岩に張り付いていたり海中に漂っていたりするだけで、無害な印象があるイソギンチャクですが、実は4マイクログラムで人を殺せるほどの猛毒をもった種類もいるんです。この記事では、奇妙な生態をもった彼らの特徴や種類、毒性、カクレクマノミとの共生関係、飼育方法などをわかりやすく解説していきます。あわせて美しい写真が見れるおすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。
刺胞動物門花虫網に分類される無脊椎動物です。刺胞動物門とは、「刺胞」というカプセル状の器官を持つ生物のグループで、イソギンチャクは触手の表面に0.01mm~0.1mmほどの刺胞が無数にあり、その中に毒液と刺糸と呼ばれる針のようなものが入っているのです。
刺胞の一部が外部から刺激を受けると、刺糸が発射されて毒液が相手に注入される仕組み。毒の強さは相手の動きを止める程度のものから、青酸カリの8000倍といわれるほど強い神経毒まで多岐にわたります。
周囲のマグネシウムの濃度が海水よりも低くなった際に、外敵が近付いていると判断して刺糸を発射することがわかっているのですが、なんとこのメカニズムは愛媛県に住む当時女子高生だった2人が解明し、大きな話題となりました。
またイソギンチャクは、まるで植物のように同じところに留まっている印象がありますが、実は触手を使って泳いだり、足場となる岩を伝ったりすることも多々あります。長い距離を移動する個体も珍しくありません。他のイソギンチャクが近付いてくると、体当たりをして縄張り争いをする種もいるそうです。
繁殖の方法も変わっています。多くはメスが口から放出した卵子に、オスが精子をふりかけて受精させるもの。ただなかには、雌雄の区別がなく、体を分裂させて千切れた触手が別の個体として再生するなど、奇妙な増え方をする種もいます。
全世界で800種が生息しているといわれているイソギンチャク。ここでは、日本近海に生息しているもののなかから、特徴的なものをご紹介していきましょう。
ウメボシイソギンチャク
本州から九州にかけて生息しています。干潮時に体が縮こまって梅干しのような見た目になることから、名付けられました。
胃の中で小さな肉片を育て、やがて口から吐き出しされた肉片がクローンのように成長することで繁殖します。
ミドリイソギンチャク
北海道南西から九州にかけての広い範囲に生息しています。桜色の美しい触手をもっているのが特徴で、卵を産むことで繁殖します。
サンゴイソギンチャク
本州中部から九州に生息しています。直径は20cmほどと大きめ。体内に藻を持っており、光合成をすることで養分を得て成長します。
グビジンイソギンチャク
本州中部以南に生息しています。直径は15cmほど。触手がとても短いためイソギンチャクには見えず、苔のような外見をしています。
コモチイソギンチャク
北海道から本州中部に生息しています。胃の中の小さな肉片を分裂させて個体を増やすのが特徴。産後しばらくは、産まれた子どもを自分の体にくっつけて育てる姿が見られます。
ミナミウメボシイソギンチャク
房総半島以南に生息しています。体が下から上に裂けていき、分裂することで繁殖します。
オヨギイソギンチャク
本州中部以南に生息しています。直径は2.5cmほどとかなり小型。触手を動かし、泳いで移動することが名前の由来です。体を縮めると触手が千切れることがあり、切れた触手が新しい個体として再生することで繁殖します。
イソギンチャクの触手の間に隠れる姿が名前の由来にもなっている「カクレクマノミ」。なぜ彼らは、毒のある触手の中に棲むことができるのでしょうか。
実は、カクレクマノミの体は海水よりもマグネシウムの濃度が高い粘液で覆われているため、イソギンチャクの毒針が反応しないのです。そのため常に近くで暮らし、外敵が来たら触手の間に逃げ込むことで身を守っています。
たいていの魚は、毒針を恐れて必要以上に彼らに近づくことはしません。ただなかにはチョウチョウウオのようにイソギンチャクの触手を啄ばむ魚も存在します。カクレクマノミはこのような外敵を追い払ってくれるので、双方にメリットのある共生なのです。
またイソギンチャクは、触手の中に褐虫草という微生物を棲まわせていて、彼らが光合成をすることで排出される酸素や糖、デンプンなどの養分を吸収しています。カクレクマノミが外敵から守ってくれるおかげで、触手を大きく広げて褐虫草の光合成を促すことができるのです。
イソギンチャクは洗面器でも飼うことができるほど生命力が強い生物です。ただ水替えの手間や観察のしやすさなどを考えると、水槽で飼育することをおすすめします。
水槽の中には、砂や砂利を3cmほど敷き、イソギンチャクが張り付けるように大きめの石もいくつか入れましょう。
水は海水を汲むのが望ましいですが、市販されている海水の素で作った飼育水でも問題はありません。ずっと水中に浸かっている状態にしておくと寿命が短くなるため、時々水を抜き、引き潮の状態をつくってあげることが大切です。その際は、あらかじめ基準となる水位を測っておくようにしましょう。
餌は、アサリや魚肉、エビのむき身など動物性のものを細かく切り、ピンセットで触手に乗せてあげます。頻度は3日に1回で十分。食べない場合はやさしく水をかき混ぜ、刺激を与えるとよいでしょう。食べ残しは水の汚濁に繋がるので、なるべく早く取り除いてください。
水替えは2週間に1回、水槽内の半分だけを入れ替えます。冬は日向、夏は風通しがよく直射日光が当たらない場所に置いてあげてください。
- 著者
- 楚山 いさむ
- 出版日
- 2013-03-09
潮だまりで見ることができる代表的なイソギンチャクを、写真とともに紹介していく絵本です。掲載されている写真がとにかくかわらしいのが特徴。特にキンチャクガニが身を守るために、カニハサミイソギンチャクをポンポンのように抱えている一枚は必見です。
また口から自分のクローンである幼体を吐き出している瞬間をとらえたものや、実は口が排泄孔の役割ももっているという解説は、子どもの心をつかむこと間違いなし。
写真だけでなく生態についての説明もしっかり載っているので、彼らを知る入門書としてもおすすめの一冊です。
- 著者
- ["内田 紘臣", "楚山 勇"]
- 出版日
- 2001-07-01
日本近海で見られるイソギンチャク類と、近種にあたるホネナシサンゴ類、スナギンチャク類、ハナギンチャク類を取り上げた図鑑です。
もっとも原始的な種と考えられているムカシイソギンチャクは、縦ではなく横に裂けて分裂をしていることや、足盤筋が無いために簡単に岩から剥がせることなどが説明されているコラムも充実。
英語では「Sea anemone(海のアネモネ)」、ドイツ語では「Seerose(海のバラ)」と花のような姿をもつものだと捉えられていますが、その名前に納得できる美しくて幻想的な写真が多々掲載されていて、他に類を見ない濃密な内容になっています。
巻末には種類別の採集方法や飼育方法、標本の作り方まで載っているので、ペットとして飼育を考えている人にもおすすめの一冊です。
これをすべて同じ種に分類するの?というほど多様な生態を持つイソギンチャク。興味をもった方は、ぜひおすすめした本をお手に取ってみてください。