まるで怪物のようなルックスと謎に包まれた生態が話題となり、さまざまなグッズが出るほどの人気となったダイオウグソクムシ。この記事ではそんな彼らの生態や、絶食と巨大化の謎、悪臭、飼育について解説するとともに、深海生物の魅力を存分に味わえる本を紹介します。
等脚目スナホリムシ科に属する甲殻類で、フナムシやワラジムシに近い生物です。全長は最大で50センチほどに成長し、「ダイオウ」の名に違わず等脚目のなかでは世界最大の種となっています。
また複眼の大きさ、受精卵の大きさは節足動物のなかで最大級。寿命は明らかになっていませんが、分類が近い生物の寿命などから50年程度ではないかと推測されています。
背中は丈夫な甲羅で覆われており、ダンゴムシなどのように体を丸めて身を守ることもあるのだとか。7対の歩脚と、その後ろには遊泳肢という板状の脚があり、これを使って海中を泳ぎます。
生息地は、大西洋やメキシコ湾、インド洋などの、水深200~1000メートルの深海。流れてくる魚やクジラの死骸を主な餌としています。この食性から「海の掃除屋」と呼ばれ、生態系のなかでも重要な「分解者」としての役割を担っているのです。
三重県の鳥羽水族館で飼育されていた「No.1」という名前のダイオウグソクムシ。ブームの火付け役となりました。なんとNo.1は、最後に餌のアジを食べたことを確認されて以来、5年間以上何も食べることなく生き続けたのです。
しかし長い絶食を経て、彼は死んでしまいました。やはり栄養が足りなかったのか……と誰もが考えましたが、解剖の結果あらたな謎が生まれます。
No.1の消化管は非常に状態がよく、体の肉が痩せている様子は無し。そのため、死因は不明であるものの、少なくとも餓死ではないという判断が下されました。
さらに、死んだNo.1の胃は、正体不明の液体で満たされていたのです。これは過去に解剖されたダイオウグソクムシからは発見されておらず、この液体の中からはある種の酵母菌が見つかっています。この酵母菌や液体自体の性質が、絶食もしくは死亡に関係していると考えられていますが、まだ詳しいことはわかっていません。
長期間の絶食に耐えることができるダイオウグソクムシ。実はその体の大きさからは想像できないほどの小食です。これは餌が少ない深海という環境に適応しているためだと考えられますが、なぜ少ない餌でこれほど大きな体に成長できるのか、その理由はいまだにはっきりしていません。
この現象は「深海の巨大症」と呼ばれるもの。同じく深海に棲んでいるダイオウイカやタカアシガニなどにもあてはまり、さまざまな仮説がたてられています。
しかしこれらの説も事実として解明されているわけではなく、謎の多い現象であることに変わりはありません。
水族館の水槽越しからは感じることができませんが、ダイオウグソクムシは、生臭く腐ったような臭いがするそうです。
また仲間のオオグソクムシは、身を守るために口から悪臭のする液を出して敵を追い払う習性があり、ダイオウグソクムシも同じ技を持っているのだとか。
光の届かない深海では、目よりも鼻を頼りに餌を探す捕食者が多いことがわかっています。通常の海洋生物以上に敏感な嗅覚を持っている敵に対し、彼らの悪臭は効果の高い防衛手段となるのでしょう。
個人宅で飼うことはあまり現実的ではありませんが、ペットとして飼うことも可能です。
特殊な動物を扱う通販サイトや専門店では、およそ20万円ほどで販売されています。しかし体が大きくなるため、非常に大きな水槽が必要になること、水質の悪化を防ぐために大掛かりなろ過装置が必要になること、深海のような低い水温を保つ必要があることなど、飼育のためのハードルは非常に高いでしょう。
一方で、餌は魚などの死骸なので比較的調達しやすく、小食で絶食にも強いため、環境さえ整えることができれば安定して飼えるかもしれません。
生態に解明されていない部分も多いため、飼育することで大きな発見がある可能性も。ただしうまくいかずにすぐ死んでしまう可能性も大いにあるので、生きている姿を見たいのであれば水族館を訪れるのが1番確実に楽しめるでしょう。
- 著者
- 石垣 幸二
- 出版日
沼津深海水族館の館長による、深海生物たちのいきいきとした写真集です。
タイトルのとおり、生態も姿も奇妙なダイオウグソクムシをはじめ、あまり知られていない生物たちが複数のアングルの写真で紹介されています。生態や体の特徴もわかりやすい表現で書かれているため、深海生物に興味を持つ子供から大人まで幅広く楽しむことができるでしょう。
また付録のDVDでは、書籍で紹介されている深海生物たちの動く様子を見ることができ、内容の濃い一冊です。
- 著者
- 椙下聖海
- 出版日
- 2017-12-09
世界で唯一、間近で深海生物の観察ができる「マグメル深海水族館」。そこで清掃員として働く深海生物が大好きな青年「天城航太郎」の成長を描いた、海のロマンあふれるコミックスです。
幻想的で迫力のある世界観に、生き物好きだけではなく読む人すべてが引き込まれてしまうでしょう。作者の深海生物への深い愛情も物語の魅力を引き立てています。
ひとつ前に紹介した『深海生物―奇妙で楽しいいきもの』の作者が監修しており、ストーリーのなかで生態がわかりやすく解説されていることも魅力のひとつ。清掃員の航太郎も海の掃除屋であるダイオウグソクムシにたとえられてしまうなど、深海生物を身近に感じることのできるエピソードが満載です。
さまざまな魅力と謎にあふれたダイオウグソクムシ。おすすめした関連本をぜひ読んでいただき、興味をもったら水族館に足を運んでみてください。