一面に広がるサンゴ礁は「海の森」とも呼ばれ、我々の目を楽しませてくれています。ただ環境の変動によって、その姿を見れなくなっている地域も増えているのが現状です。この記事では、彼らの生態や生息地、ポリプ、白化現象などについて解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。
毒を注入する針をもっている刺胞動物門という生物のなかでも、固い骨格を発達させている種類です。
体内に「褐虫藻(かっちゅうそう)」と呼ばれる直径0.01mmほどの藻類を生やし、共生しています。この藻は太陽光を受けて光合成をし、そこから得られた栄養の大部分をサンゴに与えているそうです。その一方でサンゴは毒の針で藻を守り、石灰質の安全な住居を提供しています。
多くのサンゴが褐色や緑色に見えるのは、石灰質でできている共骨のあいだを埋めている半透明の共肉と呼ばれる部分に、褐虫藻がいるから。密度が高いほど、その色は濃くなります。
「サンゴ礁」と呼ばれる、群生したサンゴで成る地形を発達させるためには、塩分濃度が高く、綺麗な海水が必要です。アフリカや南米の沿岸では、大河が大量の土砂や淡水を海に運び込むため、発達しません。
日本では、伊豆諸島南部から小笠原諸島にかけてと、九州北部の玄界灘を北限に奄美諸島や沖縄列島などで見ることができます。生息地の合計面積はおよそ870平方キロメートルにもおよび、世界有数の生息地だといえるでしょう。
サンゴは、「ポリプ」と呼ばれる体の構造をもっています。一定の場所に固着して生活をするのに敵した触手を広げたもののことで、イソギンチャクのような見た目です。
このポリプがひとつでできているものを「単体サンゴ」、分裂などをくり返してクローンをつくり複数が集まっているものを「群体サンゴ」といい、なかでも外敵から身を守るために石灰質の骨格を形成している岩のようなものを「造礁サンゴ」と呼びます。
ひとつのポリプが持つ触手の数が6か6の倍数だと「六放サンゴ」、触手が8の倍数である場合は「八放サンゴ」と分類。
六放サンゴのポリプの代表的な形は、巾着状の袋の口が開いたようなものです。口の周辺に触手が並び、そこに刺胞と呼ばれる毒針がついています。
触手に触れたプランクトンを痺れさせ、口から体内に運び栄養を摂取。群体サンゴを構成しているポリプのうちのひとつが餌を食べると、その栄養分は同じサンゴを構成している他のポリプにも受け渡され、全体の栄養とすることができるようです。
多くのサンゴは雌雄同体で、ポリプの中で卵や精子をつくります。ただ体内で自分の卵と精子を受精させることはできないため、数個の卵と精子をつくり、直径約1mmの丸い形に固めたカプセルの中にいれて放出するのです。
やがて受精をすると、ほとんどの場合翌日には「プラヌラ幼生」という段階になります。鞭毛を使って自分で泳ぐようになり、海底の岩などにとりついてひとつのポリプをもつサンゴとなり、やがてはクローンをつくて群体をつくるようになっています。
互いに助け合って共生しているサンゴと褐虫藻ですが、極端な高水温や低温、強すぎる紫外線、低塩分などのストレスを受けると、褐虫藻が出ていってしまいます。
その仕組みは、光合成機能を失った褐虫藻をサンゴが排出する、または褐虫藻が鞭毛をはやして逃げ出すともいわれているようです。
サンゴから褐虫藻がいなくなると、透明な共肉の下にある石灰質の白い骨格が透けて見えてきて、これを「白化現象」と呼びます。
台風が少なく海水がかき回されない日が続いた時や、水温が上がった時などに発生するようです。また地球温暖化や、太平洋の海水温が上昇するエルニーニョ現象でも大規模な白化現象が確認されました。
褐虫藻から栄養をもらえなくなった場合、サンゴは自身の捕まえる餌のみで2週間ほど生きることができます。環境によるストレスが一時的なものだった場合は再び褐虫藻が戻り、白化から立ち直りますが、長期間続くとポリプが徐々に死んでしまうのです。
サンゴ全体のポリプが死ぬと、共肉が分解し、炭酸カルシウムでできた真っ白な骨格だけが残ります。やがてはこの骨格ももろくなり、崩れさってしまうのです。
昔話に登場する桃太郎が、鬼に勝利した場面。キラキラ光る金銀財宝とともに、赤い木の枝の形をしたものが描かれているのを見たことがないでしょうか。
一部の種類はその見た目の美しさから「宝石サンゴ」と呼ばれ、古代から指輪や、耳飾りなどの高級装飾品として扱われてきました。
日本では仏教の「七宝」のひとつにも数えられていて、極楽浄土の木々になっている説があるほか、正倉院の宝物のなかにもサンゴが含まれています。
またヨーロッパでは紀元前数千年前の新石器時代の出土品のなかに、装身具として用いられたとみられる破片が見つかっています。
ただ密輸や乱獲が問題となり、国際間の取引を規制する「ワシントン条約」に掲載されている種類もあるのが現状です。
- 著者
- 山城秀之
- 出版日
- 2016-09-13
著者の山城秀之はサンゴの研究を40年にわたり続けた人物。本書にはそんな彼の研究の成果がまとめられていて、生態や種類などを知ることができます。
カラー写真が多く美しいため、見ていて飽きません。多くの人を魅了してきたこともわかるでしょう。
その一方で、保全や人工繁殖の試みなどもしっかりと記してあります。実はサンゴの生息地は年間およそ14kmのスピードで北上しているそう。これは地球温暖化の影響だと考えられるようです。
石垣島や宮古島では白化現象が進んでいて、この美しい生物を守るために、人間がやらなければいけないことはなんなのか、あらためて考え直すきっかけになるでしょう。
- 著者
- 本川 達雄
- 出版日
- 2008-06-01
褐虫藻と共生しているサンゴですが、そのほかにもエビ、ウニ、ナマコなどさまざまな生き物たちと関わりあっています。お互いにどのような利益があるのか丁寧に説明されているのが特徴です。なぜサンゴが生息している場所には豊かな生態系が広がっているのかを、理解することができます。
ところが環境が変動し、この共生関係が築けなくなったために死滅してしまっているものが多いのが現状です。サンゴの生態を知り、そこから海を守る方法を考えられる一冊になっています。
また彼らのそばで暮らす魚は派手な色をしているものが多いなど、意外と知らない豆知識もたくさん。最後まで納得感を得ながら読める内容です。