本作は、小学4年生のアオヤマくんが不思議体験をしながら成長をしてく物語。さまざまな未知との遭遇があります。この未知との遭遇を乗り越えて、アオヤマくんはどうなっていくのでしょうか。 この記事では、あらすじから結末まで解説いたします。どうぞ最後までご覧ください。
主人公は小学4年生のアオヤマくん。彼はたくさん本を読み、さまざまな研究をしていました。小学4年生で自分のことを、忙しいと言っています。
彼は父親とある約束をしていました。それは「毎日の発見を記録しておくこと」です。この言いつけを守り、彼は未知との遭遇をきちんと記録していました。
- 著者
- 森見 登美彦
- 出版日
- 2012-11-22
彼の最初の記録は、ペンギンと遭遇したことでした。街に突如としてペンギンが現れ、よちよち歩いていたのです。このことをきっかけに彼による、ペンギンハイウェイの研究が始まります。
ペンギンハイウェイとは、ペンギンが海から陸に上がるときに決まってたどるルートのことをいいます。街に現れた彼らはいったいどこから来て、どこに向かうのか。アオヤマくんは必死で研究を進めていくのです。
またあるとき彼は、クラスで力のあるスズキくんに、自動販売機に縛り付けられてしまいました。それを助けてくれたのが、歯科医院のお姉さんです。このお姉さんは誰かというと、アオヤマくんがよく訪れる「海辺のカフェ」で彼とよくチェスをする人物。彼と彼女は、とても仲がよい関係でした。
アオヤマくんを助けた彼女は、自動販売機の前でコーラの缶を投げつけました。そして投げつけられたコーラの缶は、空中で羽が生えてペンギンになってしまったのです。このように、不思議なことがいろいろと起こります。アオヤマくんは彼女のことも研究対象に加えました。
そしてまたあるとき、クラスメイトであるハマモトさんが研究の手伝いをしてほしいと言ってきます。その研究対象は学校裏の森にありました。そこには見たこともない不思議な球体があったのです。彼女はその球体のことを「海」と名付けて研究していたのでした。
海は拡大と縮小を繰り返しています。時々、プロミネンスという現象によって膨らみ、丸いゼリーのような海の分身を生み出していたのです。アオヤマくん達が研究を進めていくと、この海はペンギンに当たると消えてなくなってしまうことがわかりました。彼らは海を壊してしまうのです。
そして、もう1つわかったことがあります。お姉さんはペンギンだけでなく、「ジャバウォック」という生き物も作り出せることです。彼らはシロナガスクジラの赤ちゃんに、コウモリの羽根と、人間の手足が付いた奇妙な生き物。
アオヤマくんは、こう仮説を立てます。海は、神様が世界を作るときに起こったちょっとした失敗。その失敗作をなくすために、お姉さんは存在します。ペンギンを作りだし、海を破壊していくのです。
そして彼は、海と彼女が連動していることに気づきます。その現象から、彼女は海が作り出すエネルギーによって存在している人物ということがわかったのです。海の破壊を終えたら、海は消滅しますが、それと同時に彼女も消えてなくなってしまう、ということです。
そして、とうとうその日は訪れます。なんと、街から海が消えて……。
しかしその急展開から、最後にはペンギンや海、お姉さんの謎は解け、物語は静かに幕を閉じます。
本作は、アニメ映画化が決まっている小説です。声優を務めるのは、北香那さん、蒼井優さん、竹中直人さんなど、豪華キャスト。
その他にも、漫画化、文庫化もされています。また、お姉さんとアオヤマくんの関係が、おねショタとも呼ばれています。おねショタとは、お姉さん×ショタということの略称です。
- 著者
- 森見 登美彦
- 出版日
- 2008-03-25
奈良県出身の小説家。京都大学を卒業し、2003年に京都大学在学中に書いた作品でデビューをします。
そのデビュー作は『太陽の塔』という作品。日本ファンタジーノベル大賞や、山本周五郎賞など数多くの賞を受賞しています。
有名な作品に、『四畳半神話体系』や『有頂天家族』などがあります。どちらもアニメ化されている作品です。
森見登美彦のおすすめ作品を紹介した<森見登美彦のおすすめ作品ランキングベスト10!京都いち愛される作家!>の記事もおすすめです。
