五月病のモヤモヤを吹き飛ばす本【松原汐織】

更新:2021.12.3

こんにちは、松原汐織です。新年度が始まってから1カ月強。いかがお過ごしでしょうか。清々しい天気が続き、五月が一番好きな月という方も少なくはないのでは? その一方で新年度からの疲れも溜まってきて、何となく気持ちが晴れず五月病を迎えてしまう人もいるそう。五月病にならないために自ずと前向きにさせてくれる3冊を紹介します。

ブックカルテ リンク

日常に興味の矛先を増やす一冊

著者
牛島 信
出版日
1999-04-25

現役の弁護士が書いた企業法律小説。圧倒的な取材力が良い小説になるものだとずっと思っていたけれど、取材より実際に経験した人が書く世界こそリアルなものは無い。弁護士であり文才もあるなんてズルイ!と心底思ってしまった。株主総会は知ってはいるけれど、何をどうしているのか細かく説明せよと言われたら難しい言葉だと感じる人も多いのではなかろうか。合資会社や少数株主など何となく知ってはいるけれど……と思っていた言葉が次々登場してくるのだが、小説なので流れが把握しやすくスイスイと頭に入ってくる。歴史を覚える際にストーリーで覚えることが大事だと学生時代に言われたことを思い出した。

リストラ目前の総務部次長が株主総会でいきなり社長を解任し、会社を乗っ取るところから話は始まる。途中あまりに解任された社長が哀れに感じてしまうのだが、最後は法に救われてハッピーエンドなのも気持ちがよい。

私たちは法律というシステムの中で生きている。無知こそ恐怖であることさえも知らずに……。トラブルに巻き込まれないために何となく理解しておくことも自己防衛のために必要だろう。教科書や専門書は億劫なので、楽しく学べる小説がお手軽で良い。自分を守ること以外にも、知識が増えればニュースを見た際に理解が深まる。興味の矛先を増やすことも普段の生活を飽きないために大切だと思う。

読んでいて、城山三郎著『総会屋錦城』を思い出した。城山三郎氏や山崎豊子氏の作品が好きな方はきっと好きな一冊。

日常にキラメキをもたせる一冊

著者
["田辺 あゆみ", "藤代 冥砂"]
出版日
2004-04-30

写真家の藤代冥砂さんが妻でモデルの田辺あゆみさんを撮ったフォトエッセイ。日常の瞬間が切り取られた写真と藤代氏のコメントに胸が熱くなる。

初めてこの本を手に取ったのは8年ほど前。20歳になる直前、「自分が思い描いていた20歳はこんなはずじゃなかった!」ともがいていた時に書店にて出会った。風穴が欲しくて手当たり次第に本を読んでいた私に、日常こそが美しいものなのだと気付かせてくれた思い出深い一冊。あの頃は写真や文字からにじみ出てくる愛の偉大さに羨ましく思えて仕方がなかったけれど、嘗て無いほどの穏やかな気持ちで日々を過ごしている今の私は読みながら自分の大切な人を思い浮かべて涙が出そうになった。彼から見た世界はどんな風に描かれているのだろうかと。

息子さんが生まれて母となった姿を収めた『もう、家に帰ろう2』は更に素敵。命の重さや親の愛の偉大さを感じ、目頭が熱くなる。

君が生きていてくれるから、私はどうにか世界の端にぶら下がっていられる。陽のあたる場所に顔を向け今日を生きられる。

当たり前になってしまう日常に幸せを感じることができるのか。それは心がけ次第だと思う。日々を慈しんで生きたい(自分へ言い聞かせる意味を込めて)。

日常で美意識を高めさせてくれる一冊

著者
T. Richardson
出版日
2007-01-01

「私はどんな人になりたいのだろう?」。時たま自分自身に問いかける。

どんな服を着て、どんな話し方をして、誰とどんな風に一緒に生きたいのかと。自分が出来る様になりたいことやなりたい姿をイメージしながら考えると見えてくることがある。そして、もう何年も変わらずに憧れ続けるも現実とかけ離れているのでガッカリするのがボブ・リチャードソンの写真集に出てくる様な女性たち。ハンサムでセクシー。媚びずに生きるオンナの姿が眩しくてカッコイイ。ひょろっと細くて色気があるタイプでも無いし、性格もワイワイやかましいタイプだと自己認識している私には程遠い姿。でも、ページをめくる度に登場する女性たちのオンナっぷりと言ったら、もう惚れ惚れ。自然と背筋が伸びてしまう。

息子さんのテリー・リチャードソンが編集した作品。テリー同様にボブもかなり破天荒だったそう。上記の『もう、家に帰ろう』とは全く違う、しっかりと作り込んで撮ったファッションフォトばかり。モノクロで重厚感のある写真は、見るだけでセンスが磨かれて行く様な気さえ起きる。

忙しく日々を送っていると、「今日もこれでいいかな?」と服選びの際に思いがち。そんなんじゃ憧れの自分になれないと奮い立たせてくれる一冊。

五月病って幼い時から知っている言葉ではあるけれど、暦通りではない仕事のせいか身の回りに起こることではなくなってしまった言葉。でも、これだけ誰もが知っている言葉なのだから経験者も毎年多いのではなかろうか。 
この3冊を読んで、周りにも自分にも過度に期待をせずに日々を大切に生きようとあらためて思いました。

Photographer : JITO YU 
Hair&Make-up artist : SAYAKA SHIBUYA
 
Stylist : MINORU

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