よく晴れた空の下、本片手にお酒飲む。朝からやってる居酒屋の片隅で、本片手にお酒飲む。これどちらも立派なリア充。飲んだらもう、その日は使い物になりません。これ以上贅沢な時間の使い方がありましょうか。
外が明るいうちから飲むお酒は、なんであんな楽しいんでしょうか。
ひとくちお酒飲んじゃったら、その日はもう、閉店ガラガラ。祝祭感と、罪悪感と、日常から少し踏み外した、高揚感。だってしょうがないじゃない、飲んじゃったんだもの。車の運転も、仕事も、まともな思考も、もうできやしないんだもの。うえーい、一日棒に振ってやったぞ、ざまあみろ。あとは楽しく本読むくらいしか。うえーい!
みたいなね。脳内パリピが、大暴れ。
休日の昼下がり、窓辺に座って、本読みながらグラス傾けるのもすてきですが、朝からやってる居酒屋だと、平日朝9時だというのにひとりホッピー飲みつつ文庫本読んでるおじさんがカウンターにいたりして、ああ、いつかあんな飲み方がしたいものだと、常々憧憬を抱いておるのですが。
あれ、実際問題、お酒飲みながら読むのって、本選ぶのな。というのも、先ほど申しましたとおり、お酒飲んだら多かれ少なかれ、まともな思考はもうできませんのでね。
たとえば、それがミステリーだったとして。読んでる2時間はそれはもう楽しいが、翌日、あれ、結局犯人は誰だったんだっけな? 伏線も何もあったもんじゃないですよ。なんだったの、あの2時間。なんて純粋な、時間つぶしであることか。初めて読む気持ちでまた読める、という点ではとてもコスパがいいけれど。
気ままなひとり暮らしの頃はそれでも、そのように、あまりある休日をこれでもかこれでもかと、滅多矢鱈と棒に振りまくってやったものですが。
お子をもってからは、そんな贅沢な時間のつぶし方、まずもって不可能っすわ。お子のすきを見ては、途切れ途切れに本読むので精一杯。お子を寝かしつけてからあらためて、飲みつつ読む? そんな体力、一日の終わりに残ってっかよ。飲んだら即バタンキュー(死語)だ。
……は! 保育園、に行ってる間、なら可能なのでは。洗濯物やら、義父の昼食やら、夕食の買い物と準備やらを、前日のうちに段取りしておけば!
朝9時に送ってから夕方4時前のお迎えまで。本読みながら酒飲んで~、回復のために少しお昼寝して~、お迎えの後そのまま公園で遊ぶのにつきあって~、晩ごはん作って~、風呂入れて~……ごはん食べさせて……またちょっと遊んで……歯磨いて……寝かしつけて……。
考えただけでしんどいわ!
だいたい、計画的な昼飲み、ってなんだ! 昼飲みの醍醐味は、もっとダメな、背徳的喜びだろうが!
では、お酒とともに楽しみたい本をご紹介。
- 著者
- レイモンド・チャンドラー
- 出版日
ここは、個人的な独断と偏見で、村上春樹・訳「ロング・グッドバイ」ではなく、清水俊二・訳「長いお別れ」で。
両者の比較云々はさておき、そもそも私にとってはここがハードボイルド界への入り口だったので、「ハードボイルドちゅーのはこういう文体じゃろ!」と脳に刷り込まれてしまっているのです。
私立探偵フィリップ・マーロウは、ふとしたことから酔っ払いのテリー・レノックスと出会い、友情を育むこととなる。ある朝、憔悴したテリーが拳銃を手にドアの前に現れ、メキシコ国境まで送り届けてくれとマーロウに頼み込み――。
やー、いまさらハードボイルドの傑作で、恐縮です。
私立探偵、主人公による一人語り、男の友情。ザ・ハードボイルド。マーロウの目を通して見た風景描写の明確さ・的確さと、ミステリーとしての面白さ、文学としての言い回しの面白さ、などなど、どこを何度読んでも、飽きません。
万一まだ読んだことがないという方いらっしゃったら、それはラッキー。いまからこれ読めるなんて。
それはさておき、この2人の友情の象徴的なアイテムとして、ギムレットが出てくるわけですが、もう、これ読んで憧れが強すぎて、お店で頼めません。ジンライムは頼めても、ギムレットはムリ! ムリムリ! 気恥ずかしくて!
「ぼくは店をあけたばかりのバーが好きなんだ。店の中の空気がまだきれいで、冷たくて、何もかもぴかぴかに光っていて、バーテンが鏡に向かって、ネクタイがまがっていないか、髪が乱れていないかを確かめている。
(中略)
静かなバーでの最初の静かな一杯――こんなすばらしいものはないぜ」
かっこいいなあ。素敵だなあ。
大人になったらきっと、日常的にこういうバーに行くようになっているのだろうなあと、初めて読んだとき20代前半の私はぼんやり思っていましたが、気づけば40代半ば、すっかり大人区分ですが、バー、行かねえな! 居酒屋ばっかだな! なんで!
