喧嘩っ早くてヤンキー上がりの主人公が、流しのラーメン屋になって各地でトンデモラーメン勝負!?トンデモ設定のツッコミどころ満載なグルメ漫画に定評のある土山しげるの持ち味をふんだんに活かした作品『喧嘩ラーメン』は、食欲を刺激しつつ笑わせてくれる、実に愉快な作品です。 また、土山しげるによる初のグルメ漫画作品でもあるため、同作者のルーツを知ることも出来ます。今回は、そんな本作の魅力をご紹介します。
M市に存在するラーメンの名店「がんてつラーメン」。その店の店主の息子である主人公・源田義経(げんだよしつね)は、暴走族の総長で、リーゼント頭がトレードマークの青年です。
そんな彼は、ある日抗争の最中に、レディースの「女豹会」ヘッドであり、不動産会社を経営する暴力団組長を親に持つレミを連れ去った事をきっかけに、それまで興味のなかったラーメン作りに関わっていく事になります。
そして、「がんてつラーメン」の存亡を賭けたラーメン勝負を皮切りに、彼のラーメンに対する意欲はどんどん強くなっていき、ついに全国にラーメンを知るための武者修行へと出向くことになるのでした。
- 著者
- 土山 しげる
- 出版日
さて、土山しげる作品といえば、クセの強いキャラクターと、予想を超えたぶっ飛んだ展開が魅力の作品が多く存在します。
そんな中で、『喧嘩ラーメン』は、実は設定やストーリー展開などが、比較的正統派な印象を受ける作品です。(あくまで土山しげる作品としては、ですが。)
たとえば、主人公の義経。彼は暴走族の総長上がりのラーメン屋という破天荒さはありますが、やんちゃで喧嘩っ早く、けど義理と人情には厚い青年といった、まさに主人公らしい要素を持ち合わせています。
そんな彼が、行く先々で困っている人達を助けるためにラーメンを作り、時には心無い悪徳企業相手にラーメン勝負を仕掛けたりするのです。
加えて、グルメ漫画らしく、ラーメンを作る事にかけての情熱は人一倍で、行く先々でライバル達に負けじと、ラーメン勝負をして腕を上げていくことになります。
また、彼を取り巻く環境もきっちり王道を押さえているといえるでしょう。
父親は超頑固で融通が利かないけど、ラーメンについてはこだわりの強い一流のラーメン屋です。そんな父親の職人魂に惚れ込んだ取引先、義経個人にとっての凄腕ライバル、そして謎の評論家など、押さえておくべき設定と人物が数多く登場します。
こうした漫画の王道として読める作りになっているのは、土山しげる作品を初めて読む人にとっても安心の内容といえるのではないでしょうか。
王道展開を押さえた作りにはなっているものの、実は主人公の源田義経は、読者として好感の持てる人物とは言い難いかもしれません。
というのも、暴走族上がりとしての設定を強調したいためかもしれませんが、作中でも随所で暴力沙汰を引き起こすのです。明らかに制裁を受けて当然の悪役はもちろん、ちょっと気に入らない相手や、時には味方との口喧嘩の最中に手が出るなど、ありとあらゆる場面で喧嘩をします。
また、ルールを守らず、自分の信じた道のみを突っ走る気もあり、人によっては、あまりにもナチュラルに振るわれる暴力や無軌道なパワーに、抵抗がある人もいるかもしれません。
また、義経自身の心理描写などもあまり詳細に描かれることはなく、感情移入がしづらいというのも、主人公としての好感度が低いといわれる所以かもしれません。
この辺りが、土山しげるらしい独特の感性によって描かれたがゆえのものといえるのではないでしょうか。
グルメ漫画らしく、作中に登場する人物達は皆、それぞれの作るラーメンに誇りを持っています。ですが、その作り方がまた特徴的というか、独特なのも本作の面白いところだといえるでしょう。
たとえば、ラーメンの湯切りの仕方としても、源田流ともいえるものがあります。なんと煮えるお湯の中に手を突っ込み、素手で湯切りをするのです。
これは、義経の父親から引き継がれた手法として作中に登場するのですが、よくよく考えると素手でラーメンを湯切りする必要性がいまいちよくわかりません。実際のラーメン屋で、素手で湯切りをしているお店は見たことがありませんし、何より火傷と隣り合わせのリスクが高すぎるように感じます。
しかし、作中はそんなツッコミたい気持ちを、とにかく勢いで押し切るスピード感に満ちているため、気にせず読み進めることが出来るのです。
謎の評論家ポジションとして登場する、円城寺(えんじょうじ)についてご紹介しましょう。彼は作中でも度々登場し、フラッと現れては義経を含むラーメン屋のラーメンを次々と食していきます。
そんな彼は、美味いラーメンを食べる時におこなう所作が印象的です。その名も「まくり食い」。とはいっても、「食べる価値がある!」と認めたラーメンを食べる時には、服の袖をまくる、というただそれだけのことだったりします。
しかし、そのまくり食いをされたラーメン屋は必ず繁盛すると言われている程、その評価基準は的確です。作中でのラーメンの美味い不味いを示すバロメーターとしての役割だといえるでしょう。
簡単な所作なので、思わずラーメンを食べる時に真似したくなってしまう辺りも、作品としての面白さといえるかもしれません。
主人公の好感度についてのご紹介でも述べましたが、本作はあらゆる場面で暴力描写があります。
義経はもちろん、悪役側や、味方陣営も遠慮なく暴力に訴えてくることが多いので、喧嘩に発展する事が日常茶飯事なのです。
もちろん、本作なりの味ともいえる部分なので、それも含めて楽しめる内容といえます。ですがツッコミどころとして、冷静に考えるとこれだけ物を壊したり、殴り合ったりする必要はあるのだろうかと考えてしまうのも事実でしょう。
こうしたところも含めて、笑いながら楽しんでいく作品といえるかもしれません。
本作には義経のラーメン修行などの過程を中心に、あらゆる悪役が登場します。対抗店のラーメン職人だったり、立ち退きを迫る悪徳業者だったり、その素性は様々。
しかし、共通しているのは、そのやり口が実に悪役らしく、遠慮がありません。たとえば、横浜の老舗ラーメン屋であった「濱龍」を義経が救済しようとした際などは、対抗店のオーナーが自店と名前が似ているという理由だけで濱龍を潰そうと画策します。
そして、その方法が自店の従業員に店主をひき逃げさせたりするなど、犯罪上等な手段だったりするのです。明らかに度を超えた方法なのですが、本作らしい勢いのおかげで、違和感にツッコミながら楽しむことが出来ます。
他にも、まるで世紀末の様な情け容赦のない方法が随所でくり広げられるため、読者を飽きさせることはないでしょう。
- 著者
- 土山 しげる
- 出版日
王道らしい作りではあるものの、やはり土山しげる作品としての勢いを存分に感じられる『喧嘩ラーメン』、いかがだったでしょうか。
笑って気軽に読めるところが魅力的な本作を、ぜひこの機会に一度手に取って頂ければと思います。