欧米では人魚のモデルともいわれているマナティ。丸っこい体とつぶらな瞳がかわいらしいです。一方で、東洋で人魚のモデルといわれているジュゴンとは、どのような違いがあるのでしょうか。この記事では、彼らの生態や性格、食性、ジュゴンとの違いなどをわかりやすく解説していきます。あわせてマナティの魅力がたっぷり詰まったおすすめの写真集も紹介するので、ぜひ最後までチェックしてみてください。
海牛目マナティ科に属する海生哺乳類です。カリブ海に生息する「アメリカマナティ」、アフリカ西部海岸に生息する「アフリカマナティ」、アマゾン川に生息する「アマゾンマナティ」の3種類が現生しています。
3種は共通して硬質の皮膚と分厚い脂肪をもっていますが、いずれも防寒性は無く、水温が20度前後になると動きが鈍くなり。15度を下回ると死んでしまう個体もいます。そのため彼らは限られた水域にしか生息できないのです。
もっとも大きいのは、「アメリカマナティ」。体長は3~4mで、体重は200~600kg。水温が高い場所を求めて移動する習性があり、夏場は沿岸部で、冬場は河口や河川の下流域を好みます。淡水で生活をすることもできるそう。寿命は60年前後です。
「アフリカマナティ」は体長が2.5~4m、体重は200~600kgで、見た目はアメリカマナティとそっくり。西アフリカの沿岸にある河川に生息しています。寿命は30年ほどです。
「アマゾンマナティ」は、体長が2.5~3m、体重が350~500kg。南米アマゾン河流域の綺麗な水域に生息しています。上記2種が白っぽい体色をしているのに対し、こちらは青みがかかった濃い灰色の体で、腹部に薄いピンクや白の斑があるのが特徴です。寿命は30年ほどです。
温和で好奇心旺盛な性格をしていて、人間に対する警戒心もあまりありません。この性格を利用して、アメリカマナティの生息地でもあるクリスタルリバーでは、彼らと一緒に泳ぐことができるツアーが組まれています。保護に関心をもってもらうことが目的だそうです。
その一方で、物おじせず人懐っこい性格ゆえに、人間が操縦するボートのスクリューに巻き込まれて怪我をしてしまう個体が多いそう。また簡単に捕まえることができるため、肉や脂を狙って乱獲されてきた悲しい過去もあります。
このような背景から、1970年代には数百頭にまで数を減らし、絶滅を危惧されるまでになりました。ただ2017年には6000頭を超えるまでに回復し、現在は絶滅危惧種よりもランクを下げて「絶滅危急種」に指定されています。
草食性で、野生下では水草のみを食しています。しかし数百kgもある彼らの巨体を、水草だけでどのように維持しているのでしょうか。
通常の草食動物は、小腸の長さが大腸の2倍ほどあるのですが、マナティは反対に大腸の長さが小腸の2倍ほど。この長い大腸を使って効率的に栄養を吸収しているのです。
ただ水草以外のものを食べることができないわけではないので、水族館などの施設ではレタスやキャベツ、カボチャやニンジンなども与えています。
また彼らの歯は、すり減って小さくなった前の歯から順番に抜け落ち、顎の骨の奥から新しい歯が生えてくる仕組みになっています。新しい歯が空いたスペースにスライドしていくメカニズムは、マナティやジュゴンなどのカイギュウ類と同じ祖先をもつ、象にもあることで知られています。
同じカイギュウ目に属し、外見も似ているマナティとジュゴンですが、骨格は異なっています。
ジュゴンは緻密で堅牢、重厚なつくりをしていて、これは淡水域でも暮らせるマナティと、海水域でのみ暮らすジュゴンの大きな違いです。
ジュゴンが唯一食べる水草である「アマモ」は、熱帯海域の浅瀬にのみ生えています。水深1.5mほどしかなく、波が強い沿岸部で体が流されないようにするには、堅牢な骨格をもつ必要があるのです。また海底に生えている水草のみを食べるので、鼻面が下向きになっているのも特徴です。
さらに、尾びれの形も異なっています。マナティは丸みのある扇形であるのに対し、ジュゴンは半月型です。
どちらも象と共通の祖先をもっていると考えられていますが、ジュゴンの口には象牙のような牙があること、マナティの胸ビレには象のものによく似た爪が生えていることなど、同じルーツをもちながらも異なる進化をしていったことがわかるでしょう。
- 著者
- 福田 幸広
- 出版日
- 2007-09-28
動物写真家の福田幸広が、フロリダ州クリスタルリバーで撮影したマナティの写真集です。
カイギュウ目の動物はみな穏やかで人懐っこい性格をしているといわれていますが、本作を見ると、ここまで警戒心のない野生動物が存在するのかと驚いてしまうでしょう。
ダイバーの脚に抱きついたり、猫のように顎の下を撫でられて気持ちよさそうにしたり、長年の付き合いのようなリアクションを初対面の人間にも見せています。作者の福田自身も、さまざまな野生動物を追ってきたがこんな生き物は他にはいないと、断言していました。
作中で使われる「泉に落ちた天使」という形容にも納得です。愛らしい様子をたっぷり堪能してください。
- 著者
- 市川 和明
- 出版日
こちらもクリスタルリバーで暮らすマナティの写真集ですが、本作は人間とのかかわりではなく、マナティ同士や、他の生物とともに過ごしている様子を見ることができます。
親子が寄り添って泳ぐ姿、複数のマナティがもつれあって遊ぶ姿など、自然の表情がたくさん。透き通った美しい水と、その土地で生きる他の生物の姿も一緒に堪能でき、クリスタルリバーの魅力もわかる作品です。