「複数の視点から描かれる物語」をテーマにした、おすすめの5冊

「複数の視点から描かれる物語」をテーマにした、おすすめの5冊

更新:2021.12.11

どうも! WEAVERのドラムの河邉です!  寒い日は部屋で温かいものでも飲みながら、ゆっくり読書したくなりますね。 12月にはWEAVERが企画する対バンライブも控えています。東京、大阪で行われるこのライブは、バンド史上初の試みですので、たくさん人に来てもらえたら嬉しいなと思います。 そんな今月は、「複数の視点から描かれる物語」をテーマに5冊紹介させていただきます。

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群集劇、または1932年の映画『グランド・ホテル』の成功からグランド・ホテル形式とも呼ばれるこの手法によって書かれる小説は、現在でも多くの人を楽しませています。 

今回は短いスパンで次々と視点が変わっていく小説から、一つ一つに長いエピソードがあるものまで紹介していきます。『ドミノ』『デパートへ行こう!』のように、何度も同じ人物に視点が戻ってくるものもあれば、『終末のフール』のように、戻ってはこないが、後々のエピソードとしっかりと影響し合う作品まであります。 

そろそろ年末と呼ばれる時期になってきました。今年最後に読む本は、皆さん何にしますか?  もしどれか一冊でも、紹介した本に興味を持ってもらえたら嬉しいなと思います。

27人と1匹の主人公たち

著者
恩田 陸
出版日
2004-01-01

最初に紹介するのは恩田陸さんの『ドミノ』だ。 

舞台となっているのは東京駅。日々多くの人が往来する、忙しい場所である。人混みの中では忘れてしまいそうになるが、行き交う人々は皆それぞれの人生があり、それぞれの事情を抱えている。 

舞台のオーディションを受ける小学生、過激派のメンバー、警官、初めて東京にやって来た老人など、27人と1匹の主人公たちにスポットライトが当てられ、まったく違う理由でその空間に集まった人々が奇跡のように関係し合い、一つの物語へと繋がっていく。まさに後半の物語の転がり方は、「ドミノ」という名の通り、息つく暇もないほどに目まぐるしく展開していく。 

これだけたくさんの主人公がいるのにも関わらず、一人一人のバックグランドやキャラクターを読者が追いかけられるのは、作者である恩田陸さんの手腕の賜物だろう。 

本の冒頭に、登場人物たちの紹介と本人の一言が添えられているのもユニークだ。さらに、東京駅の簡易的な地図も載せられてあり、イメージを掴むのに役立つ。 もし読んでいる途中で一度頭を整理したくなったら、ここに戻ってきてみるのも良いかもしれない。 

これぞエンターテイメント。必ず読者を楽しくさせてくれる小説だ。

特別な事情を抱えた人々が鉢合わせ

著者
真保 裕一
出版日
2012-08-10

幾つもの名作ミステリー小説を世に送り出す、真保裕一さんによる異色の悲喜劇小説。 

こちらの舞台は老舗の「デパート」である。営業が終了し、本来は警備員以外は誰もいないはずの建物に、特別な事情を抱えた人々が、偶然にも同じ夜に集まってくる。 

こちらは東京駅が舞台の『ドミノ』とは対照的に、登場人物は皆本来その空間にいること自体が不自然な状況である。鉢合わせてしまうだけで大きく物語が動き出すその緊張感が、またこの小説を面白くさせている。 

次々と新しい登場人物が出てくるテンポの早さを残しつつも、一人一人に応援したくなるエピソードの深さがあり、最後には「まさかその人にそんな事情が!」と驚かされることになるだろう。 

『ドミノ』と『デパートへ行こう!』は、どちらも形式としては似ているかもしれないが、空間が広いか狭いか、また場所が明るいのか暗いのか、といった印象の差により、漠然と心に残る景色に違いが出る。両方読んでそれぞれの特徴を比べてみるのも、新しい読書体験になるかもしれない。

