頭から1本の長いツノが生えているような、特徴的な見た目をしている「イッカク」。その姿から「海のユニコーン」とも呼ばれていますが、実はアレ、ツノではないことをご存知でしょうか。この記事では、謎に満ちた彼らの生態や、ツノのようなものの役割、値段などをわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本もご紹介するので、ぜひご覧ください。
クジラやイルカと同じく、海中に生息する哺乳類です。ハクジラ亜目イッカク科イッカク属に分類されています。
体長は、オスが約4.7m、メスが約4.2m。体重はオスが約1.5t、メスが1tに満たないくらいと、かなり大きいのが特徴。主な餌はエビやイカで、5~20頭ほどの群れを形成して生活しています。まれに数百~数千ほどの集団で行動することもあるそうです。
生息地域は、北極圏を中心に北緯70度以北に限定され、なかでもカナダの北側やグリーンランドのフィヨルド地帯に多く暮らしています。
夏の間は海岸近くで生活していますが、冬になって海水が凍結しはじめると、海岸から離れて浮氷に覆われた海域に移動。温かくなり氷がとけると再び海岸近くに戻ってきます。季節ごとに適した環境を求めて海を回遊しているのです。
繁殖期になると、オスはメスを巡って争いをくり広げます。この時に用いられるのが、イッカクの大きな特徴であるツノのようなものです。
頭から生えているように見えるのは実はツノではなく、歯が成長して牙となったもの。イッカクの歯は上顎に2本だけ生えており、この内左側の1本が上脣を突き破って長く伸びているのです。牙は例外なく左巻きの螺旋状となっています。
体長が最大で4.7mほどであるのに対し、牙は最大3mまで成長します。中は空洞ですが、重さは10kgに達することもあるようです。この牙は死ぬまで伸び続け、1度折れると二度と再生することはありません。
オス同士が牙を使って争う際は、ぶつけ合って攻撃をするのではなく、長さや角度を競います。勝者は多くのメスを従えてハーレムを形成することができるのです。
かつては北極海の氷に穴をあけるために発達したのではないかと推測されていましたが、近年の電子顕微鏡を用いた研究で、牙の内側から外側に向かって神経系の集合体があることが判明しました。どうやら牙を介して気圧や温度の変化を感じとることができるようです。
頭から1本のツノが生えているように見えることから「イッカク(一角)」と名付けられた彼らは、その名のとおり、通常は2本ある歯のうち1本だけが成長します。
しかし500体に1体という確率で、歯が2本ともツノのように伸びている個体が存在しているのです。この場合、右側の牙は左側の牙よりも短くなりますが、2本とも左ねじ方向の螺旋状に溝を作ります。
また通常メスは牙を持ちませんが、約15%の確率でオスと同様に歯が発達し、牙になる個体が存在するようです。メスの牙は長さが1.2mほどで、オスと比べると短くなります。
さらに珍しい例として、メスでありながら牙を2本持つものも存在しますが、非常に珍しく、2018年現在で1例しか確認されていません。
牙は1度折れてしまうと、再び伸びることはありません。そのため長く伸びれば伸びるほど、貴重なものとなります。
中世ヨーロッパでは、空想上の動物であるユニコーンのツノに解毒作用があると信じられていました。イッカクは英語で「Unicorn Whale」と呼ばれ、彼らの牙がユニコーンのツノであると偽って売買されていたようです。
日本では江戸時代にオランダから輸入され、当時の百科事典である『和漢三才図会』に掲載されています。麻疹の治療などに用いられていました。
以前、テレビ番組で牙の値段を鑑定したところ、1本350万円の値がつけられました。かなり貴重なものなのでかつては高額で取引されていたようですが、現在はワシントン条約で取引が禁止されています。
クジラやイルカの仲間たちは、重要な器官にのみ血液を送ることで酸素を節約したり、血液や筋肉の中に酸素を貯蔵したりすることができます。そのため、肺呼吸をする哺乳類でありながら、海の中で暮らすことができるのです。
また彼らの肺は非常に頑丈にできており、肋骨には軟骨があります。これによって水圧の強い深海でも、肺が潰れたり肋骨が折れたりすることなく生活できているのです。
ちなみに海で暮らす哺乳類たちの、種類別の潜水可能な時間と水深は以下のとおりです。
イッカクは哺乳類のなかでも屈指の潜水能力をもっているといえるでしょう。
- 著者
- マーク・カーワディーン
- 出版日
クジラとイルカの仲間を、学名・生息地・生息状況・個体数など種類ごとに紹介している作品です。
さらに専門家の詳しい解説と、900点を超えるフルカラーイラストを掲載。一目でそれぞれの特徴を捉えることができるほか、生態描写も秀逸です。
図鑑でありながら持ち運びしやすい大きさなので、ホエールウォッチングのお供として持参するのに最適でしょう。希少な種類についても詳細な記述があるので、これ一冊でさまざまな情報を網羅できます。
- 著者
- わたなべ ゆういち
- 出版日
- 2014-12-01
1983年度に「ボローニャ国際児童図書展グラフィック賞」を受賞した、「ねこざかな」シリーズの16作目。30年以上続く人気を誇るシリーズです。
いつもは冷たい海に住んでいるイッカクくんが、ねこざかなが住んでいる暖かな海にやってきます。しかし慣れない環境についイライラを募らせてしまい……。
印象的な黄色と水色のしましま柄で表現される、海や夜空。シリーズの特徴である、のびのびとした筆使いが本作でも存分に活かされています。
イッカクくんの生態の特徴をふまえたエピソードも秀逸で、小さなお子さんでも楽める一冊でしょう。
普段はなかなか目にする機会のないイッカク。その唯一無二のフォルムと謎に満ちた生態は、ロマンを掻き立てられます。まだまだ地球にはふしぎな生き物がたくさんいるのだなぁ、とあらためて感じるのではないでしょうか。