歴史ものエンタテイメントで取り上げられる時代といえば? やはり花火のように命が燃えては消えていく戦国時代と、政治的・恋愛・日常系まで手広くカバーする江戸時代が多いのではないでしょうか。 では歴史ものは戦国・江戸だけ? もちろん、そんなことはありません。ドラマのない歴史なんてないのだから。 ということで、今回は時代と逆張り、戦国・江戸以外の歴史マンガをピックアップ。知らなかった歴史が見えてくるかもしれません。
- 著者
- 久松 文雄
- 出版日
- 2009-08-06
古事記は日本最古の歴史書ですが、あまり学校で習いません。正史じゃないとか色々理由はありますが、まぁ一番の理由は、性におおらかすぎ(現代の感覚で)だからでしょうか。何せ「きみの身体はどう?」「凹んでる」「おれは凸ってる。合体しようぜ」(イザナギ・イザナミによる国の誕生)とか、世界最古のストリップ(アメノウズメノミコトの踊り)とかですから。
とはいえ、日本の宗教・精神に多大な影響を与えているので、全然知らないのはキリスト教圏でいうアダムとイヴの部分がまるっと抜け落ちてるくらいヤバイはず。一般教養として、まずはマンガでカバーしておくのもいいのではないでしょうか。
私は部屋に大便をぶちまけるスサノオが好きです。
- 著者
- D・キッサン
- 出版日
- 2011-09-24
エリート貴族の亨(とおる)と、中流貴族の姫・チコ。偶然、面識のないまま文を交わし、思いを寄せるが・・・。
なんと最終巻まで顔を合わせないという、LINE世代が見たら発狂しそうな牛歩型ラブです。でもそのじれったさがたまらなく甘酸っぱくておいしい。加えて平安時代の行事や服飾、職業などがかなり詳細に、でもコメディテイストでライトに描かれており、重鈍さとは無縁の読みやすさ。なにせ怨霊がモンスターみたいに出てくるし、文使いの少年のチーム名をOROSHI(颪)にするセンスの良さときたら!
「フフフ」と「ムフフ」が両立した奇跡のバランスは、紫式部先輩も嫉妬するはず。
- 著者
- 萩尾 望都
- 出版日
神様、仏様、萩尾望都様。マンガ界のリビングレジェンドが、源頼朝と義経の物語を描いたとなれば、そりゃもう極上の仕上がりに決まってる!
兄弟はいかにして共に戦い、そして仲違いしてしまったのか。「少女マンガ?砂糖菓子みたいにふわふわしたストーリーなんでしょ?」と思うなかれ、血と狂気で冷や汗ダラダラ。背中に白糸の滝ができるぞ!
作中、義経を冷遇する頼朝はいう。
「あいつにはそんな知恵はない みんながわらわら権力をほしがってる中で 平家だけを追っている
まだ子供なのだ……」
歴史事実にだけでなく人物の思考のトレース力も凄まじい。
『あぶない丘の家』オムニバスを収録したこの1冊のなかで、頼朝と義経を描いているのがこの「あぶない壇ノ浦」。それ以外の話は歴史ものではありませんが、ページをめくる手が止まりません。
- 著者
- 樹なつみ
- 出版日
- 2015-03-05
『OZ』『八雲立つ』『花咲ける青少年』『獣王星』など、面白さ保証付きの作者が、とうとう歴史マンガを書いたとなれば読まざるを得ません。
ときは明治。
東京・築地の外国人居留地にある「フェリパン舎」で働く少女、西塔明は、謎の男=藤田五郎を紹介され、一緒に働くことになる。だが、その男こそ、かつて「壬生の狼」と恐れられた新選組・三番隊の隊長だった斎藤一その人であった。
…もう設定だけで、独自性が青天井。どうしたら斎藤一とパンが結びつくんだよ~、シナプスとニューロンの奇跡です。
原田左之助、永倉新八はもちろん、岩倉具視など明治の偉人が沢山出てくるので、日本近代史がこの作品で整理できます。もちろん、パンもおいしそう。いい男とパンに涎がとまらん作品。
- 著者
- 出版日
- 2016-09-30
『女帝』『夜王』の原作者・倉科遼が、文豪・永井荷風の人生を紐解くのですが、作中での女性への扱いが、現代と全然違いすぎてカルチャーショック。
親の金で遊郭に通っていたくせに、付き合ってる芸者を「どこまでも男に甘え、頼った人生を送ろうとしている。」とか、「抱きたいだけの女なのに、結婚を迫られたら地獄だぞ」という友人に「”若気の至り”で片がつくさ」とか言っちゃう!ヒュー!トランプ顔負け!!現代でも懐古主義の男性が多いのは、昔は女性をこんな風に扱ってもOKだったからなんだろうなぁ。
とはいえ、三島由紀夫が憧れ、谷崎潤一郎が師に仰いだ作家であるからして、どのように倉科氏が読み解くのか、これからが楽しみです。
- 著者
- 須本 壮一
- 出版日
- 2014-06-23
百田尚樹の第10回本屋大賞にもなった同作品をコミック化。元の素材が松坂牛みたいなもんなんで、ただ焼くだけでもおいしくなるよね~、と舐めてたんですが、どっこいマンガはマンガとして最高に仕上がっていたのだった・・・。須本先生すみませんでした・・・。
日本敗戦。石油販売会社「国岡商店」は莫大な借金だけが残り、もはや再生不可能と全社員が覚悟する。しかし店主・国岡鐡造は会社再生、そして日本再建にとりかかることを表明する。
読者の中に眠っている漢気をガンガンに煽り、高揚させる作品。まるで素晴らしいコーチングを受けたようです。エナジードリンクならぬ、エナジーリーディング。市井が混迷を極める昨今にこそ読みたい。
マンガは絵付きなので、当時の生活様式や建築物なども合わせて楽しむことができるのが魅力の一つ。もちろん全て物語としても一級品ですので、楽しみながら歴史に浸ることができます。
次に何を読もうかな?と思ったときに手助けになれば幸いです。