あと3年で世界が終わる日常

著者
伊坂 幸太郎
出版日
2009-06-26

初めて読んだ伊坂幸太郎さんの本は、自分が高校生の頃の『ラッシュライフ』だった。視点が切り替わっていく小説を読んだのもそれが初めてで、「こんなに小説って面白いんだ」と気付かせてくれた本の一つである。 

今回紹介する『終末のフール』は、あと3年で世界が終わるという設定の中で描かれた小説である。仙台市北部のある団地が舞台で、8年後に小惑星が落ちてきて地球が終わると発表されてから、5年後の世界だ。 

この舞台設定が実に巧妙でリアリティを感じさせる。地球の滅亡が発表された直後は、略奪や殺人など様々な犯罪行為が横行した。しかし5年たった今、みんなが暗黙の了解のように平和に暮らすことを選び始めた時期の話だ。 

5年前の地獄を見て生き残った人たちの生活は、何をしてもどうせ終わってしまうという虚無感の中に、不思議なほど穏やかな空気が流れている。音の大きな場所から防音室に移動した時に聞こえるような耳鳴りが、常にしているような世界である。そこで生まれる会話、関係性は自然と一つ一つに大きな価値をもたらす。 

もしかすると一年、二年と時が流れると、また犯罪行為が横行するかもしれない。 もしかすると小惑星がぶつかるということさえ、何かの間違いだったかもしれない。 

そんな小説にないことまで考えてしまえる小説に出会えることは、とても幸せなことだと思う。 一度、この小説と共に、他では味わえない世界の終末を体感してみよう。

家に帰る交通手段を失った人々の話

著者
津村 記久子
出版日
2015-09-27

津村記久子さんによる短編集。「職場の作法」「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」そして「とにかくうちに帰ります」が収録されてる。 今回のテーマに沿った、複数の視点から物語が描かれているのは表題作である「とにかくうちに帰ります」だ。 

豪雨により会社から家に帰る交通手段を失った人々の話である。バス運休の張り紙を見て落胆する人。家に帰るには、大雨の中、埋立洲から徒歩で橋を渡らなければならない。 

待った方がいいのか、それとも急いだ方がいいのか、正解のわからなくなる緊急事態には、日常では生まれない連帯感を人々にもたらす。寒い豪雨を歩いていく中でも、登場人物たちの人間らしい仕草や心理に、読者は微かな温もりを見つけることができるだろう。 

また、西加奈子さんによる解説も付いてあり、最後まで楽しく読める。 思いどおりにいかない、いいことばかりではない世界の中で、それでも明日も暮らしていこうと思えるような小説だ。

卒業から10年が経った高校の同級生たち

著者
辻村 深月
出版日
2011-06-10

以前も紹介した、『鍵のない夢を見る』の著者でもある辻村深月さんの小説。辻村さんの書く女性の心理は本気で生々しい。ここまで書くかというほど、人間の心理の繊細な部分を描き出す。 

この小説に出てくる登場人物たちは全員、東京に隣接するF県にある同じ高校の同級生である。卒業から10年が経ち、当時の出来事をそれぞれの視点で描き出す。 

東京に出てきて仕事を頑張っている者、F県に残り家庭を築いた者。仕事も女優、デザイナー、アナウンサー、銀行員など、当時同じ教室にいた人たちは現在多種多様な暮らしをしている。そんな中での、同窓会によくある確執やマウンティングも描かれているが、それだけの物語ではない。読者の想像し得ない過去の事件が、それぞれの視点から明らかになっていく。 

かなり注意深く読んだ方がいい。それでも恐らく騙され、後半で驚かされてしまう。 二回読んでも面白い、そしてその価値のある小説だ。

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    バンドマンやソロ・アーティスト、民族楽器奏者や音楽雑誌編集者など音楽に関連するひとびとが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、写真集にビジネス書、自然科学書やスピリチュアル本も。幅広い本と出会えます。インタビューも。

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