生活保護をテーマにした漫画『健康で文化的な最低限度の生活』。新米区役所職員がケースワーカーとしてさまざまな難題に立ち向かっていきます。生活保護の見方が変わること間違いなしですよ! この記事では、そんな話題作の見所を全巻紹介!考えさせられるものがありながらも、ストーリーのある漫画としても面白い本作について徹底的に解説していきます!ネタバレを含みますので、ご注意ください。
漫画『健康で文化的な最低限度の生活』は、柏木ハルコによって『ビッグコミックスピリッツ』で2014年から連載されています。単行本は7巻まで発売中です。
不正受給など、何かと悪いイメージを持たれがちな生活保護がテーマに、生活保護を受ける人が抱えるさまざまな事情が描かれています。現場への徹底的な取材に裏打ちされたリアリティの高い内容が話題となり、2018年7月からテレビドラマも放送されることになりました。
本記事ではその魅力を、単行本の内容に触れながらご紹介します。
区役所に就職した義経えみるは、配属された福祉事務所でケースワーカーとして生活保護に関する仕事をすることになります。制度や接遇など、覚えなければいけないことが山積みな上、相談者や受給者に怒鳴られたり罵られたりと、初日から気苦労が絶えません。
そんなある日、稼働年齢層の受給者を対象とした就労指導をおこなうことになり……。
- 著者
- 柏木 ハルコ
- 出版日
- 2014-08-29
1巻では、さまざまな生活保護受給者たちの様子が描かれています。能天気に暮らしている人もいれば、精神的に追い詰められている人も……。そんな対象者たち一人一人に、えみるはケースワーカーとして深く関わっていきます。
たとえば、就労指導で担当する阿久沢という男は、事務所に来るたびに激しく咳き込みますが、体調に異常はなく、就労は可能という不可解な状態です。えみるが掘り下げていくうちに、実は1日1食しか食べていないことが明らかになります。
その理由を「酒かギャンブルではないか」という先輩職員・半田の指摘を受け、えみるは家庭訪問を決行。そこでとんでもない事実が発覚するのです。
一筋縄ではいかない対象者たちの複雑な事情に、いろいろと考えさせられることでしょう。
阿久沢の件でほとんど何もできなかったと、反省しきりのえみる。もっと仕事ができるようになろうと頑張りますが、なかなかうまくはいきません。
そんな中、えみるが担当する日下部家の収入未申告、すなわち不正受給が発覚し……。
- 著者
- 柏木 ハルコ
- 出版日
- 2015-01-30
2巻では、えみるが不正受給の問題に向き合います。
生活保護を受けている日下部家の長男・欣也が母の知らないところでアルバイトをしており、その収入が申告されていないことが発覚。その場合、それまで稼いだ給料の分を全額返還しなければなりません。
日下部母子も制度について把握や確認ができていなかったこともありますが、えみるの前任者の説明が足りなかったこともまた事実。しかし、それでも「知らなかった」では済まされず、不正受給と見なされてしまうのです。
生活保護の厳しい側面が印象深い内容です。
「オレは…そんな悪いことをしたんですか…?」
(「健康で文化的な最低限度の生活」2巻より引用)
欣也の問いに答え、これからできることを説明すべく準備するえみる。しかし、欣也が家にいないことが多くなったと聞き、不安になります。
そして迎えた面談の日。福祉事務所に母と一緒に歩いてくる欣也の姿が見えるのでした。
- 著者
- 柏木 ハルコ
- 出版日
- 2016-01-29
3巻は、不正受給問題に一区切りがつき、オムニバスのような形式になっています。
その中で、えみるの同期・栗橋のエピソードが見所です。栗橋は新人ながら、制度をバッチリと押さえており、仕事もてきぱきとこなす真面目な女性です。しかし、その真面目さゆえに就労指導では失敗してしまったことも。
エピソードでは、担当する受給者が生活習慣病の治療を積極的に受けようとしないことに苛立ちます。保護を打ち切ることも考えますが、就労指導で相手の事情を把握しきれなかったミスが頭をよぎり、根気よく話を聞くことに。
真面目な彼女の奮闘ぶりに注目です。
うつ病を理由に生活保護を申請する青年・島岡。しかし、扶養照会したところ、彼には医者の父親がおり、扶養にも前向きです。それにもかかわらず、島岡は扶養をかたくなに拒否します。
2人の仲介を任されたえみるは、何とか話し合ってもらおうと、島岡の父とともに彼のもとへ。しかし、島岡は逃亡の末に自殺を図ってしまうのでした。
- 著者
