私たちを魅了してやまないタイムトラベルの実現方法として注目されている「ワームホール」。この記事では、一体どんなものなのか、実在するのか、NASAの公式見解などを解説していきます。宇宙への関心が深まる関連本もご紹介するので、ぜひご覧ください。
「ワームホール」は「ブラックホール」と「ホワイトホール」を繋げている時空のトンネルで、くぐると瞬時に別の場所へ移動できるといわれているものです。
その語源は「リンゴの虫食い穴」に由来し、虫がリンゴの表面をたどって移動するよりも穴を掘って進んだ方が近いという意味があります。1957年にアメリカの物理学者ジョン・アーチボルト・ホイーラーによって命名されました。
でははたして、本当にこのようなものが実在するのでしょうか。
ブラックホールは、その存在可能性が高い天体として有名です。アインシュタインの相対性理論でも示されていますが、光をも吸い込んでしまうため直接見つけることは難しいといわれています。しかしX線による観測で、ブラックホールがあるとみられる場所が間接的に発見されているのです。
一方のホワイトホールは、ブラックホールとは反対にさまざまな物質を跳ね返してしまう性質があると考えられています。理論的には、時間の流れる向きを逆にすることができれば存在するものの、これまでに観測された例はありません。
これらがつながるとワームホールができそうですが、ホワイトホールは存在しても「計算上とても不安定な状態」とされていて、ブラックホールと結びつくとすぐに消滅してしまうそうです。
実はワームホールは、アメリカの天文学者でSF作家でもあるカール・セーガンが、小説『コンタクト』を執筆中に、地球外生命体と出会うために科学的に矛盾しない方法で空間を移動する手段はないかと考えたことがきっかけで生まれたといわれています。
その時セーガンが相談した相手がアメリカの理論物理学者のキップ・ソーンで、彼は重力波の研究でノーベル賞を受賞した人物です。
キップ・ソーンによると、あくまでも理論上ですが、ワームホールは存在できるそう。入口から出口まで瞬時に移動することができ、ホール中では時間は進まないといいます。
イギリスの作家H・G・ウェルズのSF小説『タイム・マシン』には、未来の世界を旅する科学者が登場します。また映画『バックトゥザフューチャー』では、主人公が30年前にタイプスリップしました。
このように、過去や未来に旅行する「タイムトラベル」は、実現できるのでしょうか。
先述した相対性理論によると、物体が動くと周りの時間の流れが遅くなります。もし光の速さで移動することができれば、その間に出発点の時間は先に進むので、しばらくして帰ってきた場合そこは未来の世界になっています。
では、過去へのタイムトラベルについてはどうでしょうか。
ワームホールの口にあたる2つの場所を、それぞれ(A)/(B)とします。ここで(B)が光速に近い速さで(A)に近づいてきたとすると、(B)では時間の進み方が遅くなり(A)より古い時刻を指すことになります。たとえば(A)では2018年になっているのに、(B)ではまだ2017年という感じです。
さて、この状態で(A)を出発した宇宙船が、10分後にたまたまとおりかかった(B)からワームホールに入ったとしましょう。すると、あっという間に(B)から(A)へ移動できます。また、ワームホールの中では時間が進まないので、(A)に出るとそこは(B)と同じ2017年なのです。なんとも不思議ですが、理論は矛盾していません。
このように、未来へのタイムトラベルは相対性理論だけで説明ができます。過去については理論上はありうるとしても、実現することは現状では難しそうです。
2012年にアメリカ航空宇宙局(NASA)が「Hidden Portals in Earth's Magnetic Field(地球の磁場に隠されたポータル)」と題した発表をおこないました。
これによると、人工衛星による観測で太陽の磁場と地球の磁場をつなぐ「Xポイント」と呼ばれる場所を発見したとのこと。ここを通過する高エネルギー粒子によって、磁気嵐やオーロラが発生しているのではないかというのです。
そして「Xポイント」は、ワームホールの一種であるといわれています。物質が空間を瞬時に移動できる可能性が高いとのことで、現在も研究が進められています。
先述した理論物理学者キップ・ソーンによると、「負のエネルギーを持つ物質」が存在すれば、人間もとおることができる大きさのワームホールが理論上はできるといいます。
しかし「正のエネルギーを持つ物質」が通過した瞬間、ワームホールは消滅してしまうことも計算で示されているため、もし瞬間移動ができたとしても帰ってくることができないのです。
また、そもそも負のエネルギーを大量に作り出すことは技術的に困難なうえ、ワームホールの出口がどこにあり、何を使ってどのように通過するのかなど、実用化に必要な内容はほとんど研究されていません。
- 著者
- スチュアート・クラーク
- 出版日
- 2014-03-31
本書は、宇宙に関するさまざまな疑問に各分野の専門家が答えていくスタイルの作品。身近なことから宇宙の果てまで、過去と未来を行き来しながら多様な視点で謎に迫ります。各ジャンルが網羅されているので、宇宙に関する大まかな知識を得たい人にはぴったりの一冊でしょう。
わかっていることを解説しているだけでなく、いまだ専門家でもわからないことがあることを知れるのが特徴です。
科学技術の限界や可能性を感じながら、宇宙とどう向き合えばよいか考えさせられるでしょう。
- 著者
- 二間瀬敏史
- 出版日
- 2012-01-14
本書は、「時間」を切り口にして相対性理論や宇宙論など宇宙に関する理論、ビッグバンやインフレーションなどの現象をわかりやすく解説してくれている作品です。
難しい数式は使用せず、図形を使って文系の人にも理解できるようまとめられているのが特徴。タイムマシンなど夢とロマンに溢れる話題も豊富で、「時間」の不思議を満喫できるでしょう。
まだ可能性しか語ることができないワームホールやタイムトラベル。もしかしたらまったく違う理論や考え方が研究されることで、見つけ出せるかもしれません。常識を当たりませとせず、想像を膨らませてみるのも面白いですね。