全国の活字中毒者たちに朗報。すきあらば本を手に取り、活字を目で追わねば落ち着かない、難儀なあなたへ。どんなスキマ時間でもススッと入れてススッと出られる、ナイスにジャストフィットなスキマ本をご紹介。ドーン!!!
とうとつですけども、どのようなスタイルで本をお読みになりますか。
好きになったら一直線、その1冊にひたすら集中、一気に読み切る派、ですか。
それとも、港々に女あり、部屋のあちこちに本を置いて気ままに併読していく派、ですか。
まとまった時間を確保して、楽しみにとっといた新作の長編小説に没入する数時間、なんてのはこれもう、至福の極みでありますが、それはそれとして、忙しい日々の中ぽっと空いたスキマ時間に、一瞬、あれこれつまみ読むのも、ささやかな人生の幸せの一つと申せましょう。
思ったより早く用事が終わって、次の待ち合わせまでちょっと空いた時間、とか。病院の待合室で名前呼ばれるの待ってる間、とか。鰻重注文して待ってる間、とか。
ヘイ、ラッキー。スキマ時間ウェルカム。
昨今はそんなときケータイでツムツむのかしらん。
しかし活字中毒者としてはやはりどうしたって本を開きたい。どっかそのへんに本転がってないものか。
いつでも探してしまう、どっかに本の姿を。
トイレの中とか。カバンの中とか。向かいのホーム、路地裏の窓、こんなとこにいるはずもないのに!
もうなんでもいいからとにかく字を見たい! そして何かしら頭の中で妄想したい!
しかしこの、スキマ時間につまみ読む本「スキマ本」の選定にはくれぐれも慎重になりたいものです。
スリルとサスペンス! 二転三転する波乱の展開! 主人公を待ち受ける運命は……! なんて本うっかり開こうもんなら、続きが気になっちゃってその後の予定に支障が出る。
もしそれが電車で帰宅途中だとしたら。
話のキリのいいとこまで、もう電車降りらんないでしょ。環状線ならまだしも、中央線なんか乗っててごらんなさいよ、自宅の最寄り駅通り越して、気がつきゃ高尾山ですよ。
もしそれが病院での待ち時間だとしたら。
本に集中しちゃって、看護婦さんに名前呼ばれてんのに気づきもせず。永遠に待合室に座ってる気か。あら、午前の診療終わっちゃった!
そんな大げさな、と思うかもしれない。
しかし私は実際、観劇のため友人と待ち合わせの間たまたま読み始めた本があまりに面白く、友人が来てもどうにも読むのを止められず、結局友人だけお芝居観に行ってもらって、私は終演までずっと外のベンチで本読み続けたことがあります。さーいてーい。
ちなみにその、スキマ読みに不適切な、危険きわまりない本は、さらりとコチラ。
- 著者
- 京極 夏彦
- 出版日
- 1998-09-14
古本屋にして陰陽師が、憑き物落としの手法で事件を解決する、京極堂シリーズの第一弾。京極夏彦のデビュー作。
まず本の分厚さと、漢字量の多さで他を圧倒。
作中人物たちの会話の中で、蘊蓄が次々繰り出されるにもかかわらず、読んでいる側を飽きさせない語り口が素晴らしい。
そして物語が進むにつれ、それらの膨大な情報が次々とパズルのようにあるべきところに嵌まっていって、物語が脳内で一気にぐぐっと立体的に立ち上がる瞬間は、もはや快感。
戦後すぐのざわざわした感じ、妖怪や民俗学、憑き物落とし、探偵小説、このあたり好きにはほんとたまらん。間違いないです。
新書で発売当初、ちょっとひくくらい分厚い本だと思ったのに、今や京極夏彦著作の中ではぜーんぜん、なにこれ薄くなーい?くらいに思っちゃう。慣れ、おそろしす。
あ、だから、ちゃうのちゃうの、えっと、スキマ時間を埋める本に気をつけろ、という話。軽ーく一杯のつもりで吞んで、いつの間にやらはしご酒~、とならぬよう。
今回ご紹介したかったのは、すっと入ってすっと出られる、小粋な立ち吞み屋、のようなスキマ本、こちらです。
- 著者
- 村上 春樹
- 出版日
- 2018-04-27
2015年に期間限定で公開されたウェブサイト「村上さんのところ」上で、読者からの質問に村上春樹が答えた問答集。
17日間に世界中から届いた3万7465通のメールを、3カ月かけてたったひとりで完全読破し、せつせつと書き連ねた3716の回答、その中から選りすぐりの473問を掲載した書籍版。
さんまん、やて。げほげほ。
村上春樹の小説について、の質問はもちろん、家庭のこと、仕事のこと、猫のこと、ヤクルトスワローズのこと、その他なんやかんや様々なひとたちが様々な質問を投げかけるのに対し、時にはさらりと、時にはばっさり、時にはがっちり正面から受け止めて、回答していきます。
「村上さんのところ コンプリート版」として電子書籍もあります。こちらは全回答3716問を完全収録。さすがにその量となると、電子バンザイ。
(本の帯より抜粋)
村上春樹が、読者からの質問に答えます!
