「人を見た目で判断してはいけない」という言葉がありますが、どうやらそれは人間に限ったことではないようです。少し見た目が滑稽でも大変優れた才能を持っている動物、ハダカデバネズミ。彼らの不思議な生態を、関連書籍とともに解説していきましょう。
まさに名前のとおりの見た目をした、ハダカデバネズミ。非常い細かい体毛しか生えていないためまるで裸のように見え、顎につくほど長い前歯が2本飛び出ています。
唯一無二と思われるのは見た目だけでなく分類も同様で、本種のみでハダカデバネズミ属を構成。デバネズミ科に属する齧歯類のなかでも、独自の生態系を築きあげているのです。
アフリカのサハラ砂漠より南に分布し、穴掘りが得意。普段は長い前歯を使って地下にトンネルを掘って過ごしています。
一生の大半を地下で過ごすため、視力はほとんどなく、その分嗅覚や聴覚が発達しています。体長は10〜13cm。体重は9gほどです。
ここまで知ると、「適材適所のバランスでこんな見た目になったのか」とも考えられますが、穴掘りをするにも関わらず手足は短く、胴体も円筒形で、お世辞にもスタイリッシュとはいえないのが滑稽なところです。
ただ生きる能力は大変優れていて、寿命は通常のネズミのなんと10倍以上。理化学研究所には37年生きているハダカデバネズミが存在しています。
外見の滑稽さから、ユニークな生活スタイルを構築しているのではないかと想像できますが、実は彼らの社会は規律正しく、厳しいカースト制度が強いられているのです。
ハダカデバネズミはコロニーを作り、群れで暮らしています。もちろん穴の中とはいえ安全とは限りません。天敵のヘビがいたり、自然の状況によっては巣が壊れてしまうこともあるでしょう。のんびりしていられないため、それぞれの役割と階級が設けられているのです。
まず、コロニーの頂点に君臨しているのが、女王です。女王だけが子供を産むことができるので、群れは必死に彼女を守ろうとし、側近として繁殖の役割をもったオスが2〜3匹女王の周りにつき従います。
また美学さえも感じる役割を与えられているのが、兵隊係。天敵のヘビが侵入してきた際は自ら捕食され、ヘビの腹を満たすことによって退散させるという役割を担っています。
その他の個体は、穴掘りや巣の中の掃除、餌を集るなどの雑用係として働いています。
珍しいのは、ふとん係でしょう。生まれたばかりの子供の体温を冷やさないために、大きな大人のハダカデバネズミがふとん係となって子守りをするのです。
このように役割分担と階級性を持つ動物のことを「真社会性動物」と呼びます。
ハダカデバネズミが研究者たちから大きな関心を寄せられているもっとも大きな理由として、その寿命の長さが挙げられます。30年という寿命は通常のネズミの10倍以上で、小さな身体にもかかわらず犬や猫よりも長生き。このメカニズムが解明されれば、医療分野に大きな革命をもたらすことになるかもしれないのです。
また彼らは長生きするだけでなく、なんと生きている間はほとんど老化もしないということがわかっています。
若さを保ち、長生きできる理由。それは、病気にかからないからです。実は長年研究対象となっているハダカデバネズミですが、癌を発症した例がありません。癌は細胞の増殖が止められず、最終的にそれが腫瘍となって身体を蝕んでいく病気です。彼らの体は、その増殖をストップさせるタンパク質の作用がとても強いと考えられています。
ハダカデバネズミの寿命に関する研究は、2018年現在も進行形で続けられています。
重要な研究対象にもなっているハダカデバネズミですが、ペットとして飼育することはできるのでしょうか。
結論からいうと、可能です。ただし取引されている値段は約30万円以上からで、一般的な犬や猫よりも高値となっています。
老化もせず、病気もしないので、飼育はしやすいといえるでしょう。餌も野菜を与えておけば大丈夫です。ケージ、エアコン、赤外線ライトなどの環境設備を整えれば、手はかかりません。
ただ寿命が30年ほどと長いので、それだけの期間きちんと責任を持って世話をする覚悟が必要です。
- 著者
- ["吉田 重人", "岡ノ谷 一夫"]
- 出版日
- 2008-11-06
老化をせずに寿命が長い一方で、滑稽な外見とやや酷いネーミング。本書には、一長一短、何かが優れていれば何かに劣っているそんな哀愁を感じさせてくれるハダカデバネズミの専門書です。
イラストを交えて、コミカルに、そしてキュートに解説がされています。読後はすっかり不思議な彼らの虜になってしまうでしょう。
- 著者
- 早川 いくを
- 出版日
- 2015-08-03
ベストセラー『へんないきもの』を手掛けた作者の一冊。ハダカデバネズミをはじめ、見たことのない不思議な生物たちの写真と生態が大きくカラーで載っています。特に写真は絶妙な表情をとらえたものばかりで、パラパラと眺めているだけでも楽しめるでしょう。
さまざまな生物の個性的な生き方を知っていくと、そうならざるをえない事情や、仰天の知恵などの背景が見えてきます。普段見慣れている生物たちの生態も、あらためて見直したくなる作品です。
「変」という見方は、もしかすると人間のおごりかもしれません。ハダカデバネズミは自分たちが変だとは思っていないはずで、それぞれの場所と、与えられた才能で、一生懸命生きているのです。興味をもった方はぜひご紹介した2冊をお手に取ってみてください。