もっとも身近な昆虫のひとつである「アリ」。彼らの暮らしを紐解いていくと、そこには高度な社会性がありました。この記事では、生態や種類ごとの特徴、「働きアリの法則」、巣の構造などをわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
ハチ目アリ科に分類される昆虫で、人家の近くに巣をつくることも多く、人間にとってもっとも身近な昆虫だといえるでしょう。
大きな群れを形成してくらす社会性があることでも知られています。繁殖のために産卵を担う女王アリ、育児や食事調達を担う働きアリなどの役割がありますが、実はもともとは同じ遺伝子をもって生まれてきたもの。豊富な栄養を与えられると女王アリとして成長し、そうでなければ働きアリになるのです。
女王アリの寿命は10~20年と長生き。一方の働きアリは数ヶ月で死んでしまうこともあります。
コロニーが大きくなると、新女王アリが誕生。繁殖期に一斉に巣から旅立ち、交尾のために雄と「結婚飛行」をおこないます。
これは空中で飛びながら交尾をするもので、その後雄はすぐに死んでしまいますが、新女王アリは体内に一生分の精子を貯蔵。地上に降り立って最初の産卵をし、巣穴をつくりながら子育てをしていくのです。
日本に生息する種類のなかで有名なのが、全国に広く分布しているクロオオアリでしょう。大型で見つけやすいので、小さな子どもが捕まえている姿も見かけます。
また日当たりのよい場所でよく見るのが、クロヤマアリです。花の蜜や、昆虫の死骸、アブラムシのお尻から出る蜜などを食料としています。
これらは身近で害も少なく、親しみやすい種類ですがなかにはずる賢くて凶暴なものもいるので注意が必要です。
もっとも危険なのが、世界の侵略的外来種ワースト100にも選ばれているアルゼンチンアリでしょう。他のアリの巣穴を見つけると襲いかかり、成虫幼虫問わず食料にしていきます。蜂や鳥の雛も襲う攻撃的な性格をしています。繁殖力が強いため、駆除するのはなかなか難しい害虫です。
クロヤマアリの蛹をさらい、羽化した後に自分たちの奴隷のように働かせるサムライアリという種類もいます。彼らは自分たちで子育てなどをすることはなく、餌を見つけてくることもないという、他の種に依存をした生き方をしているのです。
アリのコロニーのなかでもっとも多くを占めているのが「働きアリ」です。女王の身の周りの世話のほか、子育てをしたり餌をとってきたりしています。しかし皆一様に働き者なわけではなく、働きアリのなかでも猛烈に仕事をするものもいればサボっているものもいるのです。
そしてなんと、よく働くアリ:普通に働くアリ:怠けているアリの比率は常に2:6:2になるよう決まっていて、これを「働きアリの法則」といいます。
たとえば働きアリのなかでもよく働く個体を取り除くと、残った個体のなかからよく働く個体が出るようになり、自然と2:6:2の割合になるのだそう。またよく働くアリだけにしても、そのなかからサボる個体が出て2:6:2になります。
これは生き残るための戦略で、仮に全員が猛烈に働くと、短期的にみれば効率はあがるものの、疲れて動けなくなるタイミングが同じでやがて仕事が滞る時がくるそう。そうするとコロニーが存続できなくなってしまうのです。
サボっているアリは、一生サボったまま終わる個体もいるものの、一生懸命働いている個体が動けなくなった時には働きだすようで、労力の予備をあらかじめ所持しておくことがコロニーのために必要なことなのです。
アリの巣は地上から見ると小さな穴のようにしか見えませんが、その構造はどうなっているのでしょうか。
彼らの巣は、繁殖をする部屋、育児をする部屋、食料を貯める部屋など、いくつもの小部屋に分かれているのが特徴です。各部屋はトンネルでつながっていて、その構造は動線まで考えられて作られているそう。
これらの部屋は地上と繋がる縦の道から枝分かれし、横に伸びた通路の先に作られているので、たとえ雨が降ったとしても部屋に水が溜まることはほとんどありません。またそもそも植物や石の下に入り口を作ることで浸水の被害を抑えているほか、女王アリがいる重要な部屋は巣のなかでももっとも水が入りにくい場所に設置されています。
- 著者
- 丸山 宗利
- 出版日
- 2015-07-30
アリが行列をつくって行動する理由や、巣の中に溜め込んだ食料である種子を発芽させない方法など、不思議な生態に迫った写真絵本です。
小さい体のアリたちをアップで写した写真たちはどれも大迫力。見ているだけでも楽しいですが、添えられている解説は目からうろこのものも多く、大人でも新たな発見があるでしょう。実は日本だけで300種弱、世界をみると1万種以上がいるらしく、身近な昆虫なのにまだまだ生態としてわかっていないことも多いのだとか。
コラムや実験の解説なども載っていて、さまざまな楽しみ方ができる作品です。
- 著者
- 長谷川 英祐
- 出版日
- 2016-06-14
著書の長谷川英祐は、北海道大学で強弁をとる進化生物学者。実験から「働きアリの法則」を導きだし、話題を呼びました。
せっせと働く個体が疲れて動けなくなったら、これまでサボっていた個体が働きだす……働き者だけの組織よりも、働かない者がいる組織のほうが長続きをするといいます。これは人間社会にも当てはまるのでしょうか。
アリの生態から、同じく集団社会を形成している人間の行動基準を考えていきます。思わず身につまされるエピソードもたくさん。組織の在り方を考える一冊です。