ペンギンハイウェイに登場する人物を簡単にご紹介します。
本作の謎のひとつが、お姉さんという存在。彼女は、一体何者だったのでしょうか。まずは、お姉さんに関する現象をおさらいしてみます。
海=命の源という考えから、彼女を母性の象徴として見ることもできるでしょう。海が完全に破壊されてしまうと、彼女も消滅してしまいます。そして、そうすると当然ながら、ペンギンもジャバウォックも作り出されないのです。つまり、彼女を海=命の源としてみたとき、私たち人間はペンギン、またはジャバウォックなのです。
この構図は、人間の生態系のメタファーといえるかもしれません。彼女は、この世の創造主といえる存在なのかもしれません。その主たる存在が作り出す世界の意味するものは、最後のセクションで考察させていただきます。
アオヤマくんはものすごく頭がよく、すべてを論理的に考えていました。しかし彼には、欠落していることがあります。それは、人の感情。彼は、スズキくんがなぜ、ハマモトさんに意地悪をするのか理由が分かりませんでした。
男の子であれば誰もが1度は経験したことがあるかもしれませんが、好きな女の子にはその逆の態度をとってしまうもの。それが一般的な男の子の姿でしょう。その姿を彼は合理的ではないと考えており、そのため理由が分からなかったのです。
しかし物語が進むにつれて、彼はどんどん内面的に成長してきます。それが最後のセリフである、「いつかえらくなってお姉さんの謎を解き、また会いにいく」に繋がるのです。
ここでの彼は、お姉さんには2度と会えないことに気づいています。しかし、このセリフを言いました。仮説でも論理的な根拠もありませんが、自分の感情を優先させたのです。彼はこの物語を通して、人間の大事な部分に気づいていったのでした。
本作にはさまざまな名言が登場します。そのなかから注目のものを、いくつかご紹介します。
「怒りそうになったら、おっぱいのことを考えるといいよ。
そうすると心が大変平和になるんだ」
(『ペンギン・ハイウェイ』より引用)
アオヤマくんのセリフです。とても小学4年生のセリフとは思えません。小学4年生にしてこの心理に気づいていることは、とてもすごいではないでしょうか。高尚に表現すると、母性の存在に気づき、その神秘なる力にも気づいているといえるかもしれません。
「他人に負けるのは恥ずかしいことではないが、
昨日の自分に負けるのは恥ずかしいことだ。
一日一日、ぼくは世界について学んで、
昨日の自分よりえらくなる」
(『ペンギン・ハイウェイ』より引用)
これも、アオヤマくんのセリフです。本作の裏テーマとして、人間の成長がテーマになっていると感じさせるような、重要なセリフです。
「大きな紙に関係のあるところをぜんぶメモしなさい。
ふしぎに思うことや、発見した小さなことをね。
大事なことは紙は一枚にすること。
それから、できるだけ小さな字で書くこと。
大事なことがぜんぶ一目で見られるようにだよ。
そのようにして何度も何度も眺める。
どのメモとどのメモが関係あるのか、いろいろな組み合わせを頭の中で考える。
ずっと考える。
ごはんを食べるときも、歩いているときも。
書いたメモが頭の中でいつも自由に飛びまわるようになる。
そしたら、毎日よく眠る」
(『ペンギン・ハイウェイ』より引用)
お父さんが、アオヤマくんに言ったセリフです。一覧化の重要性について語っています。ビジネス学にも通じる普遍的なことですね。
- 著者
- 森見 登美彦
- 出版日
- 2012-11-22
物語の最後で、お姉さんはいなくなってしまいます。海が消滅したからです。その時になってアオヤマくんは彼女のことが大好きだったと悟ります。しかし彼女がいなくなった要因の1つには、彼も関連しているのです。
不思議な体験しながら、彼は成長をしていきました。恋や愛といった頭だけで理解していた仮説や論理よりも、大事な大事な自分の気持ちにも気づいたのです。
本作では、ペンギンが海から陸に上がって成長してくように、主人公を通して、子どもから大人への成長の過程という普遍的なテーマが描かれているように感じられます。
アオヤマくんが20歳になるまで、どんなペンギンハイウェイを歩いていくのかは物語に描かれておりませんが、彼であれば、きっと立派な大人になっていることでしょう。