岡山のマイナー地下アイドル「ChamJam」のなかでもファンが少ない少女・舞菜と、唯一の舞菜推しの女性・えりぴよを中心に、アイドルとドルオタの日常を描いた『推しが武道館いってくれたら死ぬ』。 舞菜とえりぴよのもどかしい百合展開や、アイドルとファンの絆、友情とはまた違ったアイドルたちの繋がりと結びつきが描かれています。そんなアイドルたちとオタクたちの人間関係が魅力的な本作について、紹介していきます。一部ネタバレが含まれますので、ご注意ください。
岡山県で活動するマイナー地下アイドル「ChamJam」。7人組で活動する彼女たちのなかでも、性格が内気でファンも少ない女の子・舞菜を中心に、アイドルとファンの様子が描かれた『推しが武道館いってくれたら死ぬ』。
メインで描かれる舞菜は、望んでアイドルになったものの、前に出るタイプではなく、他の子に比べて自信なさげ……。しかし、自分のことを好きでいてくれるファンのため、よりアイドルとして輝けるよう努力したり、ファンのために一生懸命アピールしようとする姿がなんとも愛らしいのが見所です。
- 著者
- 平尾アウリ
- 出版日
- 2016-02-13
また、本作の魅力は何と言っても、アイドルである彼女たちと、周りのファンの姿が非常にリアルなこと。
「ChamJam」ファンのなかでも古株で、唯一の舞菜推しである「えりぴよ」や、「ChamJam」センターで一番人気のれお推しの「くまさ」、新参でアイドルとリアルで恋できたらと願う、「ChamJam」スリートップ空音推しの「基」たちのそれぞれのアイドルとの向かい方がまさにオタク的。
握手券付きのCD複数買いや、ブロマイドの交換、イベントがあればどこであれ始発出発、前日からの現地乗り込み、稼ぎのほとんどを推しへ使うなど、まさにオタクの鏡です。
アイドルはとにかく固定ファンをつけるのが人気獲得のために欠かせませんし、ファンもファンで、推しに自分を印象付けるためグッズ購入やイベント参加は欠かせません。
テレビに出て華々しく活躍する前、注目を浴びる前には長い下積みや営業があり、古参ファンというのはそういう時代からアイドルを支えている、そういうアイドル界のことを教えてくれる作品です。
えりぴよは舞菜のファンなので、持っていた洋服をすべて売り払い、ファンになってからの稼ぎもすべて舞菜に貢ぎ、ライブで舞菜を見て鼻血を出す姿は、舞菜というアイドルが好きだから、でなんとなく納得できるような気もしますが、舞菜も舞菜で、えりぴよが好きな様子……。
えりぴよは舞菜が自分に塩対応だと思っているようですが、舞菜のほうはずっと自分を好きでいていつでもどこでも応援に来てくれるえりぴよに対し、特別な感情を持っています。アイドルとしてではなく個人的に、連絡先を知りたい、会いたいと思っている様子……。
かわいい女の子たちに囲まれたアイドル業を続けるために、気持ちを悟られてはいけないと舞菜が自制している場面があったり、バレンタインイベントで、チョコに自分の連絡先を添えて渡そうと考えるなど、なにやらLIKEよりLOVEの雰囲気を感じます。
この2人以外にも「ChamJam」スリートップのひとり眞妃と、ダンスのとき後列に配置される後列組のゆめ莉もなにやら友情以上の繋がりを感じます。
ゆめ莉は眞妃の後ろで、眞妃の踊る姿を見ていたいから人気投票で上位3人には入りたくないと願い、眞妃はゆめ莉にもっとスポットライトを浴びてほしいと、ゆめ莉の投票券付きのCDを大量買い。他に人がいなければ手を繋いだり、肩を寄せ合うなど親密な様子を見せています。
空音が男と2人でいる姿を見たという目撃情報がネットで拡散されたときも、眞妃はゆめ莉を見て、見られて困ることはないと言い、ゆめ莉はゆめ莉で頬を赤らめて顔を隠したのです。この2人はガチな雰囲気を感じます。
他にも、かわいい女の子たちが女の子同士で密に接している場面が多くあり、百合のような雰囲気が漂っていて、女の子同士のなかよしな姿を見るのが好きな方にはオススメです。
岡山のマイナー地下アイドル「ChamJam」の舞菜を推し続けて3年。溢れんばかりの愛と持てる限りのお金を持って、舞菜を応援する古株ファンの女性・えりぴよ。ファンになってからは、舞菜のためにバイトを掛け持ちし、稼いだお金はすべて舞菜に貢ぎ、持ってる服は高校時代の真っ赤なジャージのみ。
