されましたが。それでも外国との貿易は禁止されていませんでした。
鎖国をすることになった大きな原因は、3代将軍・徳川家光時代の1637年に起きた「島原の乱」です。キリシタン迫害に対する反発で、日本史上最大の一揆といわれました。幕府はこの乱を鎮圧した後、国を乱す元凶になるとしてキリシタンへの弾圧を加速させ、鎖国の完成を進めていきます。
当時の幕府は、日本が諸外国から植民地とされることを防ぐために、キリスト教徒やその宣教師の母国を排除していたといわれています。自国を守るためには避けては通れない道だったのでしょう。
幕府が諸外国との交易を断っていくなかで、唯一交易を続けた欧州国がオランダでした。長崎の出島に限り、オランダ船の寄港を許したのです。オランダは、キリスト教布教への興味がなかったことが理由であるとされています。
幕府は資源のやり取り以外に「オランダ風説書」という海外の情勢を記した報告書を毎年提出させ、限られた情報のなかで世界情勢の把握に努めました。
また食料や資源の調達を日本国内だけでおこなうのは不可能だったため、オランダ以外にも中国(明・清)、朝鮮王朝、琉球王国とも貿易を継続。砂糖・生糸・朝鮮人参などを輸入し、着物・漆細工・銀や銅などを輸出していました。
一般的には1639年~1854年の215年間が鎖国期間といわれています。その間に起きた出来事を、外国から日本への接触を中心にみていきましょう。
1639年:ポルトガルとの交易をやめ、オランダ以外の欧州国との接触を禁止する。(鎖国の完成)
1673年:リターン号事件。イギリス船リターン号が、家康の発行した朱印状を持ち交易再開を求めて来航。しかし幕府はこれを拒否した。
1792年:ロシアのアダム・ラクスマンが根室に上陸し通商交渉を求めるが、幕府は拒否した。
1808年:フェートン号事件。オランダと敵対関係にあったイギリスのフェートン号が、オランダの国旗を掲げて出島に入港した。
1837年:モリソン号事件。開国・布教を目的としていたアメリカのモリソン号が、日本の漂流民を助け、送り届けるために浦賀に来航したが、幕府が砲撃して追い返した。
1846年:フランスの提督が神父を伴って来航するが、幕府は上陸を拒否した。
1853年:マシュー・ペリー率いるアメリカ艦隊が来航し、開国を要求した。
1854年:ペリー再来航。「日米和親条約」を締結し、下田と函館を開港する。鎖国終了。
11代将軍・家斉が治める1800年代に入ると、日本への開国要求は加速していきました。モリソン号事件の際には幕府の対応に対して市民の不満が噴出し、幕府の威光が揺らぎはじめます。だんだんと、開国要求への対応を考えざるを得ない状態になっていったのです。
また当初の目的のひとつだったキリスト教の禁止は、鎖国が終了した後も続けられました。完全に禁教が解かれたのは1873年のことです。
著者のロナルド・トビが江戸時代の日本について、外国人の目線で記しています。当時の文献や記録を用いながら、実は外国に対して「開かれていた」日本の姿が紹介されています。
江戸時代の日本といえば鎖国、というイメージを持っている方にとっては、目からウロコの内容でしょう。これまでの価値観が変わる一冊です。
- 著者
- ロナルド トビ
- 出版日
- 2008-08-26
鎖国は江戸幕府による「他国に対して開かれた」外交手段だった、という筆者の視点は斬新です。日本人とは違った視点から当時の日本が描かれており、これまでとは異なる価値観で歴史に触れることができます。
鎖国について書かれているのは全集のうちの第9巻なので、本書を通じて歴史に興味を持った方は、ほかの巻にも手を伸ばしてみるといいかもしれません。
鎖国下の日本にとって、オランダは欧州国の中で唯一の交易国でした。そこから得る情報は、幕府が世界情勢を把握するために必要不可欠なものだったでしょう。
一方でオランダは、日本との貿易独占を図るため、幕府に伝える情報を取捨選択していたのです。本書は、当時幕府に提出されていた覚え書きを用いながら、そんな情報戦の実態に迫っていきます。
- 著者
- 松方 冬子
- 出版日
- 2010-03-01
「オランダ風説書」は世界情勢を記した覚え書きで、年に1度徳川幕府に提供されました。本書では互いの利益のために風説書がどのように使われていたのかを、オランダ側の目線から紹介しています。
西洋の近代化を刻々と伝えられた日本はどのように対策を練っていったか、日本との貿易独占を維持すべくオランダがいかに情報の取捨選択を画策していったか……高度な情報戦の実態がリアルに描かれた渾身の一冊です。
徳川家康が、265年間続いた江戸時代の礎をどのように築いていったのかをわかりやすく紹介した作品です。漫画で書かれているので読みやすく、歴史の流れも把握しやすいでしょう。
内容は「関ヶ原の戦い」から「江戸の三大改革(享保の改革・寛政の改革・天保の改革)」について。鎖国については「第2章 幕府による貿易の統制」「第3章 鎖国への道」にて触れられています。
- 著者
- つぼいこう
- 出版日
- 2011-01-31
鎖国当時の日本の情勢が、非常にわかりやすくまとめられています。難しい事件も噛み砕いて丁寧に説明してくれているので、より当時をイメージしやすくなるでしょう。冒頭にカラーで載っている、関連するイラストや写真資料も嬉しいポイント。
活字やあらたまった勉強が苦手なお子さんにもおすすめの作品です。
ペリーが来航する以前から、諸外国は日本に開国させようとさまざまな動きを見せていました。それにもかかわらず、なぜ日本は頑なに鎖国政策を続け、キリシタンを弾圧していたのか……日本側と外国側の奏上の立場から当時の状況を見ていくと、新たな発見がたくさんあるのではないでしょうか。次は開国後の幕末や明治維新についても調べてみると、より深く歴史の流れを理解することができるでしょう。