鳥のようなくちばしと水掻きをもつカモノハシ。他に類をみない外見をしていて、まるで珍獣です。この記事ではそんな彼らの不思議な生態を徹底解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひ最後までチェックしてください。
全長は30~45cm、体重は0.5~2kgと、意外と小柄なカモノハシ。オーストラリアの東部から南部の、湖や河川にのみ生息する固有種です。
哺乳綱カモノハシ目カモノハシ科に分類されます。カモノハシ目は「単孔類」ともいい、糞、尿、受精、出産のすべてを同じ孔(あな)を使っておこないます。ほかにはハリモグラ科が当てはまります。
寿命は20年前後と考えられていますが、動物園などの人工飼育下で彼らが寿命をまっとうすることは非常に稀です。その一因として、夜行性でわずかな時間しか水面に顔を見せることがなく、生態を知るのが難しいことが挙げられます。
カモノハシは血液中にある赤血球の濃度が非常に高く、酸素が少ない水中に巣穴を作ってくらすことができます。そのため外敵が多い陸上にはほとんど出てくることがなく、正確な個体数を把握することも困難でした。
近年では水質汚染やザリガニ用の罠などが原因で、局所的に絶滅状態になっていることがわかり、現在の生息数は3万~5万頭だと考えられています。ワシントン条約で国際取引が禁止されているため、ペットとしてはおろか、日本の動物園でも飼育をしているところはありません。
和名の由来は「カモのくちばし」で、その独特なくちばしにちなんでつけられました。
カモノハシが発見されたのは18世紀です。当時は、母親のお腹の中である程度育った後に生まれ、母乳で育つ生物を哺乳類に分類していたため、卵からかえる彼らは爬虫類か鳥類に分類すべきだと学者の間でも意見が割れていました。
このような生態をもつ生物はほかに同じ単孔目のハリモグラしか存在せず、分類学上もっとも多くの議論を巻き起こしました。
ちなみに分類学では、たとえば哺乳類など「類」で分けることはありません。動物「界」、脊椎動物「門」、哺乳「網」、カモノハシ「科」、カモノハシ「属」、 カモノハシ「種」と階層ごとに細かく分けていきます。
現存しない生物も含めて細分化することで、系統樹を作成し、進化を辿ることも目的としているからです。
カモノハシを初めて見たヨーロッパの人々の多くが、「ビーバーとカモを縫い合わせて作った偽物の動物だと思った」という記録が残っている通り、彼らの容姿、特に大きくて平たいくちばしは異様さがあります。
鳥のくちばしが硬いのに対し、カモノハシのくちばしはゴムのように柔らかく、さらに中には餌を蓄えるための頬袋や、退化しているものの歯が生えていた痕跡があったりと、他に類を見ない構造です。
また彼らは川底にいる小さな海老や昆虫を食べ、1日の大半を水中で過ごしていますが、それにもかかわらず泳ぐ時は目を閉じ、耳を塞いでいます。水が体内に入ることを防ぐためだと考えられていますが、ではどうやって餌を探しているのでしょうか。
実はカモノハシのくちばしには、生物が発生する微弱な電磁波を感じとることができるセンサーが4万個近くもあり、くちばしを使って餌や外敵を察知しているといわれています。そのため夜間の真っ暗な川や濁った水の中でも、行動することができるのです。
生まれた赤ちゃんは母親の母乳を飲んで成長しますが、お母さんに乳首はありません。腹部には乳腺のみが存在し、ここから汗のようにジワジワと出てくる母乳を、赤ちゃんはすするように飲むのです。
もともと乳腺は汗腺が発達してできたものであると考えられており、母乳が滲み出る生態は2億年以上前に存在した原始的な哺乳類でみられる特徴でもあります。
カモノハシが母乳を飲むことがわかったのは1830年のこと。ドイツの解剖学者が、彼らに母乳を分泌する器官があることを発表しました。しかしその際も、母乳ではなく違う用途の粘液が出ていると反論した学者が多数現れ、いつの時代も議論の対象となっているのです。