新参にもその名が知られ、「ChamJam」ファンの間では知らない人はいないえりぴよは、自分以外にも舞菜ファンがいると信じて疑わない様子。確かに、舞菜のことを「いい」と思っているファンはいるのですが、ライブ後の握手会で握手するのは、えりぴよただひとりです。
- 著者
- 平尾アウリ
- 出版日
- 2016-02-13
ではなぜ、彼女だけなのか……。それは、えりぴよのガチっぷりと、赤ジャージオンリーでイベントに来る姿、舞菜へのヤバすぎる愛に、新参も古参もビビりまくっているからでした。
しかも、ライブ後の握手会は、物販でのCD特典なのですが、えりぴよは舞菜のCDをすべて買い占めてしまうのです。もちろん、センター・れお推しの古株・くまさなども複数買いするので、舞菜が元々の数をあまり用意されていないことも要因だとは思いますが、舞菜に握手列ができないのは間違いなく、えりぴよのせいです。
そんな彼女を舞菜は好きみたいなので、問題はないのですが……。ただ、舞菜も彼女の予想外の行動には驚かされっぱなしのよう。
特に1巻では「ChamJam」の野外ライブの際に、いつものジャージ以上に異常な格好をしてやってきます。彼女が出禁にならない理由が知りたいですが同性だから許されている部分も多い気がします。ただ、今回の異常な格好もすべて舞菜への愛ゆえ。
どんな格好をしてライブに行ったのか、ぜひ読んで確かめて見てください。リアルでやると確実に警備員を呼ばれると思います。
CDに付いてくる投票券を使って人気投票をおこなうことになった「ChamJam」。順当に行けばスリートップのれお・空音・眞妃が上位3つに入り、舞菜は最下位の7位になるはず……。メンバーもファンもそう思っていた投票ですが、中間発表ではなんと舞菜が3位に。えりぴよの執念は凄まじいですね。
もちろん、ファンはみんな自分の推しを1番にしようとCDを複数買ってたくさん投票するのですが、そのなかでほぼ彼女の投票オンリーな舞菜を3位に押し上げるその気力、ガチオタの鏡です。
- 著者
- 平尾アウリ
- 出版日
- 2016-09-13
ずっとバイトを続けているパンのライン工場から、コンビニ、交通整理とバイトを増やし、暇さえあれば舞菜に貢ぐためのお金を稼ぐえりぴよ。しかし、交通整理中の事故により骨折し、ドクターストップがかかってしまいます。
ライブ後いつもCDを買い占め、握手券数枚提示が当たり前だったえりぴよが、1枚しか握手券を持ってこなかったことに舞菜はびっくり。えりぴよはライブで鼻血を出したり、腕を折るなど怪我することが多く、またどんな怪我をしても来てくれたため、彼女が働けない状況にあるということを舞菜は知らなかったのです。
人気投票は推しへの愛を形にして大々的に示せるまたとない機会。しかし今回はCDも1枚しか買えませんし、心苦しい状態です。ただ、推しに積めない状況は辛いけれど、握手会では今まで以上に舞菜が釣ろうとしてくれて、えりぴよ的には割と幸せを感じているよう。
幸せな彼女に反して、舞菜はえりぴよが同じ後列組の文に推し変したという噂を聞き、ショックを受けてしまいます。
えりぴよは舞菜以外眼中にないよ、と教えてあげたいです。2人が過去最高のすれ違いを見せて不安を感じるなか、えりぴよが取った行動とは……。端から見ればヤバいやつですが、このシーンは舞菜の反応が非常にかわいい見所です。
それにしてもなぜ推し変などという噂が流れたのか……。えりぴよと文の絡みにも注目したいです。
骨折が完治し、ラストスパートをかけるべく再びバイトに精を出したえりぴよ。しかし、連日の疲れからら、投票最終日に川に落ち夜まで気を失ってしまいます。ライブにも握手会にも投票締め切りにも間に合わなかった彼女ですが、会場に行き残ったCDをダンボールごと買い取って行きました。
愛です。まごうこと無き愛です。物販担当のスタッフから、えりぴよのことを聞いた舞菜はすぐに楽屋を出てえりぴよを追いかけます。彼女がダンボール抱えて駅に向かう姿を見た彼女は、えりぴよの愛を再確認。ハッピーエンドに終わってよかったです。
- 著者
- 平尾アウリ
- 出版日
