今回は漫画『ハピネス』を紹介します。平凡な少年が吸血鬼となり、過酷な運命に巻き込まれていく物語です。奇才・押見修造が描く渇望と絆のダークファンタジーの世界を、ちょっと覗いてみませんか?
押見修造により「別冊少年マガジン」にて、2015年から連載中の漫画『ハピネス』。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2015-07-09
エロティックでグロテスクな描写が多い一方、互いの幸せを願う登場人物たちの純粋さが際立つ物語。彼らが過酷な宿命に立ち向かう姿には、「続きが読みたい」と思わせる迫力と見ごたえがあります。
そんな『ハピネス』の魅力を、本記事では単行本の内容に触れながらご紹介。ネタバレありなので、未読の方はご注意ください!
平凡な高校生・岡崎誠(おかざきまこと)は、ある晩少女に首を噛まれ大怪我を負ってしまいます。一命は取り留めたものの、体の異変に苦しめられるように。そんな彼を救ったのは、同学年の女子生徒・五所雪子(ごしょゆきこ)でした。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2015-07-09
1巻の見どころは、誠の肉体に生じた「変化」です。謎の少女に噛まれた誠は、光が苦手になり血の臭いにも敏感になります。それは女性特有の「アレ」の臭いに反応してしまうほど。
さらに、身体能力も飛躍的な向上を見せます。誠をいじめていたクラスメイト・大野勇樹(おおのゆうき)を一撃で倒し、空を飛んでいると錯覚させるほどのジャンプ力を有するように。
誠はどうなっていくのか。数奇な物語の始まりとともに、期待と不安の入り混じる感情が呼び起こされるはずです。
いじめっ子だった勇樹を不良たちから助けた誠は勇樹と友達に。一緒に遊んだり、お礼として腕時計をもらったりと、今までにないのどかな日常を過ごします。ところが、今度は誠をターゲットとした不良たちは、友人を利用して彼をおびき出すのでした……。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2015-12-09
2巻では新たな吸血鬼・サクが登場します。
誠が不良グループに襲われていたところに突然現れた彼。偶然ではなく、誠が助けを求めたことを察知してやってきたとのこと。吸血鬼同士はテレパシーのようなやりとりができるとわかります。
サクは不良たちの血を吸い、後始末として彼らを殺そうとします。吸血鬼の掟なのか彼自身のルールなのか、どうやら必ずそうしなければならないようです。さらにサクは吸血鬼になったばかりの誠のことも殺そうとします。
助けに来てくれたかと思いきや、まさかの展開。スリル満点のアクションシーンは、必見です!
誠の血を吸った少女・ノラの助けによりサクを撃退。しかし、誠を守ろうとしてサクに噛まれた勇樹は、深手を負いながら人目につかない所に遺棄されてしまいます。瀕死の状態で発見されなんとか回復しますが、勇樹にも誠と同じ異変が生じるのでした……。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2016-05-09
3巻は急展開の連続です。
ノラの誘いを拒んで血への衝動と闘いながら日常を過ごす誠の前に、謎の組織がやってきます。どうやら、吸血鬼について知っている様子です。彼らの目的とは一体……?
そのまま訳も分からず連れ去られそうになった誠を、間一髪のところで助けたのは勇樹でした。そして、誠に「一緒に逃げよう」と持ちかけます。彼は母親の血を吸って殺害し、帰る場所を失ってしまったのです。
血への渇望に居場所を奪われていく2人。滲み出る悲壮感が印象的です。
ノラに救いを求め、彼女の寝床を訪れた誠と勇樹。ところが勇樹の匂いを嗅いだノラがいきなり彼を攻撃し始めます。
「こいつからは真っ黒な匂いがする」
(『ハピネス』4巻より引用)
そう言って勇樹を拒絶するノラ。怒りを覚えた勇樹は彼女に反撃したあと、その場を立ち去ってしまうのでした。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2016-10-07
4巻は、愛情と絆を描いたシーンが多く見られます。
誠は一度は拒んだノラに歩み寄り、ともに生きていくことを選択。彼女のもとで疲れた心身を癒します。血を分け合った2人が心を通わせるシーンには、純粋な心情が感じられ微笑ましいです。
一方ノラに拒絶された勇樹は、恋人の白石菜緒(しらいしなお)のもとへ。幼なじみでもある菜緒は、勇樹と愛し合いながら彼の心に寄り添います。こちらでもピュアな感情が育まれていると分かる印象的なシーンです。
しかし、それもつかの間、それぞれの状況は一変します。その落差の大きさに、衝撃を受けることでしょう!