開店直後の居酒屋入って「とりあえず生ひとつ!」と大将に言うのとは、何かが決定的に違っている。いや、それはそれで大好きな瞬間なんだけど。
「ギムレットにはまだ早すぎるね」
これ、ギムレットだから、言えるのであって。
「ホッピーにはまだ早すぎるね」
いえいえ、朝から開いてる居酒屋だと、むしろ朝からホッピー。遅いくらいです。
永遠に手に届かない「概念としての大人世界」を内包しているからこそ余計、この物語に惹きつけられてやまないのであった。
中(なか)、おかわり!(ホッピーの)
- 著者
- ["沢野 ひとし", "椎名 誠"]
- 出版日
本の帯のコピーは「ビールが飲みたくなる本」。
椎名誠・沢野ひとしによるサントリーモルツの広告と、『本の雑誌』に掲載された新宿・池林房チェーンの広告をまとめた1冊。
サントリーモルツの方は、椎名誠によるビールにまつわるエッセイと、沢野ひとしによる叙情的なイラストとで構成されています。
移動中の新幹線で、駅弁とビール。島の防波堤で、釣り道具とビール。過酷な海外での長期取材旅行から戻ると、家の冷蔵庫できりりと冷えて待っているビール。
ごく短い文章ながら、ビールのある情景がさあっと広がります。
文章が「○○に乾杯だ!」で締めくくられているのが多いのが目につきますが、そこはそれ、広告なのでね。読んでいる側も「ですよね~!」つって缶ビールをプシュッと開けるのが、この場合の正しいコールアンドレスポンスでありましょう。
青い空、白い波、よく晴れた昼下がりの、黄金のビール。たまんねえなおい。
一方、池林房チェーンの広告のほうは、うーん、どう言ったらいいか、広告、というよりは、沢野ワールド。
形式はコピーとイラストだったり、4コママンガだったりですが、共通しているのは、何の宣伝なんだかわからないことです。店名と住所が載っているので、そしてやたら酒に関する表現が多いので、おそらく居酒屋なんだろうなあとは推測できますが、それでもだ。
鴨長明も朝五時まで飲んでいた店
なんだこのコピー。下に武士っぽい人が描いてあって、横に書き文字で
「いつもかたじけないのう」
いやいやいや。そういうことじゃなくて。
遊び心、とか、洒落、とかじゃないんだよな、なんだろうな、なにこれあはは~~と笑いつつも、え、このひとどこまで本気、酔っているの、いやそれとも……と一瞬狂気がチラ見えする感じが。沢野ワールド、やばいす。最高す。
中野俊一28歳、家庭画報編集部、今夜も大いに飲み絡む
そんで店名と住所。ね。意味わからんでしょ。でもなにかがじわじわと。
実際、椎名誠ほか『本の雑誌』付近の人々の文章にちょくちょく出てくるお店たちなので、『本の雑誌』を読んでる層にはもはやお店の説明は要らないのだろうけど。
残念ながら今は古本でしか手に入らないようです。もし見かけたらぜひともお手にとっていただきたい。
- 著者
- 絲山 秋子
- 出版日
- 2012-11-15
四十にして、今までやっていないことに挑戦しようということで始めた「一月一回一人キャンプ」。月刊誌・小説現代での企画連載です。
キャンプ場、海辺の浜、氷上、セネガルのバンガロー、友人宅の庭、などなど、いろんなところでテントを張り、焚き火をおこし、七輪で肉を焼き、だらだらと酒を飲み、思ったことをノートに書いていく。
たったひとりでいたいのだ。街にいたら味わえない、たったひとりを楽しみたい。
空は淡いばら色になった。こんなにゆっくり空を見るのは久しぶりだ。
七輪の火はいつおこそう。ランタンはいつ点けよう。わくわくする夜がやってくる。
怖くはない。怖いのは死体を埋めにくる人間や、ウソばかりつく自分自身であって闇じゃない。
回を重ねるうち、知り合いや友人が参加してお酒飲んだり、山菜採ったりしているけれど、基本夜はひとりでキャンプ、というのが決まりのようです。
ひとりでワイン飲んだり焼酎飲んだり日本酒飲んだり。酔って焼酎の湯飲みを三度ひっくり返したり。
周りがワカサギ釣ってる氷上で、デイキャンプ、とか。
文京区の講談社の敷地でキャンプしてたら、編集者たちが次々打ち合わせに現れ、なんだ、本人はキャンプのつもりが、編集者たちにとっては「絲山事務所講談社出張所」になってるぞ、とか。
なぜかいつもみたいに楽しくないなあと思っていたら、ふと気づけば、生きていないものの気配に囲まれていた夜、とか。
土地を買って、これから家を建てる場所でキャンプ、とか。
おもしろいなあ。全然サバイバルじゃなくて。日常からすこしだけ外れて、ぼーっとして、食べたいもの食べて、焚き火みて、お酒飲んで、寝る。そんで、また日常に帰る。
小学6年の時、集団登校のメンツでキャンプを企画して、一泊二日でうちの庭にテント張ってみんなで泊まったことをふと思い出しました。
あれ、ごはんとかどうしたんだっけなあ。うちでカレーとか作って庭で食べたんだっけな。普通の住宅地だったけど、急にあたりが非・日常空間に見えてきて、やたらめったら楽しかったなあ。
俄然、テントがほしくなってきました。
休日に庭にテント張るんだったら、昼飲みと家事と子育ては、両立できるかもしらん……!夢(と妄想)がふくらんだところで、ではまた来月。
やまゆうのなまぬる子育て
劇団・青年団所属の俳優山本裕子さんがお気に入りの本をご紹介。