ストイックなボディビルダー達が好き勝手に食べられる日、「チートデイ」の様子を描いた作品『マッチョグルメ』。今回は暑苦しいのに、なぜか爽やかな正義感に溢れる本作の魅力をご紹介していきます。
グルメ漫画は数あれど、筋肉隆々のボディビルダーによるリアクションを前面に押し出した作品は、この『マッチョグルメ』くらいでしょう。
普段は徹底した栄養管理に基づいた食事制限を課しているボディビルダー。そんな彼らが、自らを解放して好きに食べる事の出来る日、「チートデイ」。本作は、そのチートデイにおける彼らの食事風景を通し、食事をする幸せを伝える作品です。
屈強な主人公が、絶品を前に思わず笑みを浮かべる描写には、そのアンバランスさも相まって思わず笑ってしまう事間違いなし!
今回は、そんな本作の魅力をご紹介します。
- 著者
- 成田 成哲
- 出版日
- 2017-07-04
人呼んで「筋肉の化身」、ボディービルダー・天王寺美貴久(てんのうじみきひさ)。圧倒的な強さで地区大会にて優勝するほどの実力者である彼の強さの秘訣は「常に心が満たされていること」、彼にとってはすなわち、好きなものを好きなだけ食べる「チートデイ」だと語ります。
トレーニングの食事制限による低燃費モードを防ぐために行う、数週間にたった一度のチートデイ。それは天王寺にとっては勝利に必要不可欠かつ、メンタルを維持するための、至福の時間なのです。
そして今日も天王寺は、大会の祝勝も兼ねて、街へと繰り出していくのでした。
主人公である天王寺を中心に、本作には数多くのボディビルダー達が登場します。そして、その誰もが実に味のあるキャラクターをしているのです。
特に、主人公の天王寺には、その魅力的な人間性に愛らしさすら覚えることでしょう。
たとえば、たとえ初めての来店でも、常連感を出しての注文をすること、が自らの信念の天王寺。第1話で訪れる洋食屋では、下調べも完璧に「スパゲッティナポリタンふわとろオムレツ乗せ」を注文する気満々で席に着きます。
しかし、注文する直前、壁にある貼り紙の「ビーフカツレツ」の文字を発見してしまい、彼は思わず「ビーフカツレツ定食」をご飯大盛で注文してしまうのです。
自らの信念を歪めた、なんていう後悔も、目の前に置かれた美味しそうなビーフカツレツを目の前にひとっ飛び。
このように、主人公天王寺には、見た目はゴリゴリのマッチョにもかかわらず、美味しいものを目の前にすると思わず意思が揺らいでしまうような、可愛らしい面があるのが魅力。
しかし、可愛らしいだけが天王寺の良さではありません。天王寺はそのたくましい肉体に見合った、優れた人間性も持ち合わせているのです。
例えば、訪れた店内で食事中、現れたのは明らかに周囲の迷惑を顧みない若者たち。店への暴言を繰り返しながら好き勝手に振舞う彼らに対し、思わず立ち上がった天王寺は、礼儀と食事の作法を叩き込むのです。
人としての礼節を重んじる行動が出来るのも、彼の魅力といえるでしょう。
本作の醍醐味ともいえるのが、なんといっても登場人物たちの食事シーン。グルメ漫画最大の見どころである食事風景ですが、本作では天王寺を中心とするマッチョな男性たちが主役です。
彼らの食事の描写はなんといっても異色!従来のグルメ漫画とは全く異なるおもしろさに満ちています。
「なめらかな舌触り」や「ほっぺが落ちそう」ではなく、「筋肉が歓喜ではちきれそう」のような美味しさの表現の数々。日々の厳しいトレーニングや食事制限を乗り越えた、たまのチートデイ。そこで、とにかく自分が食べたい料理を、好きなだけ食らう様子に引き込まれるのです。
至福のひと時、美味しい料理の数々に、うっとりの天王寺の表情。見ている側が思わずよだれが垂れそうになってしまうほどです。