誠たちと音信普通になってしまい、彼らの身を案じる雪子。そこに突然勇樹から連絡がきます。
協力者・桜根とともに勇樹のもとに向かい、彼を桜根のアパートに保護。ところが、そこで桜根が邪な本性をあらわにするのでした……。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2017-03-09
5巻では、桜根の裏切りによって雪子がピンチに陥ります。
「家族を吸血鬼に殺された」と言って雪子に近づいてきた桜根。それは真っ赤なウソでした。彼自身が冷酷な殺人鬼だったのです。
桜根の邪心に気がついた雪子は逃亡を図りますが、ナイフで切りつけられアパートごと燃やされそうになってしまいます。
絶体絶命の状況。雪子はこの危機をどのように切り抜けるのか、必見です!
誠たちが姿を消してから10年。26歳になった雪子は、桜根に付けられた傷を隠しながら、平凡な生活を送っていました。
ところがある日、通勤途中で見かけた週刊誌に桜根らしき人物の写真が。記事を読み、桜根だと確信した雪子。そのとき過去のトラウマが蘇ってしまい……。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2017-09-08
6巻では、10年間止まっていた雪子の時間が再び動き始めます。
過去のトラウマで外出もままならない状態になってしまいますが、同僚・須藤の励ましによって克服。彼の好意に応えられないながらも、雪子は幸せな時間を過ごします。
そんな中、偶然誠の母親と再会。息子の幸せを願う母の気持ちに胸を打たれ、雪子の中の「誠を救いたい」という思いが再び動き出します。
雪子の思いの強さに、心揺さぶられます。
桜根が立ち上げた宗教団体「幸せの血」。所在地を突き止めた雪子は、たった1人で潜入するも、あえなく信者に見つかってしまいます。
桜根と再会し戦慄する雪子。導かれるまま足を踏み入れた地下牢で、10年前に桜根とともに姿を消した勇樹とも再会するのでした。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2018-01-09
7巻では勇樹が再び登場。しかし、生気を失ったように何もせず、一言も喋ろうとしません。
雪子は桜根から「勇樹を話ができる状態にしろ」と命じられ、勇樹とともに閉じ込められてしまいます。勇樹が口を閉ざす訳が気になるころ。そもそも桜根は勇樹を利用して一体何をたくらんでいるのでしょう。
誠やノラの行方など分からないことだらけですが、話が進むにつれ序々に明らかになっていくと思われます。今後の展開からも目が離せません!
8巻では、捕まった雪子を助け出そうとする須藤が、桜根によってメッタ刺しにされる様子からスタート。しかし、それにショックを受けた彼女の叫び声によって、廃人同然だった勇樹は目を覚まし、桜根を蹴り上げ、地下室から抜け出すのですが……。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2018-06-08
8巻は血なまぐさいシーンから始まりますが、まだまだここからが最大の見所。このあと桜根の過去が明かされて、それがとてつもない胸糞な内容なのです。どこまでも暗く、不愉快で、可哀想と感情移入できる要素もありません。しかしなぜかとてもリアリティがあり、それが余計に読者の心を揺さぶってくるのです。
そしてこのあと、起き上がった桜根の指示によって、神様と崇められていた勇樹にピンチが訪れ……。
9巻では再び誠の視点で物語が展開しそうです。また、全体的にラストに向けて動いている雰囲気が感じられ、山場という様相を呈しています。
独特な世界観に定評のある押見修造。そんな彼の作品を集めた<押見修造のおすすめ作品ランキングベスト6!『惡の華』だけじゃない!>の記事もおすすめです。ぜひご覧ください。
ご一読いただき、ありがとうございました!