迷ったら何度でも読み返したい人生の常備薬
む、人生の常備薬、とまで言われると、そうか、うーん、そ、うなんか……?
いろんな人がいろんなことを思って生きていることであるなあ、面白いなあ、くらいで俯瞰して読むと、ちょうどいいというか、生きやすいというか、なんせ堅苦しく読む本じゃないです。
ひとつひとつが短いのでね、いつでもどこでも読み始められるし、どこでも切り上げられる、とてもよいスキマ本です。
村上春樹さんのエッセイには安西水丸さんのイラスト、でしたが、水丸さんが亡くなって、今回フジモトマサルさんがイラストを担当。擬人化した動物たちのひとコママンガやイラストの醸し出すふしぎワールドが、この本の軽みとうまいこと調和しています。
ええやないの、このコンビ、これからも楽しみやないの~と思いきや、このあとフジモトさんも若くして病気で亡くなってしまって、それがとてもとても無念。
なお、広く世間に流布している「ハルキスト」という呼称を、「村上主義者」にしましょうよ、と提案しているのもこの本です。
- 著者
- ["せきしろ", "又吉 直樹"]
- 出版日
- 2014-04-10
そうか、これは句なのか。
五七五の形式を破り自由な韻律で詠む「自由律俳句」を、500以上収録。さらに散文と、著者撮影の写真とで構成。
自意識とセンチメンタルと妄想の世界が、ほんの1行の言葉の連なりでぶわっと脳内に広がります。書き手の言葉の選び方と、読み手の脳髄の、共同作業。それがわんさか載っているので、ひとつひとつ味わうのに時間がかかってしかたない。
ボウリング場ハイタッチが近づいてきた(せきしろ)
カゴの中身でカレーとばれないか(又吉)
痛いと言えるほど親しくない(せきしろ)
自分が注文した料理が余っている(又吉)
ぱっと開いたページで目に飛び込んできた句ひとつを、その日1日頭の中に転がして、状況を頭に思い浮かべてずっと楽しんでいられる。
本を手にしていなくても、その世界に遊べる。これが500コあまり。なんて便利なんだ。なんてコスパいいんだ。
「自由律俳句」とか名前つけられると、なんだか小難しそうで構えてしまうけれど、つまりはあれやな、ひとり脳内ツッコミ、やな。
つまりはあれやなひとり脳内ツッコミやな(やまゆう)
お、なんかそれっぽくなった。
- 著者
- 石川直樹
- 出版日
- 2016-01-22
写真家・冒険家の石川直樹が、旅の道具を写真とエッセイとで紹介する。テントや衣服、カメラ、寝袋などなど、長年愛用している道具類を、それぞれ「装備」「テント生活」「仕事道具」「身に着けるもの」「山暮らしの小物」に分類して列挙。
全ての装備を知恵に置き換える努力をしつつ、自分にとって必要不可欠な道具だけをもって、未知の荒野を歩こう。道具に縛られるのではなく、道具によって自由になる。そんな旅を、これからも続けていきたいと思っている。
2015年のK2長期遠征の際に使用した道具を中心に紹介しているので、まずもって山、しかもけっこうな極地での使用を想定したモノたち多数。よって、とくに山登りしないひとにとっては、ハーネスとかピッケルとか今後もあまり縁が無いものだけども、そこらへんの実用性とはべつに、本当に必要な道具はなにか、とか、自分には何が必要であるのか、とか、己の持ち物を考えるきっかけになります。
パッとページ開いて、「ヒーター内蔵インソール」なんてのを読んで、ふーむなるほどなるほどそうなのね~、つって、またパッと本を閉じられる。潔い。
それはさておき、わたしもたまに舞台の地方公演で1カ月分~、とか荷造りするとき、さしたる意味もなくナルジンボトルとかカラビナとかパッキングしたりして。なにその、中途半端な山用品への憧れったら。恥ずッ!
ええ、丘サーファーならぬ、平地登山家、と呼んでくれてかまいませんことよ。岩のぼらないのにパタゴニアのロックパンツはいて、家で洗濯物干してるしな!
ではまた来月。
やまゆうのなまぬる子育て
劇団・青年団所属の俳優山本裕子さんがお気に入りの本をご紹介。