いかつさや強面がどんどん気にならなくなっていくのは、天王寺というキャラクターの人間味に溢れた描写の数々によるものかもしれませんね。
このように、本作は美味しい食事に対する愛が存分に伝わってくる作品です。ちょっと普通のイケメンとは外れたマッチョなイラストにも食わず嫌いせず、是非読んでみてくださいね。
食べる描写ももちろんですが、ボディビルダーを題材として用いている本作ならではの魅力もあります。それは、ボディビルダーにとっての、チートデイに対する葛藤です。
自分の体をより完成させるためのダイエット手法であるチートデイ。ですが、どうしても普段は食事制限で抑えている分、好き勝手に食べるという行為に対し、抵抗が生まれてしまうようです。
天王寺の場合は、そんな自身の焦燥感が、内なるもう一人の自分として現れてきます。(彼の脳内ではありますが)天王寺と、より筋肉を追求するもう一人の天王寺は、度々精神世界で衝突を繰り返します。
心が安定している時の天王寺であれば、チートデイの有用性をしっかり認識し、内なる自分の無暗な焦燥感に充てられることもありません。
ですが、実は繊細な一面を持つ天王寺。一度不安になる出来事があると、内なる自分に屈してしまい、楽しいはずのチートデイも食事を満足にすることが出来なくなってしまいます。
それも彼本来のストイックさが生んだ悲劇なのでしょうが、真剣に思い悩む一人のアスリートとしての葛藤が思わず目を引きます。ボディビルを知らない人であっても、この競技のハードさを感じとる事が出来るのではないでしょうか。
- 著者
- 成田 成哲
- 出版日
- 2017-07-04
数々の作品の魅力をご紹介してきましたが、登場するお店と食べ物も、もちろん食欲をそそるものばかりです。そんな中、天王寺が訪れるお店の中には、実際に存在するお店も含まれているのです。
最後に、天王寺が訪れたお店と、食べたメニューをご紹介していきましょう。
第1話で登場するのは、洋食屋「えいすけ」というお店。ここは作者・成田成哲の近所にある、実在するお店です。
先ほどご紹介した「ビーフカツレツ定食」がオススメメニューであり、作者も絶賛の美味しさということで、なんとも肉好きにはたまらないお店ですね。
第2話で登場したのは、とある定食屋での一幕で、注文したメニューは「豚肉つけ汁うどん」です。また、店主のサービスで出てきたのが、「鶏天 自家製タルタルソース添え」で、どちらもお店の人情味が伝わるような、暖かいメニューでした。
第3話で登場したのが、「ローストビーフ丼」と「ステーキ丼」です。どちらも大盛で注文していましたが、その肉肉しさが強烈なインパクトを放つ見た目でした。
第4話で登場するのは、洋菓子直営店の「シュークリーム」です。マッチョにシュークリームという、そのギャップにクスッとしてしまいますが、甘いもの好きにはたまりませんね。
第5話で登場したのは、居酒屋でボクサーと対談した際に登場した「刺身盛り合わせ」です。生魚が苦手という方もいるでしょうが、それでも美味しそうに見えてしまうところが、本作のすごいところです。
第6話では、珍しく食事制限メニューが登場します。「炊飯器低温調理蒸し鶏」と「豚ヒレ肉とキャベツのごま油炒め」の2品ですが、どちらも食事制限を目的をしているとは思えない、美味しそうなメニューです。
第7話で登場するのは、カレーショップでの「赤い鶏カレー 全部のせ」です。食の細い男性でもおかわりが出来そうと語る程に、スパイシーな香りと見た目が堪らないメニューとなっています。
最終回の第8話では、そんな登場したお店の面々が、天王寺の為に腕を振るったメニューの数々が登場します。とある事情で元気がなくなった天王寺の英気を養うメニューが揃い踏みです。最終回にふさわしい内容といえるのではないでしょうか。