- 2017-06-13
結局、舞菜は7位になってしまいましたが、彼女が幸せならそれでいいのです。傍目から見ればあまりいい状況とは言えなくても、本人の心が満足しているならそれ以上望むことはありません。
今まではえりぴよのヤバさが目立って来ていましたが、3巻では舞菜も割と末期であることがうかがえます。自分を天使と称え、ANGELと書かれたシャツを着て来たえりぴよを見て、赤面するのです。
「な…なんだか…恥ずか…好き…」
(『推しが武道館いってくれたら死ぬ』3巻より引用)
素で天使などと言ってくる人間は大体がヤバイやつです。それを見て好きだと思えるあたり、舞菜もなかなかな性格をしています。えりぴよが風邪で来れないと聞いた彼女は、うつされてもいいと思うほど。
「えりぴよさんの病原菌ならもらってもいいんだけど…」
(『推しが武道館いってくれたら死ぬ』3巻より引用)
一体どちらがどちらのファンなのか……。仮に立場が逆転していたとしても、2人はきっと変わらないのではないでしょうか。クリスマスイベントや初詣の場面も、舞菜のえりぴよへの想いを感じられるいいシーンで見所です。
特にクリスマスシーンはただの愛の告白にしか見えず、えりぴよと舞菜推しは一言一句見逃せません。
岡山のアイドルフェスへの出場が決まった「ChamJam」。れおのドラマ出演や、眞妃のテレビ出演など、徐々に注目され始めるようになって来て、メンバーもあらためて気合が入ります。
やはり、アイドルとして活動している以上、目指す場所は武道館。3年もずっと地下アイドルを続け、なかなか脚光を浴びれない状況に、メンバーやファンも少なからず不安を抱えていたのではないでしょうか。
- 著者
- 平尾アウリ
- 出版日
- 2018-05-11
同時期に活動を始めた宮島のアイドルグループ「めいぷる♡どーる」は、すでにメジャーデビューし、月一ですが東京でライブするなど、同じアイドルとしてはうかうかしていられない状況だったよう。
その「めいぷる♡どーる」もアイドルフェスに参加するのですが、彼女たちはトリですし、メジャーデビューしている分ファンも多く、「ChamJam」は足元にも及ばない状況。
それをあらためて痛感したメンバーたちは、今まで以上にレッスンに力を入れていきます。その彼女たちの変化に、当然えりぴよたちファンも気づき、頑張る彼女たちの姿に喜びを感じている様子。ずっと見続けてきた子たちの成長というのは、何よりも嬉しいものです。
そんななか、えりぴよたちにとっての大事件が起きます。地下アイドルファンや、マイナーアイドルファンなら、みんな1度は望んだことなのではないでしょうか。果たして「ChamJam」に何が起きたのか……。
ちなみに、その出来事を目の当たりにしたえりぴよは狂喜乱舞です。もはや彼女が舞菜に興奮していない姿を見るほうが不安になります。今までマイナーアイドルを好きになったことのない人は、ぜひえりぴよと喜びを分かち合ってください。
ただ4巻では、いつもみたいにヤバいえりぴよだけでなく、彼女が冷静に舞菜を想っている姿も見ることができます。フェスで他のアイドルたちを見ながら言ったえりぴよの言葉は必見です。
2020年1月9日からTVアニメ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』の放送がスタートしました。見逃した……という人も、まだ希望を捨てないでください。第一話は、こちらから無料でみることが可能です。
原作に忠実で、ChamJamは可愛く、えりぴよたちのギャグもそのまま再現されています。またエンディングで流れる『♡桃色片思い♡』(歌:えりぴよ)も話題になり、放送後には「桃色片思い」がTwitterトレンドに上がるほど。MVもとってもかわいいので、ぜひチェックしてみてください。
詳細が気になる方は、TVアニメ「推しが武道館いってくれたら死ぬ」公式ホームページや、TVアニメ「推しが武道館いってくれたら死ぬ」公式Twitterがおすすめです。
読んでいたらいつの間にか「ChamJam」ファンになり、誰かを推してしまっている『推しが武道館いってくれたら死ぬ』。かわいい女の子が魅力なのはもちろんですが、ファンとアイドル間の絆も見所です。