- 柏木 ハルコ
- 出版日
- 2016-08-30
4巻の見どころは、島岡父子の問題です。
島岡の自殺未遂をきっかけに、父子の間にただならぬ事情があるのではないかという話になり、緊急の係会議が開かれます。さまざまな意見が飛び交う中、考えを聞かれたえみるは頭が真っ白に。担当者なのにうまく答えられず、落ち込んでしまいます。
一方、入院中の島岡は、あることがきっかけでトラブルを起こしてしまうのですが、そのトラブルによって、衝撃的な事実が発覚。そこから急展開を迎えます。
「親子とは何か?」ということを深く考えさせられる内容です。
いつの間にか12月。ケースワーカーの仕事に慣れてきてはいるものの、人として成長できている実感が持てないえみる。「動けば動くほど仕事を増やす」という何気ない言葉に、落ち込んでしまいます。
そんなえみるの様子を見た半田が「それは義経さんの強みだ」と励ましの言葉を贈るのでした。
- 著者
- 柏木 ハルコ
- 出版日
- 2017-05-30
5巻では、えみるがアルコール依存症の対象者・赤嶺に向き合います。
急性膵炎を起こして入院した赤嶺。病院で大暴れしたことをきっかけにアルコール依存症を疑われます。
膵炎の治療を真面目に受けようとせず、飲酒もいっこうにやめようとしない彼を、何とか説得しようとするえみる。しかし、はぐらかされたり言うことを聞くふりをされたりで、なかなかうまくいきません。
結局、むりやり退院してしまった赤嶺は、やはり酒を飲んで泥酔。再びトラブルを起こしてしまいます。本人の意志だけでは克服できない、アルコール依存症の恐ろしさが生々しく描かれていますので、ぜひ注目してみてください。
再び病院に運び込まれた赤嶺。半田からのアドバイスで、えみるは断酒を約束させるのではなく、本人がアルコール依存症を治そうという気持ちになるように働きかけるというアプローチに変更します。
何とか赤嶺に納得してもらい、専門の病院に転院することに。そこへ、赤嶺の実兄がやってきて……。
- 著者
- 柏木 ハルコ
- 出版日
- 2018-01-30
6巻では、えみるがケースワーカー2年目を迎えます。後輩ができ、先輩らしい姿を見せられるように頑張ろうと決意。一方で、赤嶺のケースにも引き続き向き合っていきます。
アルコール依存症専門の病院からの退院も決まり、自宅に帰れるようになった赤嶺ですが、彼の住む部屋は酒ビンや缶が散乱するゴミ屋敷。そのままだと確実に再飲酒すると言われてしまいます。片付けようにも、業者に頼むお金はありません。
そこでえみるたちは「チーム赤嶺」を結成し、部屋の大掃除に取りかかります。その様子に心を動かされた赤嶺は、今度こそ断酒して立ち直り、別れた娘に会えるように頑張ることをえみるに誓います。
2年目になり、よりいっそう頑張るえみるの姿に注目です!
7巻では、えみるの同級生である栗橋の担当者のエピソードが描かれます。その物語の始まりは、東区区民ふれあいまつりでのこと。区のゆるキャラであるしーだくんに扮するエミルに対し、栗橋は屋台をやっていました。
もうそろそろ屋台は撤収かなとなった時に、ひとりの子がそこにあったりんご飴を盗んでいきます。その子はその後、しーだくん(えみる)を全力で蹴って逃げていきました。
それが今回民生委員のひとりから連絡を受けた佐野というシングルマザーの子供のひとりでした。
- 著者
- 柏木 ハルコ
- 出版日
- 2018-08-30
7巻ではどれだけ子ども家庭支援課が手を差しのべようと、徹底的に無関心な様子を見せる佐野という女性が描かれます。帽子を目深に被り、マスクも常時着用という、見た目からしても他者を寄せ付けない様子です。
無断で住み続けていた賃貸を職員が掃除しに行ってもやる気を見せず、生活保護の本払いが決まっても喜びもしません。挙げ句の果てにそのまま連絡がつかなくなり、失踪してしまうのです。
それに対し、再開することになった佐野に母親としての責任のなさをつい責めてしまった栗橋ですが、彼女を調べるうちにある背景を突き止めます。そしてえみるの言葉に感化され、もう一度歩み寄ろうとするのでした。
本作は生活保護を受ける人がただの弱者ではなく、それでいて完全に良い人という訳でもないリアルが描かれることに定評がありますが、このエピソードでも、佐野の様子から本当にこういう人いるよなぁ、と実感しながら物語に入り込んでしまいます。
そして地道に解決の道を歩もうとする栗橋は、えみると協力してある行動に出ます。果たして佐野の無関心さを崩して自立への道を用意することはできるのでしょうか?