長い口先が特徴のアリクイ。決して小さいわけではなく、また母乳で子どもを育てる哺乳類なのに、アリだけで体を維持できるのが不思議ですよね。この記事では、そんな彼らの生態や、口と舌の構造、種類、性格、餌などについてわかりやすく解説していきます。後半ではもっと興味がもてるおすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
有毛目に分類される動物で、歯が退化していることから以前はナマケモノやアルマジロとともに貧歯目というグループに分類されていました。また、胸椎と腰椎には異節突起と呼ばれる腰を支える特別な関節があり、この関節にちなんで異節目とも呼ばれることもあります。寿命は8~15年程度です。
最大の特徴である長い口には、粘着性の唾液と細かなトゲが付いた舌が隠されています。この舌は最長で60cmほどにもなるそう。左右に分かれている下顎の骨を開いたり閉じたりすることで出し入れし、シロアリなどを舐めとって捕食します。
前肢の先には大きくて鋭い爪がついていて、硬い蟻塚の外壁に打ち込んで壊し、シロアリが巣の修復に出てきたところを捕まえるのだそう。
シロアリの巣は、自然界のなかでもっとも優れた建造物だといわれていて、中程度の大きさのものにも200万匹ほどが暮らしています。しかも彼らは壊された外壁の修理を一晩で終えることができるため、巣の中のシロアリを1度で食い尽くすことはできません。
そのためシロアリ自身も一定の個体数を維持することができ、アリクイと共存しているのです。
下記の4種類の生息が確認されています。種類ごとの特徴や生態を紹介しましょう。
オオアリクイ
体長は100~130cm、尾長は65~100cm、体重は18~40kgほどで、世界最大の種類です。中央から南アメリカにかけて生息しています。
鋭い爪で自分を傷つけないよう、拳を丸めて指の外側を地面につけて歩くナックルウォークをするのが特徴です。
嗅覚が発達していて、なんと人間の40倍近い能力があるそう。1日に3万匹のシロアリを食べています。地面の匂いを嗅ぎながら歩くことで地中の巣を探し当て、シロアリ以外の蟻を食べることもあります。
生後1年くらいまでの子どもは母親の背中におんぶされる形で行動します。彼らの毛の模様は迷彩服に似た効果があり、上空から見た時に母親の背に同化して鷹など外敵の目を欺くことができるのです。
環境破壊などの原因で棲む場所を追われたり、狩猟されたりし、約5000頭まで個体数を減らしていて、絶滅危惧種に指定されています。
ヒメアリクイ
体長が12~23cm、尾長が16~30cm、体重は0.2~0.5kgで、世界最小の種類です。メキシコ南部からボリビアにかけて生息しています。
基本的には樹上で生活し、動きが非常に緩慢なうえ夜行性。ナマケモノに近い生態を持つのが特徴です。
キタコアリクイ
体長が50~75cm、尾長が40~70cm、体重は2~7kgです。中央から南アメリカに生息しています。
黄褐色の体毛で、肩から尻にかけて黒い毛が混ざって生えている個体が多く、尾の3分の2には毛が生えていません。オオアリクイ同様前肢の爪が鋭く、ナックルウォークで歩くことが特徴です。
尻尾を使うことに長けており、樹上で生活する際には尾で枝にぶら下がって食事を取る姿も見られます。
ミナミコアリクイ
体長は35~90cm、尾長が35~70cm、体重は1.5~8.5kgです。メキシコから南アメリカ北部に生息しています。
キタコアリクイと似た外見、生態をしていますが、見分けるポイントは耳の大きさ。キタコアリクイは5cm程度で、ミナミコアリクイは4cm程度です。
基本的に大人しい性格をしていて、率先して他の動物を攻撃することはほとんどありません。
ただ、体が大きく力も強いオオアリクイは、ジャガーやピューマなど大型の肉食獣を鋭い爪で殴りつけ、返り討ちにする勇猛さを見せることもあります。
2007年にはアルゼンチンの動物園で飼育員の女性が、そして2014年には中米で2人の猟師がオオアリクイに襲われて命を落とすという事故が起きました。
これは飛行機の音や銃声などで警戒態勢に入り、前肢を振り上げ人間に致命傷を与えたのではないかと考えられています。
体が小さいコアリクイやヒメアリクイは、日本でもペットとして飼育することができます。金額は60~70万円ほど。特別な届け出などは必要ありません。
餌として好ましいのはシロアリですが、個人宅で飼育する場合はもちろん、動物園であっても毎日数千~数万匹を用意することは困難です。
そのため動物園では、ヨーグルトやマヨネーズなどの蟻酸に似た風味の食物と、果物、野菜、卵、ドッグフードやキャットフードを水分とともに撹拌して作った専用のフードを与えています。
彼らは歯が退化していて、食べ物を咀嚼することができないので、ペースト状にする必要があります。
- 著者
- 松原卓二
- 出版日
- 2013-09-07
国内でミナミコアリクイの展示をおこなっている動物園や水族館で撮影した写真をまとめた、日本初の写真集です。
各動物園で飼育されている個体の名前や家族構成も記載されていて、世帯ごとに見られる体毛の違いなど、じっくりと楽しむことができます。
アリが顔にたかって嫌そうな顔をしたり、母親が子どもを優しく見つめたりと、こんなにも表情が豊かなのかと驚かされるでしょう。野生では単独で行動することが多いので、家族の仲の良さがうかがえるショットは貴重です。
読んでしまったら最後、実際に会いに行きたくなってしまう一冊でしょう。
- 著者
- 山本 省三
- 出版日
動物の死体をもとに生態に隠された謎を紐解いていく、獣医学者の遠藤秀紀が監修した作品です。
表紙のイラストにも惹きこまれますが、中身はなかなか学術的。身近な動物と比較することで、アリクイの骨や舌の構造がいかに変わっているか説明してくれています。
ただ判明した事実を並べるだけではなく、研究の方法や、突拍子もない調査過程なども記されているので、学者という仕事についても興味を持てるでしょう。
タイトルにある「ついにとけた!」は、過去に手掛けた『パンダの死体はよみがえる』という作品にかかっているもの。当時はアリクイの口の動きを完全に解明できていなかったそうで、あわせて読んでみると研究の過程がわかり、より楽しめるのではないでしょうか。
- 著者
- 田向 健一
- 出版日
- 2016-01-31
現役の獣医師として活躍している田向健一の作品。昨今はペットブームもあり、動物病院自体は増えましたが、実はイヌやネコ以外は診察できない施設が多いのも現状です。
そんななか、田向が院長を務める田園調布動物病院では、サーバルキャットやスローロリス、タランチュラ、ドジョウなどさまざまな動物の診察をおこなっていて、本書はその診察の様子をまとめた奮闘記です。
アリクイが患者としてやってきたことも1度ではないそう。初診の際は、あまりの情報の少なさから図鑑からも知識を得て、手探りで治療を進めました。
また飼い主とのやりとりも見逃せません。協力的で献身的な人も多いなか、時には病状を理解しない困った人もいて、獣医としての葛藤も描かれています。
語り口は軽快でスラスラ読める一方で、考えさせられる内容も多く、動物を愛するすべての人に読んでいただきたい一冊です。
前肢を広げた威嚇のポーズが可愛すぎるとして人気が出たアリクイ。時には大型の肉食獣にも負けない強力な一撃を出すこともできる、意外な一面もありました。また口や舌の生態について詳しくわかったのがそんなに昔のことではないのも、驚きです。興味がわいた方は、ぜひご紹介した本を読んでさらなる魅力を知ってみてください。