炭素繊維として知られるカーボンファイバーから、さらに進化した注目の新素材「カーボンナノチューブ」。この記事では、日本人研究者によって発見された素材の驚くべき特徴、欠点、用途、作り方などをわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本もご紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
6個の炭素原子でできた小さな六角形がハチの巣状に並んだ「グラフェン」と呼ばれるシートが、丸まって管の形になったものです。管の太さは、0.4~50nm(ナノメートル)。1nmは100万分の1mmで、電子顕微鏡でようやく見えるくらいの細さになっています。
文字どおり、炭素=「カーボン」が、「ナノ」メートル単位の細かさで、管=「チューブ」になっている、というのが名前の由来です。
カーボンナノチューブに関する研究は、1952年に旧ソビエト連邦で始まっていたといわれています。しかし、当時は冷戦中ということもあり、詳しい研究はおこなわれませんでした。
その後1976年に、物理学者の遠藤守信によって再びその存在が示されました。この時は、カーボンナノチューブを「どのように作るか」に焦点が当てられていて、構造などの探求はされていませんでしたが、後の量産化への礎になっています。
そして1991年、物理学者で化学者でもある飯島澄男によって構造が明らかになると、実用化に向けて一気に走りはじめ、いまや日本を代表する材料として注目を浴びる存在になりました。
カーボンナノチューブには、いくつかの種類があります。
ハチの巣状のシート1枚で管ができています。
シートが幾重にも重なっていて、輪切りにするとバウムクーヘンのように見えます。特に二重層のものは、「ダブルウォールナノチューブ」と呼ばれています。
カーボンナノチューブには優れた特徴がたくさんあります。
アルミニウムで同じ形状のものを作った場合と比べると、重さは約半分くらいになるといいます。しかしその固さは、同じ炭素でできたダイヤモンドにも負けないほど。しかも引っ張ってもちぎれずに伸びて、放すと元に戻る柔らかさも兼ね備えているのです。
電気配線などで使われる導線は、電気を通しやすい銅で作られることが多いのですが、たくさん電気を流すと発熱して切れてしまうことがあります。しかしカーボンナノチューブは、同量の電気を流してもビクともしません。抵抗が少なく、電気が通りやすいからです。
銅と比べると約10倍も熱が伝わりやすいといわれています。また、熱くなっても溶けたり燃えたりしにくい丈夫さもあります。空気中では750℃、真空中では2000℃以上になっても耐えられるそうです。
このような特徴を生かして、カーボンナノチューブは、コンピュータなどに用いられる集積回路への応用や、宇宙のような過酷な環境での利用が期待されています。特に「宇宙エレベーター」という画期的な乗り物では、カーボンナノチューブで作ったケーブルを地上と宇宙の間に張って昇り降りすることが考えられています。
優れた特徴がたくさんあるカーボンナノチューブですが、大きな欠点があります。
みなさんは「アスベスト」という材料を聞いたことがあるでしょうか。「石綿」とも呼ばれる繊維状の構造を持つ鉱石で、安価なうえ、防火・防音・断熱性に優れていたため、かつては建物の柱や天井などに吹き付けられていました。
しかし空中に飛び散った繊維を大量に吸い込むと、肺がんや中皮腫を引き起こす危険性が高まることがわかり、現在は使用が禁止されています。
実は、カーボンナノチューブにも同様の危険性があることがわかったのです。
ただ広く普及する前にその事実がわかったため、直接触れないようにするなど、適切に利用すれば健康被害を抑えられると考えられています。もちろん危険性を抑える研究も進んでいます。
またカーボンナノチューブは、他の素材と比べて価格が高めです。2017年頃は、単層のもので1kg当たり100万円。性能を引き出すためには、不純物を取り除かなければならないほか、量産する技術が途上で多額のコストがかかることが要因です。
今後は技術開発が進み、2020年頃には1kg当たり3万円、2030年には数千円になると見込まれています。
主に3つの作り方があります。
黒鉛でできた2つの電極に高い電圧をかけて、放電を発生させることで作り出す方法です。放電による化学反応を促すために、触媒とよばれる物質をうまく混ぜることで高純度のカーボンナノチューブを生成できますが、大量生産には向いていません。
アーク放電と同じく、触媒をまぜた黒鉛にレーザー光線を当てることで、炭素を蒸発させて作り出す方法です。管の太さを調整できることが大きな特徴ですが、やはり大量生産に向いていません。
高温に熱した触媒に、炭化水素ガスを吹き付けて作り出す方法です。高純度で大量に作り出すことができるため、もっとも実用性の高い方法として研究が進められています。
- 著者
- 齋藤 理一郎
- 出版日
- 2015-01-23
本書は、カーボンナノチューブをはじめとする炭素を用いた素材の原理や最先端の応用技術などを解説する専門書です。
前半は、一般の読者でもわかるように数式や難しい専門用語を使っていないため、高校生など物理や化学の初学者にとっては手に取りやすい一冊でしょう。
著者が本書に込めているメッセージは、日本の将来を切り拓いていく若い研究者に勇気を与えるものとなっています。
- 著者
- 出版日
- 2015-08-26
本書は、カーボンナノチューブに次ぐ新しい素材として注目の「ナノセルロース」について解説する専門書です。
日本における研究開発の歴史や、製法から利用法に至るまでの最先端の知見が、余すところなく盛り込まれています。
向学心にあふれるみなさんにとって読みごたえのある一冊です。