名前だけ聞くとどんなに恐ろしい動物なのかと思ってしまうタスマニアデビル。実は意外とかわいいところがあるのをご存知でしょうか。この記事では、そんな彼らの生態の特徴、名前の由来となった鳴き声、性格、顔面腫瘍についてわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本をご紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
フクロネコ目フクロネコ科タスマニアデビル属に分類されている、肉食の有袋類です。
有袋類とは、腹部にある袋(育児嚢)の中で子供を育てる動物のこと。カンガルーやコアラ、フクロモモンガもこれに分類されます。カンガルーは上向きに袋が開いていますが、タスマニアデビルは下向きについているのが特徴。巣穴を作る際に土を掘るため、袋の中に土が溜まらないようになっているのです。
名前に「デビル」とついていることから巨大な怪物のようなものを想像しますが、実際は体長が50~60cm、尻尾の長さを合わせても70~90cm、体重は10kg前後と、中型犬と同じぐらいの大きさ。
全身は黒い体毛に覆われており、胸部にツキノワグマを思わせる白い横線が入っています。
肉食性のため鋭い歯をもち、獲物を狩るのに1番重要な役割を果たしている上顎の犬歯は一生伸び続ける特徴があります。手足にも鋭い爪がありますが、これは獲物を狩るためではなく巣穴を作るために土を掘ったり、木によじ登ったりする時に使うものです。
夜行性で、昼間は巣穴で生活し、夜になると餌を探しに出歩きます。死んだ動物の肉を食べることが多く、小型の哺乳類のほか、鳥類や昆虫なども食す大食らいです。1日で体重の15%、多い時には40%にあたる量を食べるので、かなりの大食漢であることがわかるでしょう。小さい体からは想像できないほど噛む力が強く、肉だけでなく皮や骨なども噛み砕いてしまうのです。
生息地はオーストラリアのタスマニア島。かつてはオーストラリア大陸にも生息していたことがわかっています。
1800年代から1900年代のはじめまでは害獣として忌み嫌われ、駆除がすすめられていましたが、1941年に保護法が成立し、2006年に絶滅危惧種に指定されました。
寿命は5~8年で、飼育環境下の方が長く生きる傾向にあります。日本では東京の多摩動物公園で展示されており、実際にその姿を見ることができます。アジアで見られるのはこの一ヶ所だけなので、機会があればぜひ見に行ってみてください。
直訳すると「タスマニアの悪魔」という恐ろしい名前がついている彼ら。その鳴き声が由来のひとつだとされています。
実際に聞いてみると、猫の鳴き声を低くし、かすれたようなもので、「悪魔」と呼ばれるような鳴き声にはあまり聞こえません。しかし死肉を貪り、黒い体で低い鳴き声を轟かせていることを想像すると、怖く感じるのではないでしょうか。夜行性なので、夜中に暗い森で聞こえることも相まっているのかもしれません。
彼らは気性が荒いことで有名です。餌を食べている時に誰かが近づこうものなら、激しい雄たけびをあげて威嚇し、争いをはじめます。餌の取り合いで同種同士の喧嘩をすることもよくあるそうです。
その一方で、人間や自分より強い動物に対しては弱腰。唸り声をあげて威嚇はするものの、攻撃はせずに隙をついて逃げ出します。
死肉を食べるタスマニアデビルにとっては、自分より強い動物と争うメリットはないからでしょう。なるべく無駄な争いを避けながら、より多くの餌を食べられるよう生活しているのです。
害獣として駆除の対象となり、個体数が減ってしまったタスマニアデビルですが、1941年に保護法が成立。安心した矢先、新たな問題が発生しました。
「デビル顔面腫瘍性疾患(Devil Facial Tumour Disease、DFTD)」と呼ばれる致死性悪性腫瘍が流行しはじめたのです。わかりやすくいうと顔に癌ができる病気で、1996年に報告されて以降急速に広がりはじめ、個体数が激減。再び絶滅の危機に陥りました。
2009年の時点で個体数は70%にまで減少し、DFTDへの対策をおこなわないと数十年後には絶滅すると予測されていますが、有効な治療法は確立されていません。
DFTDはまず口の回りから発生し、その後頭部など周りの組織に広がり、最終的にはリンパや内臓も侵されていきます。最終的な死因は、やがて顔面の腫瘍が大きくなって目や口を覆い、餌がとれなくなることによる餓死です。り患している個体に傷つけられたり、繁殖行為をすると伝染します。
致死率は100%といわれていますが、2016年に驚くべき報告がなされました。タスマニアデビルに、DFTDに対する遺伝子の適応進化が起きていることが判明したのです。
この遺伝子変異によって抵抗力が向上しているのかどうかは検証中のようですが、わずか3~4世代の間で急速に進化したことがわかります。1日でも早くこの病気に対する免疫ができることを祈るばかりです。
- 著者
- キャスリン・シル
- 出版日
- 2011-06-01
有袋類の動物を1ページで1種類紹介している図鑑です。特徴は、写真ではなく、かなり緻密なイラストで動物たちが描かれていること。まるで絵本のように楽しむことができます。
カンガルーをはじめ、コアラやフクロオオカミ、もちろんタスマニアデビルについても解説されています。特徴がわかりやすく書かれており、添えられている文章もやさしい言葉なので、小さいお子さんでも楽しめる一冊です。
- 著者
- 出版日
- 2014-06-18
今回ご紹介したタスマニアデビルはもちろん、700種以上の哺乳類が掲載されている図鑑です。日本に生息しているものに関しては全種類紹介されている充実っぷり。
分類ごとの特徴や、1種類ごとの特徴なども書かれており、情報量はかなり多いです。付属のDVDには入門編から博士編まで解説動画が収録されており、動物に詳しくても初心者でも、幅広い人が楽しめる一冊です。
有袋類といえばカンガルーを想像しがちですが、これからはタスマニアデビルにもぜひ注目してみてください。