夢を食べるはずがないのに、なぜか「夢喰い」といわれることもある動物の「バク」。動物園などでも活発に動いている姿を見ることは難しく、いったいどんな生き物なのか知らない方も多いのではないでしょうか。この記事では、彼らの生態や種類ごとの特徴、性格、夢を食べるといわれるようになったゆえんなどを解説していきます。バクが主人公の絵本もご紹介するので、最後までチェックしてみてください。
奇蹄目バク科に分類される動物で、馬の仲間です。奇蹄目とは後肢の蹄のある指が1本または3本の奇数である動物を指し、バクは前肢に4本、後肢に3本の指を持っています。
平均寿命は25~30年。見た目は馬というよりもアリクイに近く、頭や肩よりも腰のほうが高い位置にあり、茂みのなかを歩くのに適した体型をしています。
夜行性で、温暖な気候の森林に単独で暮らしています。現在彼らが生息しているのは、東南アジアと、北アメリカ南部から南アメリカ。地球の正反対の場所にピンポイントで生息している奇妙な分布をしているのです。
2018年現在、地球上に生息するバクは4種類です。そのすべてがレッドデータに載っており、絶滅危惧種に指定されています。
全長180~250cm、体重が250~300kgと最大の種類。東南アジア熱帯の低地から高地の森林に生息しています。東南アジアで姿が見られるのは、この一種のみです。
頭部から前肢にかけてと、尻尾から後肢にかけて毛が黒く、腹部は白という特徴的なツートーンの体毛を持っています。これは薄暗い森林で黒い部分を隠し、白い腹部だけを目立たせることで全体の輪郭をぼやけさせ、外敵から身を隠すのに役立てていると考えられているのです。
全長180~250cm、体重は150~300kg。中央アメリカと南アメリカに生息しています。全身は濃茶の体毛で覆われていて、頬から喉元にかけてのみ白い毛が生えているのが特徴です。別名は「チュウベイバク」。
沼地やマングローブ林といった水の多い森林を好み、ジャガーなどの外敵に襲われた際には素早く水の中に逃げ込みます。スポーツハンティングや環境破壊により数が減少していて、エルサルバドルでは局地的な絶滅状態であると考えられています。
全長は180cm前後、体重は225~250kgで、バクのなかでは1番小さい種類です。アンデス山脈の標高2000mを超える高山地帯にのみ生息します。濃茶の毛が密集して生え、口の周りのみ白いことが特徴です。
肉や毛皮を狙ったハンティングのほか、交通事故や開発などにより生息地を追われたことが原因で個体数が激減。現在は2500体ほどしか存在していないのではないかといわれています。
全長200~220cm、体重200~250kg。アマゾン下流域を中心に低地の森林に生息しています。ジャガーやワニに襲われることが多いですが、泳ぎが上手なので水の中へ逃げることができます。首の背面に硬いタテガミが生えていることが特徴です。
夜行性なうえ、水中や茂みの中にいることを好むので、野生ではなかなか姿を見ることができないバク。基本的にはおとなしくて臆病な性格をしています。
ただ動物園で飼育されている個体については、外敵の心配も餌の心配もしなくてよいせいか、甘えん坊でマイペースな子が多いのだとか。夜間営業時、もしくは開園直後に行くと活動している様子を見やすいです。
飼育員にブラッシングをしてもらっている時やプールで水遊びをしている時などに見せるリラックスしきった表情からは、意外なかわいらしさを感じられるでしょう。
「バク」に関する伝承が生まれたのは中国です。といってもここまでご紹介している奇蹄目の動物とは関係なく、皮に魔除けの力があると古くから伝えられていた「獏」という空想上の生物です。
中国では獏の皮を掛け布団にして寝ると、悪いものが寄り付かないとされていました。日本に伝わる際に話が転じて、悪夢を食べてくれる霊獣として定着したのです。室町時代末期には、獏の絵が縁起物として扱われていたそうです。
奇蹄目のバクは、この伝説上の獏に見た目が似ていることから名付けられました。
実際に夢を食べるわけではないバク。彼らは草食動物なので、草、葉、枝、果実などを好んで食べます。長く突き出た鼻と上唇を使い、高いところに生えている葉などもむしり取ることができるのです。
動物園では木の実や乾草、青草のほか、リンゴやバナナなどの果物、白菜やサツマイモなどを与えています。
- 著者
- まつざわ ありさ
- 出版日
- 2012-09-04
本作の主人公は、森の動物が寝静まった後、誰にも知られずに怖い夢を食べてあげているバクさん。歯医者に行くなど、幼い子どもが怖がりそうな夢の内容がユーモラスに描かれている絵本です。
みんなの怖い夢をひと通り食べた後、物語はバクの天敵でもあるヤマネコが見る意外な夢の話へと進んでいき……。
静かな夜を連想させるおだやかな語り口と、優しいタッチで描かれる幻想的でかわいらしい絵が、まるで本当に誰かの夢の中を覗いているような気持ちにさせてくれる不思議な作品です。
どんな夢でも食べることで素敵な明日をプレゼントしてくれるバクさんが紡ぐ優しい物語。寝る前の読み聞かせとしても最適だといえるでしょう。
- 著者
- ["高円宮妃久子", "ブライアン ワイルドスミス"]
- 出版日
本作の作者は、2020年の東京オリンピック・パラリンピック招致への尽力でも話題になった高円宮妃久子殿下。作画はイギリスを代表する絵本作家であるブライアン・ワイルドスミスが担当しています。小さなバクと少女の交流を描いた絵本です。
登場するバクは、空想上の獏を連想させる「幻獣」という言葉が相応しい見た目をしています。実際、人間とは違う世界に住んでいて、好奇心でとある少女の夢をのぞいたことから、交流がスタートするのです。
みんなが寝た後にくり広げられる、バクと少女の小さな冒険。緻密で美しい色彩のイラストで、ページをめくるたびに絵画を見ているような贅沢な気持ちにさせてくれます。彼らの友情や、子どもを思う親の愛情などがやさしく描かれていて、大人が読んでもほっとできる作品です。