日暮キノコによる、同棲カップルの日常を描いた本作。淡々とした日常と丁寧な心理描写は多くの人の共感を呼び、2014年にはテレビドラマ化もされました。付き合って長いからこそ生まれる悩み、そして2人だけの空気感などが非常にリアルな作品です。 本作は、心に残る秀逸な名言が多く存在します。ここではそんな名言を取り上げながら、本作の魅力を全5巻分ご紹介。スマホアプリから無料で読むこともできるので、そちらからもどうぞ!
交際10年、同棲8年のカップルの日常を描いた本作。付き合いが長いからこそのすれ違いや悩みの生まれる日常を、男と女のそれぞれの視点から描くザッピングストーリーになっているのが特徴です。
2014年にはテレビドラマ化もされた人気作で、交際の長いカップルにこそ読んで頂きたい作品になっています。
- 著者
- 日暮 キノコ
- 出版日
- 2012-11-20
作者は日暮キノコ。神奈川県出身の漫画家です。誕生日や年齢など不明な点が多く、謎多き人物となっています。
2005年にデビューしてから少女漫画を中心に執筆してきましたが、約5年の時を経て青年誌での執筆を開始。作者のリアルな作風は青年誌で見事にうけ、本作『喰う寝るふたり 住むふたり』で青年誌初連載を果たすことになりました。
2019年2月現在は、最新作『個人差あり〼』を連載中です。
まずは、本作の主人公となる2人をご紹介。
町田りつ子
通称・リツコ。アクセサリーメーカーの商品企画部に所属して、働いています。家出当然の勢いで実家を離れ、のんちゃんと同棲中。しかし、そのせいで父親とは険悪なまま……。
一見ドライな印象を受けますが、のんちゃんに対していろいろと悩んだり、けっこう可愛い面が多く見られます。話をちゃんと聞いていなかったりするのが、たまにきず。
野々山修一
通称・のんちゃん。印刷会社で働いています。大らかな性格で、なんだかんだリツコのことが大好き。
実は1回リツコにプロポーズしたのですが、さり気なさすぎて彼女に流されてしまうことに……。
野々山修一、通称のんちゃんと、町田りつ子、通称リツコの2人は、高校3年生の時から交際を始めて10年、同棲を始めて8年のカップルでした。
もはやお互いのことを知りつくしている関係ではありますが、だからこそのすれ違いもあって……。
- 著者
- 日暮 キノコ
- 出版日
- 2012-11-20
この物語の主人公は、穏やかなタイプののんちゃんと、サバサバタイプのリツコのカップル。すでに8年も同棲しているため周りからはもう夫婦同然との認識もある2人ですが、そんな関係だからこそのすれ違いや葛藤を描いたのが本作です。
本巻では、複数のエピソードがリツコとのんちゃん、それぞれの視点から描かれます。2人の視点から描かれる手法は本巻だけではなく、全巻をとおしての特徴の1つ。一方だけの視点ではわからないことも両方の視点から語られることで、どうして2人がすれ違ってしまったのかがよくわかり、読者も共感できる部分が多くなっているのです。
本巻では、リツコが職場の先輩から合コンに誘われるエピソードがあります。のんちゃんは、それも人生経験だと彼女を送り出すものの、いつも以上にオシャレをして出かけるリツコを見てモヤモヤ。一方、リツコはあっさりと自分を送り出すのんちゃんが不満で、わざと気合を入れてオシャレをしていたのでした。
結局リツコは、合コンをとおしてのんちゃんに対する自分の気持ちを再確認するのですが、そこで彼女は、こう言うのです。
人間楽な方へ楽な方へ…それは別に悪いことでもないんだと思う
(「喰う寝るふたり住むふたり」1巻より引用)
楽なほうへいくことをよしとしない考え方もありますが、パートナーはお互いに楽でいられる存在がいい……長く連れ添いたいからこその言葉ですよね。
この他にも、リツコが高校時代からの友人・新沼、通称ニーナと鍋をつつきながらしている会話が妙にリアルで、心に残ります。籍を入れるタイミング、子供の問題など、読んでいていろいろと感じてしまうかもしれません。
ある日、リツコは職場の後輩・森園から、彼氏があまりセックスしてくれないという相談を受けたことをきっかけに、ふと自分達の夜の生活を振り返って愕然としました。もうずっと、セックスしていないことに気が付いたのです。
しかし、自分はしたいと思ってものんちゃんはそう思っていないらしいと、彼女は自分の方が異常なのではないかと心配になって……。
- 著者
- 日暮 キノコ
- 出版日
- 2013-03-19
本巻でも複数のエピソードが描かれますが、そのうちの1つが、カップルの夜の生活に関する話です。同棲や結婚をするとなれば、当然避けてはとおれない話ですね。
リツコは、自分達がもうだいぶセックスしていないことに気が付きます。「したい」と思い、その気持ちをのんちゃんにも伝えますが、返ってきた言葉は「そんなにしたいの」というものでした。リツコの方は、そんなにものんちゃんはしたくないのかと思い、2人の気持ちはすれ違ってしまうのです。
