一生の大半を地面の中で過ごす不思議な生き物、モグラ。絵本などで子どものころからなじみ深い動物ではありますが、実際にその姿を見たことがある方は少ないのではないでしょうか。今回は、そんな彼らの不思議な生態や種類の紹介、穴を掘る習性、飼育などについて解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、最後までチェックしてみてください。
トガリネズミ形目モグラ科に属する種の総称で、森林や草原の地面にトンネルを掘り、地中で生活をしている哺乳類です。
体長は種によって異なりますが、10センチ前後。細長い体に、土をかきやすい大きな前足と長い鼻が特徴です。
目は小さく、光を感じる程度しかできません。その代わり、鼻の先にある「アイマー器官」という特殊な触覚が発達し、触れたものを判別することができます。また体毛は皮膚から垂直に生えていて、そのため自分の体の幅ほどしかないトンネルの中でも引っ掛かりにくく、後退も簡単にできるようになっているのです。
主な餌は地中のミミズや昆虫で、自分のトンネルの中に迷い込んできたものを探して捕食します。畑を耕す役割を持つミミズを捕食することや、トンネルによって作物の根が伸びにくくなることから、農業害獣とみなされることも。
その一方で毛皮を目的とした乱獲や、生息環境の悪化などで個体数が減り、絶滅危惧種に指定されている種類も存在します。
日本国内では北海道を除く全国に生息し、適した環境のある離島でも確認されています。寒くなっても冬眠することなく餌を取り続け、5年ほど生きるようです。
日本に生息しているモグラは4属7種で、そのすべてが日本固有種になっています。大きく「真性モグラ類」と「ヒミズ類」の2つに分類されますが、一般的に知られているのは広域に生息する真性モグラ類。一方のヒミズ類は、動きが素早く地上でも活動することで知られています。
【真性モグラ類】
1:アズマモグラ
東日本でもっとも広く分布している種で、小笠原諸島などの離島でも見ることができます。尾が短く、生息する環境によって体長が大きく異なるのが特徴です。
2:コウベモグラ
主に西日本に生息する、比較的大型の種です。アズマモグラと同じく離島にも生息し、アジア大陸に近縁種がいることも確認されています。
3:サドモグラ
佐渡島や越後平野に生息する種で、水辺に近い地中に生息しています。人間によって環境を崩されたことから、アズマモグラに分布域を追われており、絶滅危惧種に指定されています。
4:センカクモグラ
尖閣諸島に生息しており、標本が1体しか無いため、非常に数が少ないと考えられている種です。その存在自体が危ぶまれており、絶滅危惧種にも指定されています。
5:ミズラモグラ
本州のみで確認されており、山地に生息する種です。この種も非常に生息数が少ないとされており、絶滅危惧種に指定されています。
【ヒミズ類】
1:ヒミズ
森林や草原の落葉の下に生息し、長い尾を持つ小型の種です。掘るトンネルは浅めで、夜間には地表に出て歩き回ることが知られています。
2:ヒメヒミズ
ヒミズよりもさらに小さく、体長は8cmほど。ヒミズに生息地を追われているため高山に生息していて、平地で見ることはできません。
このほか世界にはおよそ30種が生息していて、なかでもロシアデスマンは体長が20cmに達する最大の種です。また鼻先に複数の突起があり星型の形状をしているホシバナモグラなど、さまざまな種が生息しています。
掘った土を巣の外に積み上げる習性があり、新しい巣穴を掘ったり自分のトンネルの修理をしたりすると、地上に土の盛り上がりができます。これを「モグラ塚」と呼び、地上からでもその存在を確認することのできる数少ないサインです。
害獣として退治したい場合は、「モグラ塚」を頼りに探すことになります。
穴を掘るという行為はモグラたちにとってかなりの重労働ですが、地中でより多くの餌を得るために必要な作業です。
また彼らが地中で暮らすことには、多くのメリットもあります。まず地上に比べて温度や湿度の変化が少なく、安定した生活ができると考えられています。さらに天敵であるキツネやフクロウにも襲われづらく、餌となるミミズや昆虫も多く生息しているのです。
そのためモグラは地中で生きるように進化を遂げ、日々新しい巣穴を掘ったり、自分のトンネルの修理をおこなったりしているのです。
彼らは生きるために非常に多くのエネルギーを使うため、餌の量が膨大です。1日に摂取するのは、実に自分の体重の半分近く。胃の中が半日空っぽになっただけで餓死してしまうほどの大食漢なのです。
そのため彼らは、自分の巣であるトンネルの中に食料貯蔵庫を作り、そこに捕まえたミミズや昆虫を溜めておくことで餓死を防いでいます。モグラの唾液には獲物を麻痺させる成分が含まれているので、噛みついて仮死状態のまま放置できるのです。
ちなみに真性モグラ類は肉食で、ミミズや昆虫を主な餌としますが、ヒミズ類は植物や果実なども食べる雑食です。海外に住む「デスマン」と呼ばれる種は、水辺に暮らし、魚や両生類を食べることでも知られています。同じ仲間でも生息地や環境によって、生態が大きく変わる動物だといえるでしょう。
愛くるしい見た目をしているので、モグラをペットとして飼育してみたいという方もいるのではないでしょうか。しかし飼育や捕獲をするためには都道府県の許可を取る必要があり、ペットショップなどでも扱っていません。
さらに、先述したとおり1日に大量の餌が必要となり、半日間栄養を取らないだけで死んでしまうため、常に目が離せないのです。また環境の変化にも敏感で、温度や湿度を一定に保つ必要もあります。加えて実は凶暴な性格をしているので、人間になつくことはありません。
仮に許可がおりてペットにできるようになったとしても、飼育をするのはなかなか難しいといってよいでしょう。本物のモグラを見たい場合は、動物園などに行くのが1番現実的かもしれません。
- 著者
- ["飯島 正広", "土屋 公幸"]
- 出版日
- 2015-07-18
普段なかなか目にすることのできないモグラの仲間たちの姿を、鮮明な写真ではっきりと確認することができる図鑑です。検索表も充実しており、本自体は小さく持ち運びやすいため、フィールドワークに使うことも可能です。
モグラの生態やキノコとの共生などに関するコラムも興味深く、頭骨図鑑なども備えた資料集としても価値があるでしょう。写真を眺めるだけでも十分楽しめるので、モグラに興味を持つすべての人におすすめの一冊です。
- 著者
- エドアルド・ペチシカ
- 出版日
- 1967-12-01
人間味あふれる「もぐら」の行動をとおして、「ものづくり」をわかりやすく学ぶことのできる絵本です。
青いズボンに憧れた主人公が、さまざまな友達の力を借りてズボンを完成させていくという達成感にあふれた物語。子どもだけでなく、読み聞かせをする大人も虜になってしまうでしょう。
イラストは自然なタッチで、もぐらと仲間たちのコミカルなやり取りも楽しく読むことができます。
知っているようで意外と知らないモグラの生態をご紹介しました。特殊な姿形や習性を持った彼らについて調べてみると、これまでよりも一層魅力的に感じてしまうのではないでしょうか。もっと深く知りたくなったら、ぜひご紹介した本をお手に取ってみてください。