『ドラえもん』における知識人枠の出木杉くんは、ロボットのドラえもんよりもよっぽどしっかりした少年です。今回は常に優等生な彼の実像に迫ってみましょう。
国民的人気作品『ドラえもん』は、主人公ドラえもんとのび太の「すこしふしぎ」な日常の物語です。彼らの周りにはいつもしずかちゃんにジャイアン、スネ夫などの仲間がいます。
いつもいるわけではありませんが、そんな仲間の1人に一際目立つ少年がいます。その名は出木杉英才(できすぎひでとし)。「出木杉くん」の愛称でお馴染みですね。
彼は将来、火星に出張するようなエリートとなります。今でこそ出木杉くんで通っていますが、以前は本名が違ったことがあって……それでは、少しずつ彼の意外な事実に迫ってみましょう。
- 著者
- 藤子・F・不二雄
- 出版日
- 1974-07-31
のび太達のクラスメイトですが、同級生とはとても思えないほど聡明でスポーツ万能。絵に描いたような優等生です。性格は温厚にして寛大、高潔で誠実と非の打ち所がありません。1人称は僕。
清潔感のあるイケメンでもあり、母親は未登場ですが、1度だけ登場したお父さんがそっくりなので父親似と思われます。出木杉家の家族は、他に大きい犬が1匹います。コンクールで優勝するほどの名犬なので、人もペットも優秀な家柄といえるでしょう。
『最新ドラえもんひみつ百科』によると誕生月は4月とされていますが、詳しい誕生日は不明です。
現行アニメの声優は萩野志保子。実写化で話題になったトヨタのCMでは、体操選手の内村航平が出木杉役を演じました。
『ドラえもん』はのび太の運命を変えるために、ドラえもんが未来からやって来たという設定です。そののび太の変わった後の未来で、のび太は出木杉とは親しい間柄にあり、それも手伝って彼の将来についてもある程度語られています。
すでに述べたように、大人になった彼は超の付くエリート。火星出張に際して、息子ヒデヨを野比家に預けるほど家族ぐるみの付き合いをしています。
奥さんの方はと言うと、なんと外国人。出木杉は将来、外国人とおぼしき女性を妻に迎えているのです。劇中でスミスという名の外国人と文通している様子があるので、もしかするとその縁で知り合ったのかも知れません。
その後も出木杉家は順調に繁栄したらしく、テレビアニメ版オリジナルではありますが、彼の子孫らしき人物が総理大臣になっているエピソードが語られました。彼の優秀さを考えればそれも納得……?
- 著者
- 藤子・F・不二雄
- 出版日
- 2005-12-01
最初に思わせ振りに書いてしまいましたが、出木杉の本名が出木杉英才じゃなかった時期があったのをご存知ですか?
彼が初登場したのは『ドラえもん』本編、てんとう虫コミックス版未収録の「ドラえもんとドラミちゃん」というお話でのことです。こちらは後に発行された『ドラえもんプラス』4巻に収録されました。
『ドラえもんプラス』では修正されていますが、児童誌「コロコロコミック」に掲載された初出版では、出木杉は「明智」と呼ばれていたのです。明智と言えば、江戸川乱歩の『少年探偵団』の明智小五郎を思い出しますが、それくらい聡明な少年ということでしょうか。
また下の名前は本編22巻では「太郎」として紹介されていました。現在の「出木杉英才」になってからも、読み方が「えいさい」や「ひでとし」で混乱が見られ、設定が固まるまで結構時間がかかったのです。
もしかすると、出木杉の名前が明智太郎になった未来も存在し得たかも知れません。しかし、やはり出来すぎた少年には出木杉という名前こそ相応しい気がします。
出木杉の能力は駄目駄目小学生のび太とは比べものになりません。
大人顔負けの知識量と洞察力を兼ね備えており、テストは常に100点満点。しずかちゃんも優等生な女の子ではありますが、彼は段違いです。
文武両道を地で行く彼は、体育においても他の追随を許しません。スポーツではサッカーが得意ですが、野球をやらせても超優秀です。守備も攻撃も完璧で、草野球をやらせればホームランもお手の物。それでいて文化系の趣味にも精通していて、料理も得意という、まさになんでもござれのハイスペック小学生。
ここまで天才的だと嫌味にも思えなくなります。
アニメでは「出木杉事件」とされたある嫌がらせ行為に対しても、紳士的な態度でことを納めており、精神的にもイケメンであることが窺えます。
- 著者
- 藤子・F・不二雄
- 出版日
