意外と知らないジュゴンの生態!人魚伝説にもなった絶滅危惧種の特徴を紹介

更新:2021.11.13

人魚のモデルとして有名なジュゴン。神聖視される理由はその外見だけではありません。今回は意外と知らない生態や、体の特徴、マナティとの違いなどをわかりやすく解説し、あわせておすすめの関連本もご紹介していきます。ぜひチェックしてみてください。

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ジュゴンとは。人魚のモデルとなった絶滅危惧種!

 

人魚のモデルといわれるジュゴンですが、実は発見されたのは16世紀に入ってから。一方で人魚伝説の原型は、古代バビロニアのオアンネスやギリシャ神話などで、そのことからジュゴンを見かけた人が人魚と勘違いしたのではないかと考えられています。

人魚と結び付けられた理由は諸説ありますが、なかでも水面から顔を出し、直立の姿勢で幼体に授乳する姿が人間の女性を連想させた、という説が有力です。

日本で唯一ジュゴンの飼育をしている鳥羽水族館にいるメスは、「セレナ」という名前を付けられていますが、これもフィリピン語で人魚を表す言葉。セレナは同じ水槽で飼育されていたアオウミガメととても仲が良く、別の水槽に移された際には鬱症状が見られ、再び同じ水槽で暮らすようにすると元気になった、というエピソードがあります。

このような人間を思わせるような心の動きがあるところも、人魚と結び付けられる一因なのかもしれません。

しかしジュゴンは2018年現在、人間の乱獲によって数が減り、絶滅危惧種としてレッドリストに入っています。

実はかつて人間が食用に乱獲したことで、地球から姿を消した「ステラーカイギュウ」という海牛類がいました。北大西洋に浮かぶコマンドル諸島周辺に生息していて、1741年に遭難した船の乗組員によって初めて発見されます。

飢えに苦しんでいた彼らはステラーカイギュウを捕まえて食糧にしたのですが、赤身は上質な牛肉のように美味で、油はアーモンドオイルのように香り高かったと記録が残っているのです。

帰国した船員たちによってその噂は広がり、乱獲された結果、発見からわずか27年後の1768年に絶滅してしまいました。

このような出来事から、「ジュゴンを第2のステラーカイギュウにはさせない」という強い信念のもと、保護活動がおこなわれています。

ジュゴンの生態は?

 

インド洋や太平洋の熱帯、亜熱帯の沿岸部に生息する生物で、特に水温の高い浅瀬を好みます。体長は2.4m~3m、体重は250kg~420kgの海生哺乳類です。草食性で、アジモやアマモといった藻を餌としており、1日あたり自分の体重の1割ほども食べるそう。

単独性で授乳中の母子のみが一対で行動し、また一夫多妻制のため、雄雌のつがいで行動することはありません。母子の繋がりは非常に強く、授乳期間は1年半にもおよびます。

赤ちゃんは体重30kg、身長1m程度で誕生し、生まれてからすぐに藻を食べることもできます。しかし授乳期に母親を亡くした赤ちゃんが生存する可能性は低く、早急な保護が必要です。

祖先は「デスモスチルス」という巨大なカバを思わせる生物で、これは象の祖先と共通していると考えられています。象とジュゴンの姿はかけ離れているように見えますが、雌は歯肉に埋もれて確認が難しいものの象牙と似た牙があること、象は前肢の付け根に乳腺と乳首を持ち、ジュゴンも前肢にあたる胸ビレの付け根に乳腺と乳首を持つなど、類似点が見られます。

ジュゴンの体の特徴は?

 

ずんぐりとした釣り鐘型の体型をしていますが、その巨体を支えている骨格は非常に堅牢で緻密なつくりをしています。骨密度も高く、これは、激しい波が打ち寄せてくる沿岸部で流されないよう、体を安定させるために進化したものだと考えられています。

顔を見ていると、時おり瞬きをするような仕草が見られますが、瞼はありません。目を閉じているように見える仕草は、目の周りの筋肉を収縮させることで起きています。視力はあまり良くなく、聴力に頼った生活をしており、目の後方にあるほんの小さな孔が耳です。

鼻には弁があり、潜水する際には弁を使って鼻の穴に蓋をして、鼻腔に水が入り込むのを防ぎます。鼻と口の間には洞毛と呼ばれる毛が密集して生えており、この洞毛には触角の役目があり餌である藻を選別するのに使われていると考えられています。

上唇と下唇の間には、咀嚼版と呼ばれる舌のようなものが見られ、これは海藻や藻をすりつぶして食べる時に使う海牛類にのみに存在する特徴的な器官です。

ジュゴンとマナティの違い

 

同じ海牛類の仲間であるジュゴンとマナティを見分けるには、まず尾びれを見るとよいでしょう。

ジュゴンの尾びれはイルカやクジラのような他の海生哺乳類同様の三日月形をしており、マナティは丸みを帯びた扇形をしているのです。

またジュゴンは海に生息して草食で偏食。一方のマナティは淡水の河川や湖に生息し、水族館などの飼育環境下では果物や野菜なども食べます。食べるものが違うため口の形態も異なり、下を向いて地下茎まで引き出して藻を採食するジュゴンの口は下向きに開くのが特徴。背の高い水草も食べるマナティには見られません。

また、マナティも「デスモスチルス」を祖先に持つと考えられていて、胸ビレの先にある爪が、象の爪先によく似た外見をしています。しかしジュゴンや象に見られる上顎の牙がマナティにはなく、同じ祖先から進化した種の細かな差異を見ることができるでしょう。

鳥羽水族館の副館長による記録

著者
片岡 照男
出版日

 

1977年にフィリピンから寄贈されて以降、長年にわたりジュゴンの飼育と研究に携わってきた鳥羽水族館。本書は、同館の副館長を務めた片岡照男がその生態と人魚学を解説したものです。

片岡は研究の第一人者ですが、文章は冗談も交えた親しみやすいもので、知識がない人も楽しく読み進めることができるでしょう。はじめて飼育された個体は「じゅんこ」というダジャレのような名前をつけられた、など思わず誰かに話したくなるトリビアも記されています。

最終章では、ジュゴンを語るうえで避けては通れない環境と保護について書かれており、淡々と事実を記して解決策を模索する姿勢に深い愛情と真摯な態度がうかがえるでしょう。

鳴き声からジュゴンの謎を追う

著者
市川 光太郎
出版日
2014-08-27

 

著者の市川は、世界で唯一ジュゴンの歌声の研究をしている人物。対象にした個体に小型カメラを装着し、「バイオロキング」という手法を用いて音を解析しています。

なんと学生時代の偶然の重なりからジュゴンの音響観察をするようになったそうで、この成り行きも自虐を交えて面白おかしく書かれているので冒頭から引き込まれるでしょう。感情が昂ぶると鳴くことや、調査過程でジュゴンのオスとメス、そしてウミガメの三角関係が観察されたことなど、音からわかる事柄は興味深いものばかりです。

またタイトルにもなっている「つかまえ方」についても、怪我をさせないために網を使わず、意外な方法をとっており、ジュゴンに対する深い愛情が感じ取れます。市川の研究を応援せずにはいられない、アツい想いが伝わってくる一冊です。

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