星座にもなるほど古くから人間の心を捕らえてきた美しい動物「ホッキョクグマ」。現在は地球温暖化の被害を受けている象徴としても知られています。この記事では、彼らの生態や体の特徴、性格、体毛の秘密、天敵などについてわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本もご紹介するので、ぜひご覧ください。
食肉目クマ科に分類される生物で、体長はオスが2~2.5m、メスが1.8~2m。体重はオスが300~800kg、メスが150~300kgで、地上最大の肉食獣だといわれています。
生息地は北極圏のほかカナダ北部、アラスカ、グリーンランド、ノルウェー、ロシア北部など。
体と比べて頭が小さく、長い首をもっていて、泳ぎに適した体型をしています。なんと60km以上の距離を泳ぎ続けることができるほか、陸上でも時速40kmのスピードで走ることができるそうです。
基本的には氷が張っている海の上で暮らしています。主な獲物はアザラシやセイウチ、シロイルカなど。そのほか魚や水鳥なども食べます。海に氷が張っている11月から7月頃までは狩りをしていますが、夏場に氷が溶けはじめると安定した猟場がなくなり、獲物が捕れない状態が続くそうです。
ほぼ絶食状態で再び氷が張る秋を待ち、この期間はエネルギーを節約するために体温を下げ、疑似冬眠とも呼ぶべき状態で過ごします。寒くなったら真っ先に狩りができるよう、1番早く氷が張るポイントを目指して移動をするそうで、いわば寝ながら歩いているような状態です。
野生のホッキョクグマの寿命は25~30年といわれていますが、地球温暖化の影響で海に氷が張る時期が1ヶ月ほど遅くなってきていることから、餓死する個体が増えました。また小熊が母乳を通して汚染物質を摂取してしまい亡くなるケースも増えたことから、2018年現在は絶滅危惧種に指定されています。
単居性で、複数で行動するのは子育て中の母子のみ。子熊は生後1年半~2年半ほど母親とともに過ごし、狩りの仕方などを学んで独立していきます。
ホッキョクグマの母熊はとても愛情深く、自分が飢えている状態でも子熊に母乳を与えます。また外敵から守らなければならないため常に気を張っていて、気性は荒くなっているといえるでしょう。
オスは子育てに参加することはなく、それどころか獲物がとれずに飢えていると子熊を襲って食べることさえあります。
彼らの狩りは、アザラシなどの獲物が息継ぎのために氷の割れ目から顔を覗かせる瞬間を狙うもの。基本的には辛抱強く耐える性格であることがわかりますが、それでも共食いをすることがあるという事実から、過酷な環境で生きる肉食獣の獰猛さをうかがい知ることができるでしょう。
ただ飢餓状態でない時は、他の個体にも寛大で、マッコウクジラの死体などの大きな獲物がある場合は分けあって食べたり、子育て中のメス同士がお互いの子を遊ばせたりする様子などが確認されています。
ホッキョクグマの毛は、密集した上毛と下毛のダブルコート。光を反射して白く見えますが、実はすべての毛は透明で、さらに上毛はストローのように中心が空洞になっているのです。この仕組みによって断熱性が高まり、体内の熱が外へ逃げないようになっています。
また皮膚は黒い色をしていて、太陽の熱を吸収しやすくなっているのです。狩りなどで体を動かした後は体温が上がり過ぎ、冷やすために氷に体を擦りつける姿を見ることができます。
動物園などで、体毛が黄色くなっているホッキョクグマを見かけることがありますが、これは上毛の空洞部分に汚れが入りこんでいるから。野生の環境下では、空洞部分に藻が入り、緑色となっている個体もいます。
彼らの獲物の90%はアザラシです。1頭を食べることで1週間は生きていけるといわれています。ホッキョクグマのパンチは一撃でアザラシの首の骨を折るほどのパワーがあり、氷が張っている冬の間におよそ40~50頭も食べるそうです。
また防寒のために分厚い脂肪を蓄えていて、それが鎧の役割も果たしているので、氷の上では食物連鎖の頂点にいるイメージがあるかもしれませんが、北極海ではシャチに捕食される姿が確認されています。
シャチがホッキョクグマを狩る際は、突進して氷上に体を乗り上げた後、上半身を大きく振って海に突き落とします。その後水中で後肢に噛みつき、溺れさせてから襲い掛かるそう。ホッキョクグマも泳ぎは得意としていますが、シャチが相手だと勝ち目はないようです。
ただシャチにとっても、氷上に突進する際に目測を誤れば死に至る可能性もあるため、命がけの狩りだといえるでしょう。
- 著者
- アンドリュー・E. デロシェール
- 出版日
- 2014-10-25
北極の海洋生態系を紹介しながら、ホッキョクグマの生態や、彼らを取り巻く過酷な環境について紹介している作品です。
共通の祖先を持つグリズリーと比較したり、クマ類の進化の歴史を紐解いていったりと、彼らと関わりのある他の動物についても学ぶことができます。
また餌となる動物についても紹介されていて、たとえばタテゴトアザラシがホッキョクグマを欺くために死んだふりをすることや、同じアザラシを主食としているセイウチと無駄な争いをしないために餌場を分けていることなどがわかります。
写真も多用されていて、彼らのリアルな暮らしを感じることができるでしょう。
- 著者
- ノアバート・ロージング
- 出版日
- 2010-04-19
一組のホッキョクグマの親子に焦点をあて、美しい写真とともに彼らの暮らしを追いかけた一冊です。
ふわふわの小熊が母熊に甘える様子などはなんとも可愛らしいですが、それだけでなく、肉食獣としての逞しさや、母熊の子熊に対する愛情などに心動かされます。
絶食状態で出産をし、授乳を続けながら小熊を連れて歩く母熊。痩せ細った体で自分よりも大きい敵に立ち向かう姿や、緊張を強いられていても小熊に付きあって手遊びをする姿には、尊ささえ感じるでしょう。
そして忘れてはいけないのが、彼らを苦しめている最大の原因が、人間だということです。北極圏の自然を守るために、我々ができることは何なのか、考えなければなりません。