知っていた?メロンの旬は、実は5月以降の初夏から。3分で読めるメロン雑学

更新:2021.11.13

一年中、高級果物の代表的存在として青果店の一等地に鎮座しているメロン。実はもともとの旬は5月から。品種によっては数ヶ月ズレたり、マスクメロンのように年中食べられるものもありますが、メロン好きがチェックするべきはこれからの季節です。

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インドでは紀元前ニ千年代、千年代のメロンが発見されており、それがもっとも古いと言われています。ですが、分解されて残りにくいという特質をもつメロンは、その起源がどこなのか判定が難しく、『オックスフォード食物必携』にも「専門家でさえ困惑する」と書かれているそうな。現在ではメロンの原種はインド亜大陸のどこかで生まれ、ペルシャ(現在のイラン)を経てローマへ、そしてヨーロッパ、アメリカへと伝わったと言われています。他方、中国にも早い段階で伝わっていたようです。このようにして、ヨーロッパのメロンと、中国の甜瓜(てんか、マクワウリ)という2系統のメロンが生まれることになりました。
 

日本でも代表的なメロンはマスクメロン(アールスメロンという品種が有名)でしょう。麝香猫からとられる蠱惑的な香りであるムスク muskに似た芳香からマスクメロン musk melonと呼ばれるこの品種は、かつてこのメロンを愛した伯爵がいたので「earl's favorite アールス・フェブリット」と名付けられたそうです。紅茶の「アールグレイ」がグレイ伯爵Earl Grayから来てるのを思い出しますね。

もうひとつ、日本でメジャーな品種にプリンスメロンがあります。アンデスメロンの登場によってその知名度はやや押され気味ですが、高価なマスクメロンと「甘いウリ」であるマクワウリしかほぼなかった時代に広く普及したと言われています。

このプリンスメロンは、マスクメロンの系統であるカンタロープメロン「シャランテ」と、マクワウリの一種「ニューメロン」を掛け合わせたもの。マクワウリ(甜瓜)は日本でも、2000年以上前から親しまれてきました。たとえばお隣の朝鮮半島でも黄色と白の縞模様の皮が可愛らしい「チャメ」という品種が広く食べられています。日本にも年間150tほど輸入されており、気軽に食べることができます。果実の大きさは手のひらサイズで、タネも小さいためにタネごと食べてしまってもオッケー。缶ジュースを飲む感覚で、気軽に買って気軽にサクっと食べて涼をとりたいものです。

かつてイスラム教の開祖ムハンマドは「果物を食べるならメロンを食べよ。天国の果実であり、千もの祝福と千もの慈悲を備えるからだ」と述べたと言われています。

しかし美しい花には棘があるように、というべきか、メロンには毒があり危険だという説が中世のヨーロッパにはたびたび現れました。カトリック教皇や神聖ローマ帝国の皇帝から、ロシア帝国の兵士たちにいたるまで、その死因がメロンの毒性にあったと言われたのです(教皇と皇帝はたぶん食べ過ぎが原因ぽいのですが)。

メロンは地面の上に実をつける「果菜」。中世の医学思想では神のおわす天上から遠い地面に実をつけるメロンはもっとも下等な果物だと考えられていました。また、熱、冷、湿、乾という4つの性質であらゆる性質の食物を分類したときにメロンは「冷、湿」に分類される、と考えた中世の料理人は「熱く乾いた」と考えられた生ハムに巻いて食事の最初に食べるのがいいと考えたそうです。あの「生ハムメロン」の起源です。酢豚のパイナップルにも似たような思想が背景にあったりするんでしょうか。

特に5月以降が旬になるメロンの品種としては、黄色いマクワウリを大きくしたようなキンショー、キンショーと同じスペイン系のメロンとハネデューを掛け合わせたイエローキング、現代大衆メロンの代表格アンデスメロンなど。キンショーとイエローキングはサクサクした歯ごたえどさっぱりとした味わいが特徴で、メロンの甘みや強い香りが苦手な人にもおススメです。

