沖縄にいるハブの天敵として有名なマングース。しかし実際には捕食関係にないそうです。イメージばかりが先行しているその経緯はどのようなものなのでしょうか。この記事では、彼らの生態や導入された歴史などをわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
哺乳綱ネコ目マングース科に属する動物で、ミーアキャットやイタチなどの仲間です。もともと日本には生息しておらず、東南アジアや中央アジア一帯、アフリカ大陸など温暖な地域に分布していました。森林や草原、砂漠、都市部など多様な場所で暮らすことができますが、水が苦手なので水辺には近寄りません。
大きさは種によって異なりますが、全長は20~60cm程度、体重は0.3~5kgと比較的軽量です。いずれの種も胴体が長く、手足が短いのが特徴です。
昼行性の雑食で、種によって単独で行動するもの、群れで生息するものがいます。野生での寿命は4年前後で、飼育下ではより長生きし、20年以上生きた個体もいるようです。
他の動物に見られない珍しい生態として、群れで生息するシママングースの子どもは、父親以外のオスの成体に弟子入りをし、見様見真似でエサの取り方や食べ方を学びます。これは子どもの生存率が低いため、母親が出産後すぐに子作りに取りかかるためです。
もともと日本には生息していなかったマングース。沖縄で姿を見るようになったのは、1910年以降です。ハブやネズミを駆除するために、人間の手によって海外から持ち込まれました。
当時の沖縄県では、ネズミによるサトウキビの食害が問題視されていました。そしてネズミを追ってハブも畑に侵入してくるようになったのです。多くの島民がハブに咬まれ、亡くなってしまう事件も発生しました。
このような状況を改善するため、ハブを駆除する網的としてフィリマングースを沖縄県に持ち込むことが提言され、天敵を用いて害獣を減らす「生物的防除」が推進されていきました。フィリマングースはもともとコブラの天敵として知られていて、このことからハブを捕食することが期待されていたのです。
1910年に20頭前後のフィリマングースが沖縄本島へ持ち込まれ、1979年には奄美大島にも導入されました。
害獣駆除を期待されて日本に持ち込まれたフィリマングースですが、結果としてハブの駆除はうまくいかず、また多くの問題を生み出すきっかけとなってしまいます。
1980年代に実施された追跡調査の結果、実際にはハブをほとんど捕食しておらず、ヤンバルクイナなど沖縄固有の希少種を食い荒らしていたことが明らかとなりました。
そもそもフィリマングースは昼行性でハブは夜行性であること、コブラよりも攻撃性の高いハブはフィリマングースにとっても危険な相手だったことなどが理由として挙げられます。
結果的に彼らはハブを捕食することはせず、より安全に捕食できるヤンバルクイナなどを狙うようになりました。フィリマングースはハブの天敵とはならなかったのです。
こうして当初の導入目的は失敗に終わります。それどころか近年では、希少種を食い荒らすために「特定外来生物」に指定され、益獣から一転して害獣と見なされるようになってしまいました。環境省の主導で駆除作業が進められていますが、フィリマングースにとっては人間の都合で振り回されたわけで、いい迷惑でしょう。
ちなみにかつては、沖縄県各地で「ハブ対マングース」の見世物がおこなわれていました。しかし動物愛護の観点から批判が高まり、2000年を最後に中止となっています。
原産地ではコブラを捕食しているため、マングースはヘビ毒に耐性があると考えられてきました。ただ実際には耐性があるわけではありません。
コブラは比較的動きが緩慢で攻撃性も低いため、俊敏なマングースは咬まれることなく捕食することができただけのようです。
その一方でハブは攻撃的で動作も素早く、咬みつかれてしまえば成す術がありません。そのため、上述したように沖縄に導入された際はほかの動物を捕食するようになってしまいました。
- 著者
- 五箇 公一
- 出版日
- 2017-07-11
人間の暮らしに役立てようと持ち込まれた外来種が問題となる事例は、枚挙にいとまがありません。本書では、代表的な外来種問題を取りあげ、その概要と実施されている対応策を紹介しています。
マングースをはじめとする全8種について写真を豊富に用いながら解説するとともに、筆者はくり返し、外来種がもたらす影響は予測しがたいため、人間がコントロールすることは難しいと指摘しています。
それぞれの外来種が持ち込まれた経緯を学び、問題に対して理解を深めることができる1冊です。
- 著者
- ケン トムソン
- 出版日
- 2017-03-03
外来種は在来種の生態を破壊する「悪しき存在」と考えられています。しかし、果たして本当にそうなのでしょうか。本書では、従来とは異なる観点から外来種問題についてアプローチをしています。
筆者は、そもそも在来種と外来種を区別するものは何か、本当に外来種が生態系を破壊する主要因といえるのか、豊富な文献とデータを踏まえて検証しています。
単に「外来種=悪でない」と結論を出すのではなく、在来種と外来種にまつわる問題をさまざまな視点から考えられる1冊です。