日本でその姿を見ることができる場所は限られていますが、実は太古から人々と密接に関わってきたラクダ。この記事では彼らが生きるために身につけてきた不思議な生態をご紹介していきます。
哺乳類ウシ目(偶蹄目)ラクダ科ラクダ属に分類される生物で、「ヒトコブラクダ」と「フタコブラクダ」の2種がいます。どちらも乾燥地帯に適した生態をしていて、食性は草食。草や高所の葉、口内にある乳頭という突起を使い棘のあるサボテンも食べることができます。
背中のこぶが1つの「ヒトコブラクダ」は、平均体長が300cmほどで尾長が約50cm。体重は360kg~690kgほど。アフリカの北部からアジア西部、オーストラリアにも生息していますが野生のものは絶滅しており、現存するものはすべて家畜として繁殖されたものだけです。
ただオーストラリアでは、家畜化されたものが逃亡したり捨てられたりして野生化し、その数が10万頭を超えるまで増加。「野良ヒトコブラクダ」として社会問題になっています。
背中のこぶが2つの「フタコブラクダ」も、体長や尾長の長さ、体重などはヒトコブとほぼ同じです。
生息位は中国西部とモンゴルですが、2018年現在は野生のものは1000頭ほどしか存在しておらず、大半が家畜化されています。そのため野生のものは絶滅危惧種に指定されており、家畜とは別の亜種として扱うべきだという意見も出ているのが現状です。
野生下では、雄を中心とする家族単位の群れで行動します。夏は体毛がほとんど抜け落ちた姿で涼しい山地へ移動、冬になるとたっぷりとした長い毛で体を覆い、砂漠に戻ってくるという暮らしをしています。
ここからは、砂漠に住む人々とともに暮らしてきたラクダの、過酷な環境を生き抜いていくための生態を詳しくお伝えしていきましょう。
砂漠に暮らす人々の、行商や交通の手段として役立ってきたラクダ。なんと「旧約聖書」にも、人間と密接な関係を持つ動物として登場します。また紀元前1000年より家畜化されていたという研究結果も報告されているのです。
大昔から現代にいたるまで、人間の生活において重要な役割を果たしてきた背景には、彼らが砂漠に適応した奇特な生態をもっていることが挙げられるでしょう。
まず特徴的なのが、長いまつげです。砂漠の細かい砂が目に入らないよう保護しています。また瞼の内側に「瞬膜」という半透明の膜をもっていて、ワイパーのように動かすことで異物が入った際にかき出すことができるのです。
また鼻の穴を閉じることも可能。これは砂漠の砂が入らないようにするほか、呼吸をすることで鼻から外に出る水蒸気の量を抑え、体内に水分を保つ役割も果たしています。
足の幅が広く蹄が小さいため、砂に足を取られることなく、100kgを超える重い荷物を背負うことができるのも特徴。常に時速5km程度の速度で安定して歩き続けられるうえ、意外なことに短い距離であれば時速40~60kmで走ることもできるのです。
背中のこぶの中には良質な脂肪が蓄えられており、食糧がない時にはこの脂肪をエネルギーに変換して使うことができます。そのため彼らは、草が1本も生えていない過酷な砂漠でも、1週間程度であれば飲まず食わずで進み続けることができるのです。
また断熱材の役割も持っていて、上から照り付ける太陽の熱を体に通しにくくしています。さらに、こぶにのみ脂肪を溜めることで、体の他の部分からは、体内の熱を放出しやすくしているのです。
ちなみに長期間食事をとらない状態が続くと、背中のこぶは小さくなっていきます。
数日間は水を飲まずに生きることができるラクダですが、その代わり摂取する際は大量に飲みます。1度に平均80リットル、最高で136リットルもの水を飲むことが可能です。
補給した水分は血液中に貯蔵されます。通常はこれだけ大量の水を飲むと、血液中の浸透圧によって赤血球が破裂してしまいますが、彼らは血液中の水分量が変化しても問題ない性質をもっているのです。
また体内の水分量が減ると、胃の大きさを小さくして食事量を減らし、排泄も乾燥した糞や、高濃度で少量の尿しか出しません。体内から出ていく水分量をセーブして、コントロールしています。
まさに砂漠で生きるのに特化した生態だといえるでしょう。
極力体内の水分を減らさないように、汗はほとんどかきません。また犬や猫の「パンティング」のように、舌を出して熱を逃す仕草もみせません。
実はラクダの体温は、34~40℃ほどと、かなりの幅で調節が可能。水を補給しづらい環境の時は、体温を敢えてあげることで、体内の水分を逃さないようにしています。これだけ体温が変動しても、脳内の温度が一定に保たれているのも特徴です。
これは彼らの長い鼻の働きに関係しています。砂漠の乾燥した空気を吸い込むことで鼻孔の粘膜に含まれる水分が蒸発し、その時の気化熱で鼻の中の温度が下がります。すると鼻の横をとおっている血液も一緒に冷やされ、この冷えた血液が頭部へと循環するので、脳内の温度を一定に保つことができるのです。
体温が大きく変動しても、脳内の温度を一定に保つことができれば、意識を失うことはありません。鼻孔の面積が広ければ広いほど、冷やされる血液の量も増えるので、鼻の長い彼らは暑い砂漠を生きるのに適しているといえるでしょう。
- 著者
- マーグリート ルアーズ
- 出版日
僻地に本を届ける移動図書館に興味を持った著者が、フィンランドからジンバブエまで、さまざまな地域で活動する移動図書館についてまとめた作品です。
本書で紹介されているのは、スタンダードなトラックや船、手押し車、ラクダ、象と多種多様。本が到着するのを待っている子どもたちの国籍や年齢もさまざまです。
ただ共通しているのは、みな一様に移動図書館の到着を待ちわびていることでしょう。一心不乱に本を読む彼らの写真を見ると、教育レベルの程度は関係なく、本を読むという行為自体がいかに人間にとって幸せな時間をもたらしているものなのかということがわかります。
乾燥地帯で暮らしている人にとっては、ラクダが重要な役割を担っていることもわかるでしょう。めぐまれた日本の環境と比較して、あらためて本を手に取ることができる贅沢さと喜びを感じられる一冊です。
- 著者
- 片平 孝
- 出版日
- 2017-05-17
サハラ砂漠に魅せられた写真家の片平孝が、ラクダのキャラバン「アザライ」との42日間におよぶ過酷な旅路を手記にまとめました。
サハラ砂漠の岩塩鉱山タウデニから、交易都市のトンブクトゥまで塩を運ぶ旅路は、21世紀にこの方法で!?と思うようなラクダ頼りの移動。遭難した行商人とラクダの死体を傍目に進む、危険なものです。また敵対する民族もいて、自然だけでなく人間に対しての警戒も緩めることができません。
ラクダにとっても、120kgもの塩の塊を背負って歩くのは過酷なもの。荷物で皮がこすれて骨がむき出しになっている写真も見受けられました。
生きるために、極限の状態で塩を運ぶ人間とラクダ。命がけでリアルな旅路を美しい写真とともに追体験してみてください。
モンゴルにわずかに生息する純粋な野生種のラクダは、なんと近隣の核実験施設でおこなわれた大気圏内核実験をも物ともせず生き抜いており、彼らの生命力の強さがうかがえます。そんな不思議な生態をより深く知りたいと思った方は、ご紹介した2冊をぜひお手に取ってみてください。