一方のんちゃんの方は、自分は性欲の少ない男なのではないかと悩んでいました。しかも、趣味の釣り仲間から、別れる原因の1つにはセックスレスがあるらしいと言われ、さらに悩みは深くなってしまいます。
お互いに同じことで悩んでいるのに、どんどんすれ違っていってしまう2人……読者は両方の気持ちがわかっているので、じれったさを感じてしまうかもしれません。しかし、すれ違いとはこういうふうに起きていくのだと実感する方も多いのではないでしょうか。
それからのんちゃんは、ひょんなことから上司にこう言われました。
相手がその限られた時間を一途に自分だけに注いでくれてると思ったら
どんな言い訳も通らないと思うよ
(「喰う寝るふたり住むふたり」2巻より引用)
そして、この言葉から大切なものに気づき、リツコと気持ちを確認し合うのでした。人間は誰しも限られた時間のなかで生きています。そんな時間を自分のためだけに使ってくれる、あるいは使いたい相手がいるということは、とても幸せなことなのかもしれませんね。
リツコの友人・ニーナにはしばらく恋人がいませんでした。しかし、最近彼氏ができたということで呼び出されたリツコは、さんざんノロケ話を聞かされます。
ニーナと別れて家に帰ったリツコは、そこで家飲みしているのんちゃんを見て……。
- 著者
- 日暮 キノコ
- 出版日
- 2014-02-20
本巻は、ニーナの恋路に大きな展開があります。ずいぶんと恋人のいなかった彼女ですが、久しぶりに恋人ができ、さらに数ヶ月の交際を経て結婚にまで至るのです。結婚を意識しているとはいえ、10年も付き合っているリツコとのんちゃんに比べれば、スピード婚ですよね。
そんな彼女の交際や結婚をきっかけに、いろいろと考えるリツコとのんちゃんの微妙な気持ちが描かれている本巻。
ニーナにノロケ話を聞かされた後、家に帰ってきたリツコは、生活臭溢れる部屋で酔っぱらっているのんちゃんから一緒に飲もうと誘われます。しかし、彼のダイエットと節約を考えたリツコは、のんちゃんにお酒の量を減らすようにと言ってしまいました。
一方、家飲みにハマっていたのんちゃんは、リツコと一緒に飲むことを楽しみにしていたのに、ダイエットと節約を口にして断ってきたことに不満を感じます。お互いに間違ったことを考えているわけではないのにすれ違ってしまう描写は、とてもリアリティがありますね。
これらのことを経て、リツコは昔、自分達が付き合いたてだった頃を思い出し、こんなことを思います。
今は何でも効率的に…ムダを省いて合理的に…
それがふたりの生活のためだと思い込んでいた
(「喰う寝るふたり住むふたり」3巻より引用)
効率的に、合理的に……それはお互いの生活のために大切なことですが、それだけでは生活は豊かにならない。付き合いが長いからこそ、また新しい2人の幸せを見つけていこうと思うリツコとのんちゃんに、共感できる方は多いのではないでしょうか。
また本巻では、リツコとニーナの友情をあらためて感じることのできるエピソードが収録されています。過去の回想シーンなど、思わずウルっと泣けるような場面もあるので必見です。
同僚との会話のなかで、付き合って10年以上になるのに、リツコと2人で行った旅行は2回きりしかないということに気が付いたのんちゃん。
2人とも出不精なため休日もつい家で過ごしてしまうことの多いので、たまには一緒に出掛けよう!と、張り切って貸切露天風呂のある旅館を予約したのですが……。
- 著者
- 日暮 キノコ
- 出版日
- 2014-08-20
2人して出不精ののんちゃんとリツコは、これまで2人で行った旅行は2回しかありませんでした。
一念発起したのんちゃんは、ネットで見つけた貸切露天のある旅館を予約し、張り切ってリツコと出かけることにします。リツコが喜んでくれたこともあってますます気合いの入るのんちゃんは、露天風呂の予約に旅館周辺の観光情報など、一生懸命調べてから出かけました。
しかし、いざ出かけてみると調べていた物産センターは営業終了、露天風呂に入ったら突然の雨とトラブル続きで、リツコのテンションはどんどん下がってしまいます。男女が旅行先で求めるものの違いや機嫌の上下、険悪なっていく空気感などがとてもリアリティがあって、読んでいると思わずドキドキしてしまうでしょう。
他にも、風邪を引いたリツコをのんちゃんが看病する話などが収録されています。
お互いの“当たり前”が混ざることで
このふたり暮らしの文化ができていくんだろうな…
(「喰う寝るふたり住むふたり」4巻より引用)
こんな言葉に表れているように、互いの違いを感じながらも指摘したり気遣ったりしながら、最後はバランスを取って溶け合うように過ごしていく2人を、いいなあ、と思う方もきっと多いのではないでしょうか。
長年2人で暮らした部屋を引っ越すことにした、リツコとのんちゃん。料理好きのリツコはシステムキッチンを見て盛り上がり、のんちゃんそんな彼女を見て自分が地に足を着けないと、と張り切ったり。新居探しが続くなか、2人の関係もとうとう前進して……!
