「幻の動物」ともいわれるユキヒョウ。ヒマラヤ山脈など、標高が高く厳しい自然のなかで暮らしているため、あまり知られていないのが実情です。この記事では、彼らの生態や性格、しっぽをくわえる行動の理由、保護活動などをわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
食肉目ネコ科ヒョウ属に分類される肉食動物です。アフガニスタンやインド、パキスタン、ブータン、モンゴル、ロシア、中国、ネパールなどの標高が高い山脈に生息しています。
体長は100~150cm程度ですが、しっぽの長さが80~100cmと非常に長く、体長の約半分を占めています。このしっぽは太さもあり、山の斜面や雪の上でバランスをとるのに役立っているそうです。体重はオスが45~55kg、メスが35~40kgほどです。
体毛は、背中が淡灰色や淡黄色で腹部が白く、腹部以外には黒い斑点が並んでいます。寒いところで暮らしているため、冬になると夏よりも2倍以上の長さに伸びるのが特徴です。また足の裏にも生えており、防寒や滑り止めの役割を果たしています。
主な餌は、草食の哺乳類や鳥類などで、場合によっては家畜を襲うこともあるようです。寿命は飼育下で12~15年ほどで、なかには20年以上生きた個体も報告されています。
人がなかなか踏み入ることができない、標高の高い険しい山のなかで暮らしているため、非常に警戒心が強いのが特徴です。
縄張りも広く、通常は単独で行動しているため、野生の個体に遭遇するのはかなり難しいといえるでしょう。
ただ飼育下では、大型のネコ科のなかでも人になつきやすいそうです。ライオンやトラなどと比べると、飼育員に寄り添っている姿を確認しやすいでしょう。中国ではイエネコと間違えてユキヒョウを育てていたというエピソードもあるほどで、実は人間にも甘えてくれる動物です。
ユキヒョウの特徴のひとつである太くて長いしっぽですが、険しい山の急斜面でも走って獲物を追いかけられるよう、重心の位置をコントロールする役割を担っています。
そのほか、体のデリケートな部分を覆い、マイナス20度にまで下がることもある冬の寒さを凌いでいる姿も確認されました。
生きるうえで大切なしっぽですが、動物園などで飼育されている個体では、自らのしっぽをくわえている姿を見ることができ、強靭な見た目とのギャップがかわいいと話題を呼んでいます。ただし、しっぽをくわえる理由については、個体数が少なく生態に関する研究が進んでいないため、詳細はわかっていません。
考えられる理由として、ひとつは「安心感」を得るためにくわえている、というのが挙げられるでしょう。そしてもうひとつは、「ストレス発散」のためではないかといわれています。
彼らは、本来は広い縄張りで生活をしています。施設の狭い檻の中で生活することにストレスを感じ、自らのしっぽをくわえる行動をとっているのかもしれません。
残念ながら、その美しい毛皮を狙った密猟者に殺されてしまうことが多く、個体数が全世界で4000~8000頭しかいないと推測されている絶滅危惧種です。また家畜を襲う可能性があることから、牧畜をしている人からは害獣として扱われています。
個体数が減少している理由に、自然環境の変化もあります。ユキヒョウが安定して生活していくためには、エサとなる草食哺乳類も安定して生活できる環境が必要です。しかし森林伐採などによって草食動物の数も減少しているため、その結果獲物が減り、ユキヒョウ自体も減ってしまっているのです。
保護活動として、密猟に対するパトロールの強化や、募金がおこなわれています。また彼らが家畜を襲えないようにするため、家畜の施設に工夫をする活動も各地で広がっているようです。
- 著者
- ピーター マシーセン
- 出版日
- 2006-02-01
作者は、全米図書賞を受賞したこともあるピーター・マシーセンという人物です。作家であると同時に探検家でもあり、彼の作品は心に訴える魅力があります。 本書では、ユキヒョウを求めて大自然のなかに踏み込む彼の心の葛藤などが繊細に描かれています。
前半は、仏教やヒンドゥー教などの宗教に関する話。作者の東洋思想への深い造詣を知ることができます。表紙のユキヒョウの後ろに描かれているのも、これらの思想と関わりの深いサンスクリット文字です。
後半は、動植物の観察や世界一高い山で生活をともにする山岳ガイドのシェルパたちへの想いなどが語られています。
作者とともに大自然の脅威と向き合うなかで、人生や生命について考えさせられるでしょう。果たして彼は、ユキヒョウに会うことができるのでしょうか。
- 著者
- 秋山知伸
- 出版日
- 2016-10-12
作者の秋山知伸は、動物写真家です。ユキヒョウを追い求め、7年間で3回の挑戦を試みました。マイナス20度の極寒の地で待ち続けること、なんと45日間。圧倒的な熱量を感じられるでしょう。
ついに出会った時の感動や、ユキヒョウが狩りをする様子を観察した描写は迫力満点です。
そのほかチーターやライオンなどネコ科の大型動物の写真や、野生動物に出会うまでのストーリーが描かれており、見ごたえのある1冊になっています。
厳しい自然のなかで生きているユキヒョウの姿を描いた2冊は、動物園で暮らしている彼らとは一味違う感想を読者に抱かせてくれます。本をとおしてぜひ追体験してみてください。