さて、この多様で意外に歴史の古いメロンについてより深く知ってみたいという方はこの『メロンとスイカの歴史』をどうぞ手にとってみてください。

著者
シルヴィア ラブグレン
出版日
2017-06-26

本書はその書名のとおり「ウォーターメロン」と言われメロンの仲間であるスイカについても詳しく書かれています。この原書房の「食の図書館」シリーズはほかにも多くの良書を含む素晴らしいシリーズなのですが、なかでも巻末に載っているレシピ集が楽しい。本書はさらにこの楽しいレシピ集が他の本よりもいっそう楽しいので、単なる付録と思って軽視せずぜひ目を通してみてほしいところです。ジューサーやフードプロセッサーをお持ちの方ならば、いろんなメロンで試したくなる「世界のメロン料理」の拡がりを堪能できるはずです。世界中で古くから食べられてきただけあって、レシピのバリエーションが豊富なんです。それぞれの料理に付けられた著者の一言コメントもとっても楽しい。
 

次にご紹介するのは『図説 果物の大図鑑』。メロンの選び方や保存法、食べ頃の判断の仕方、メロンに含まれる栄養や効能、各部位の名称など詳細に記載されていて、まさに「大図鑑」。

著者
["日本果樹種苗協会", "農研機構野菜茶業研究所", "国際農林水産業研究センター熱帯・島嶼研究拠点"]
出版日
2016-10-31

本書ではメロンに限らず、さまざまな果物の主な品種の出回り時期や、全国各県での収穫量、1963年からの収穫量の推移まで紹介されています。各メロンの由来や糖度の目安も書かれていてマニアにはたまりません。 

いや、そんなマニアックでなくていいです…という方には『知ればもっとおいしい! 食通の常識 厳選フルーツ手帖』をおすすめします。

著者
NPO青果物健康推進協会
出版日
2015-08-08

上掲の『図説 果物の大図鑑』と比べるとさすがにデータ面で見劣りはしますが、その分ハンディな判型で、気になった時にすぐ調べられるのが特長。タルトやパフェなどの簡単な食べ方紹介や、農家や青果店のひとによるコラムなど、読みごたえは意外なほど充実しています。

また、東洋のメロンことマクワウリについては昔から「瓜子姫と天邪鬼」という伝承があります。

著者
高橋 克彦
出版日

本作はホラー小説ですが、「瓜子姫と天邪鬼」の話を寝物語にきいた主人公が、人喰いの天邪鬼が気になってしまって各地の伝承を調べるというくだりがあります。 古くからある伝承ということで、各地で微妙に伝説が違っています(なおマクワウリも本文で紹介した「チャメ」のようなものから、プリンスメロンのもとになった白くて比較的おおきいものまで、さまざまな種類があります)。「もうひとつのメロン」について詳しくなれる作品、とまで言ったら言い過ぎかも知れませんが、怖いのが大丈夫な方はぜひお試しください。

独特の世界観を持つことで知られる諸星大二郎も、その代表作の1つである『妖怪ハンターヒルコ』のなかのいちエピソード「幻の木」で、この「瓜子姫と天邪鬼」を踏まえています。

著者
諸星 大二郎
出版日

  この作品の中では、瓜子姫と天邪鬼のエピソードの瓜子姫と天邪鬼とが入れ替わることに着目し、善悪が表裏一体であることを描いています。メロンもウリも直接には出てきませんが、瓜子姫伝承つながりですね。 この作者は、桃太郎のように川上から流れてきた果実から人が生まれるという類型、竹から生まれたかぐや姫も加えて「植物から人間が生まれる」という類型として関心を抱いているで、他にも「瓜子姫と天の邪鬼」をもとにした作品を発表しています。 

天国の果物とも、危険な果物とも言われるメロン(ウリ)、その魅力をぜひ味わってみてください。でも、食べ過ぎてお腹を壊さないように!

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