同棲カップルのリアルを描いた作品、ついに最終巻です。
- 著者
- 日暮 キノコ
- 出版日
- 2015-03-20
いよいよ完結の本巻。いろいろとあって引っ越しを決めた2人は、新居探しに乗り出します。
インターネットで間取りを調べて、ああでもないこうでもないと言うのは、引っ越しをしたことのある人は共感できる部分かもしれません。大変だけど、新しい生活に期待が膨らむのは楽しいもの。こういった描写は、本当にリアリティがあります。
さて、引っ越し準備を進めるなかで、リツコはいっそ名義変更もしてしまおうか、と提案します。それはつまり、結婚しようという意味でした。実にあっさりとした結婚の決め方ではありますが、長く付き合っている関係だからこそ、こういうあっさりとしたものが自然体なのかもしれません。
そして、入籍など結婚に関する手続きもごくごく現実的に済ませ、晴れて夫婦となった2人。
夫婦こそ一周回って究極の男女の友情なのでは…?
(「喰う寝るふたり住むふたり」5巻より引用)
こんな台詞もとても現実的であり、理想的なものとして印象に残ります。
熱く燃え上がる恋愛でも、ときめきいっぱいの夢のような恋愛でもなく、より現実的で淡々として、支え合いながら生きていく男女の形。それは確かに、究極の友達なのかもしれません。
1巻から最後まで、どこまでも日常的で、男女のささやかな気持ちを丁寧に描写してきた本作。最終話もじんわりと心に染みるものになっているので、ぜひその結末をゆっくりと読んでみてください。
倦怠期を迎えた同棲カップルを描いた本作。そんな本作で重要なポイントとなっているのが、男女両視点です。
一方の視点で納得していたことでも、もう一方の視点で見ることによって、そっちの言い分も理解できたりします。男女の考え方の違いも、それぞれわかって面白いですよね。
このセクションではそんな男女両視点の、おすすめ漫画をご紹介。
- 著者
- 今井 大輔
- 出版日
この物語は、チヒロの視点から描かれるラブストーリーです。これの対となるユキチを主人公とした漫画作品『古都こと-ユキチのこと-』と合わせて、男女両視点となります。
チヒロは、地味で自己評価の低い女の子。常に自分に自信がありません。しかし大学に入学したのをきっかけに、彼女はメイクなどによって変身を遂げます。そんな時出会ったのが、ユキチでした。
彼は出会い頭に、手鏡を落とします。それは以前、チヒロの祖母が骨董市で売ってしまった物でした。彼女と同じくらいの年の男の子、つまりユキチが「運命の人にあげる」と言って、買っていった手鏡だったのです。それを思い出した瞬間、彼女は生まれて初めての恋に落ちてしまうのでした。
恋の浮き沈み、そして切なさが彼ら2人の視点から、それぞれ描かれています。
そして、この作品においてもっとも注目したい点は、なんと2作品の出版社が違うこと。出版社の垣根を越えて、対となる作品が成り立っているのです。そんな規格外な両視点もののラブストーリーを、ぜひチェックしてみてください。
いかがでしたか?ほのぼのとしつつも、心に染みる名言の多い本作。同棲しているカップルも、そうでないカップルも、あるいはまだまだ恋愛とは縁のない人も、共感できる言葉がきっと1つはあるはずです。ぜひ、自分だけの名言を探してみてくださいね。
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