後肢には鋭い蹴爪が生えており、雄の後肢の蹴爪からは毒が分泌されています。縄張り争いをする際や、繁殖期に雌を巡って争う際に使うようです。相手の体に蹴爪を食い込ませ、足にある胞状腺で生産された毒を注入します。
この毒は意外と強力で、1回のキックで犬程度の大きさの動物を殺すことができます。人間が食らった際は命に別状はありませんが、モルヒネなどの鎮痛剤が一切効かないような激しい痛みが3~6か月程度続くそうです。
猛毒がある爬虫類や両生類は数多くいますが、哺乳類となると非常に稀で、毒をもつことが確認されているのはカモノハシとトガリネズミの2種類のみです。毒の成分はタンパク質由来で、トガリネズミのものとは種類が異なっているそうですが、詳しい成分はまだ明らかになっていません。
このように強い毒をもって仲間同士でも争うため、雄のなかで生後3か月まで生き延びられるのは、全体の3分の1ほどしかいないといわれています。
およそ2500万年前、カモノハシの姿と酷似したオブデュロドンという生物がいたことが判明しています。姿をほとんど変えずに生き残ってきた理由として、早期に大陸から分離して孤島となったオーストラリアという稀有な環境が関連していると考えられています。
また胸部にある「インタークラビクル」というT字型の骨は、人間をはじめとするほとんどの哺乳類には存在せず、爬虫類とカモノハシ、ハリモグラにのみある骨です。ただし、約2億5100万年前~1億9960万年前まで続いた「三畳紀」の哺乳類、オリビエロスクスは同じものをもっていたことがわかっています。
その後、約1億4500万年前~6600万年の「白亜紀」の哺乳類であるジャンゲオテリウムでは、退化して小さくなっていたため、白亜紀以降に誕生した哺乳類にはインタークラビクルは無く、白亜紀より前に存在していた哺乳類にはあるということがうかがえます。「生きた化石」といわれるカモノハシの原種は、それだけ大昔から存在していたようです。
- 著者
- ジェラール ステア
- 出版日
昆虫、爬虫類、両生類、鳥類、哺乳類……さまざまな生物が通う学校に転校してきたカモノハシくん。先生は生徒を生態別にグループ分けするのですが、彼はどこにも入ることができません。
副題のとおり分類学の基本を学ぶとともに、「個性」や「差別」についても考えることができる1冊です。
「勘違いではないのか?」「こんなにどこにも当てはまらない生物っているのかしら?」と先生から言われ、泣いてばかりいたカモノハシくんですが、心があたたかくなるラストが待っています。
登場する生物の特徴をしっかりととらえたイラストにも注目してください。巻末には「分類学とは何か」「どうして必要な学問なのか」を掘り下げた解説も載っており、大人が読んでも十分満足できる内容です。
カモノハシについて知りたい方はもちろん、我々も分類されているひとつの生物として、読んでおきたい作品です。
- 著者
- かないずみ さちこ
- 出版日
- 2017-10-01
おばあちゃんに誕生日プレゼントを渡そうと家を出たかものはしくん。非常にわすれっぽい性格ですが、無事にプレゼントを届けることはできるのでしょうか……?
とぼけた表情が可愛らしく、ページをめくるたびに必ず何か忘れてしまうぼんやりっぷりです。
実はある生き物がこっそり忘れ物を回収しているのですが、カモノハシの親友のポジションが務まるのはこの生物しかいないだろうという絶妙な配役も楽しめます。特徴的な外見をしているカモノハシですが、彼を彼たらしめている要素は何なのだろうと考えさせられる一面もあります。
読み聞かせでも笑いをとれること必至の、おすすめの1冊です。
知れば知るほど稀有な存在であることがわかるカモノハシ。2008年にゲノム情報が開示されており、生物が進化する過程のミッシングリンクを解明するうえでも、その存在が役立つと考えられています。彼らの魅力に触れられるおすすめの本をぜひ読んでみてください。