- 1984-03-28
前述した「出木杉事件」にもう少し触れておきましょう。原作では「真夜中の電話魔」(『ドラえもん』30巻)というエピソードです。
あらすじをざっくり説明しますと、ある時から出木杉の成績が落ちているというところから物語が始まります。それと言うのも、毎晩毎晩彼の自室に嫌がらせの電話がかかってくるというのです。その嫌がらせに彼はすっかり参ってしまい、調子を落としていたのでした。
そこでドラえもんとのび太の出番です。電話口に付けると、物理的になんでも行き来させられる「物体電送アダプター」を使って、見事犯人逮捕に成功しました。相手はクラスで2番目に賢い少年でした。嫉妬による犯行です。
出木杉は彼の反省を確認すると、口外しないことを誓って、許してしまいました。
悪戯すら許してしまう非の打ち所がない人格者です。
- 著者
- 藤子・F・不二雄
- 出版日
- 1983-06-01
そんな出木杉ですが、なぜか大長編などの冒険からはハブられがち。決して嫌われてるわけではないのですが、これはどうしたことでしょうか。
たとえば映画『ドラえもん のび太の恐竜』では、当初出木杉の出番がありました。しかし、彼が担うはずだった要素はそれぞれ登場人物達に割り振られ、完成版では影も形もありません。
これはある種、彼が完璧超人ともいえる優秀さを誇るがゆえの悲劇と言えます。彼がいればなんでも1人で解決してしまえるので、話に面白味がなくなるのです。
- 著者
- 藤子・F・不二雄
- 出版日
- 1986-07-28
のび太としずかちゃんは将来、結婚することになっています。ところが、劇中のお話では、のび太としずかちゃんよりしずかちゃんと出木杉の方が、よほどお似合いのように描かれることが多いです。それをのび太が焼き餅焼いていろいろするわけですが……。
では、当の出木杉はどう思っているのでしょう? 第37巻「たまごの中のしずちゃん」でその本音が垣間見えます。それによれば彼もまんざらではない様子。むしろ好意的だということがわかります。
しずかちゃんについては<しずかちゃんに関する10の事実!『ドラえもん』のヒロインは可愛くて毒舌?>の記事がおすすめです。
- 著者
- 藤子・F・不二雄
- 出版日
- 2005-09-03
あらゆることをそつなくこなす出木杉。実は彼にも苦手なことがあるのです。正確には「苦手を作られた」と言うべきですが。
『ドラえもんプラス』3巻に「苦手つくり機」という道具が出てきました。本来は悪癖を苦手にして矯正させるもので、原作ではジャイアンに対して使われました。
その翻案として「出木杉にも苦手を作れ」という話がアニメオリジナルで作られたのです。それによって出木杉はスポーツも勉強も苦手になるのですが……なんと彼は真っ向から苦手に立ち向かって、克服してしまうのでした。
やっぱり彼に苦手なことなどないのです。
出木杉の名言はやっぱり出来すぎている? 彼らしい台詞を集めてみました。
第5位:
「悪いこといわない。宿題のほうが、キャンプよりだいじだよ」
(『ドラえもん』43巻より引用)
勉強もせず遊びに釣られるのび太を戒めるシーン。これぞ優等生。
第4位:
「べつに笑わないよ。
魔法も昔はちゃんとした学問として研究されていたんだから」
(『大長編ドラえもん5 のび太の魔界大冒険』より引用)
迷信を信じて馬鹿にされたのび太に、逆に肯定して見せることもしました。神秘学も正しく認識している辺りは、本当に恐れ入ります。
第3位:
「これからの時代は、女性もどんどん社会に出て働くだろ。
家事は女性の専門というわけにいかなくなると思うよ」
(『ドラえもん』40巻より引用)
男が料理するぜひについての意見です。時代性を考慮すると彼が先進的な人間であることがわかります。
第2位:
「ぼくだってしずちゃん大すきだよ。
でもこんな機械にたよってきみの心を動かすのはいやなんだ」
(『ドラえもん』37巻より引用)
道具でおかしくなったしずかちゃんを窘める一言。クールな出木杉の温かい内面が感じられます。
第1位:
「予言なんて信じないよ。みんな偶然かこじつけだ」
(『ドラえもん』36巻より引用)
予言に戦々恐々な仲間達に対して、冷静に返した言葉。知識と理屈に裏付けられた見事な台詞です。
いかがでしたか?どこまでいっても出木杉は出木杉でした。果たして世の中にこれほど良く出来た人間はいるのでしょうか。