マントヒヒという名前自体は聞いたことがあっても、その生態となると詳しく知らない方が多いのではないでしょうか。この記事では、そんな彼らの生態、性格、名前の由来、意外と間違えやすいマンドリルとの違いなどを解説していきます。あわせておすすめの関連本もご紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
霊長目オナガザル科ヒヒ属に分類されるサルの仲間です。
体長はオスが約70センチ、メスが約50センチ、どちらも尻尾の長さは50センチほどになります。また成熟したオスの体毛は灰色になるのに対して、未成熟のものやメス体毛は褐色です。このように雌雄で見た目に大きな差があることが、ヒヒ属のサルの特徴になります。
水辺に近い草原や岩場に生息し、餌は木の葉や果実、昆虫や小型の爬虫類などさまざまなものを食べる雑食です。
基本的には、1頭のオスが複数のメスや子どもを引き連れてひとつの群れを形成しています。夜になると、崖の上など安全な場所でいくつかの群れが合流。ときに100頭を超える大集団となり、外敵から身を守るのだそうです。犬歯がむき出しになるほど大きく口を開け、コミュニケーションをとっています。
天敵はハイエナや大型のワシ、ヘビなど。自然下での寿命はよくわかっていませんが、飼育下では約30年といわれています。
名前の響きが似ているため間違われやすいマントヒヒとマンドリル。しかしマンドリルはマンドリル属に分類され、熱帯雨林に生息している別ものです。
またマントヒヒは常に地上で生活をしていますが、マンドリルは眠る時や獲物を確保する時にも樹上を使うそう。
顔のつくりも異なっていて、マントヒヒのオスはほぼピンク一色なのに対し、マンドリルのオスは赤い鼻筋に青い縞模様のある頬、そして黄色いヒゲと非常に派手な配色をしています。
またマントヒヒは気性が荒く凶暴であるのに対して、マンドリルは温厚で友好的、攻撃性が低いといわれています。
雑食の霊長類で大きさも同じくらい、という共通点はありますが、両者はまったく違う生態をしているのです。
オスは成長するにつれて、側頭部や肩、背中などの体毛が長く伸び、たてがみのようになります。この姿がマントを羽織っているように見えることから、「マントヒヒ」と名付けられました。
なお「ヒヒ」は、日本や中国に伝わる巨大な猿の妖怪である「狒々(ひひ)」に由来しているといわれています。
英名は「Sacred baboon(神聖なヒヒ)」。これは古代エジプトで神の使いとして崇められていたことに由来するとされています。彼らは神殿の壁画に描かれたり、聖獣としてミイラが作られたりするほど重要な役割を担っている動物でした。しかし現在のエジプトでは絶滅しているため、残念ながら古代の威厳を感じることはできません。
ちなみにマンドリルは「man(人間)」と「drill(ヒヒ)」を合わせたものだといわれています。
ヒヒ属のサルは総じて気性が荒く凶暴です。マントヒヒも例外ではありません。時には天敵のハイエナなどにも牙をむき、縄張りを守るために戦います。
またハーレムを去ろうとしたメスを群れに連れ戻そうとして、首に噛みつき、力が強すぎてそのまま噛み殺してしまうこともあるそうです。
「ライオンやヒョウがいなくなるとヒヒが来る」という言葉があるほど、彼らの凶暴さと縄張り意識の高さは恐れられています。
マントヒヒのおしりはニホンザルなどと同様に毛が生えておらず、真っ赤で目立ちます。これは肌の色素が薄く血管が透けて見えているためで、発情期を表す性的アピールとしての役割をもっていると考えられています。
またオスの強さや元気さも、おしりで判断できるそう。より赤い個体ほど血気盛んで元気な証拠で、オス同士の争いでも優位に立ちやすいのです。
彼らは基本的に4足歩行なので、目線と同じ高さにくるおしりでアピールをするというのは理にかなっていますね。
- 著者
- 出版日
- 2017-11-26
ヒトと同じ霊長類であり、人間の進化を語るうえでも無視することのできないサルたちの、美しい姿を収めた写真集です。
マントヒヒをはじめ不思議な姿形をした種類や、まるで人間のように何かを考えているような表情を楽しむことができます。舞台となっている自然の壮大さも含め、特別サルに詳しくなくても存分にその魅力を味わうことができるでしょう。
世界的な霊長類の研究機関である京都大学霊長類研究所が監修しており、それぞれの種の基本情報から社会性、保全など幅広い話題の解説があることも大きな特徴です。実際に現地で調査をしてきた研究員だからこそ表現できる臨場感に圧倒されてしまいます。
- 著者
- ロバート・M・サポルスキー
- 出版日
- 2014-05-23
小さなころから霊長類に憧れていた神経科学者である著者が、20年以上にわたりアフリカのヒヒの群れを観察してきた記録です。
マントヒヒを代表とする個性的なヒヒたちの社会性やストレスについての詳しい知見のほか、当時のアフリカの情勢や民族・宗教に関する体験をユーモアと皮肉たっぷりに綴っています。
ヒヒと人間を同じ目線でとらえ、時に愛情を持ち、怒り、悲しむ著者の心模様が魅力です。慣れない環境に悪戦苦闘しながらも、ヒヒの社会と心に寄り添い続ける臨場感と切なさに、感動すること間違いありません。
名前は聞いたことがあっても、詳しい生態については意外と知らない動物が実は数多くいるのではないでしょうか。もし実際に見たくなったら動物園などに足を運んでもよいですし、おすすめした本を読んで彼らの暮らしに想いを馳せてもよいかもしれません。